異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~
女神さまとデート(後編)
「この店の商品は全然ダメね……。表記されている素材と実際に使われている素材が違うのが気にいらないわ」
結論から言うと店の中にアフロディーテの目に留まる商品はなかったらしい。
この辺りが潮時か。
俺は店員に断りを入れて、店を後にすることを決意する。
「すいません。気に入った商品がないので俺たちはこの辺で……」
「お、お客さま! 少しお待ちを!」
出口まで移動した俺たちをスネリカさんは慌てた様子で引き止める。
「なによ? まだ何かあるの? アタシたちも暇ではないんだけど?」
「へい。お急ぎのところ恐縮です。しかし、お客さまは当店が特別に取り寄せたオススメの寝具をまだご覧になっていないようでしたので……」
「まだ分からないのかしら? アタシは商品ではなく……店そのものに興味を失っているのよ」
アフロディーテがここまで声を荒げるのは珍しい。
おそらく趣味である(?)ベッドで詐欺紛いの商売をしている男に対して怒っているのだろう。
う~ん。
まるで鉱石について語っているシエルだな。
ウチの女性メンバーは趣味のことになると熱が入るようである。
「そ、そうでしたか。それは失礼致しました。これから私が紹介する商品は、お客さまのようなカップルにピッタリの商品と存じていたのですが……」
ハッハッー! 残念でしたぁ!
俺たちは恋人同士ではありません!
そうとも知らずに愚かな男だな。
こんな売り文句でアフロディーテの興味を引けるわけが……。
「カ、カップル……ですって……!? そ、そこまで言うなら少しだけ見て行こうかしら……」
めちゃくちゃ興味津々だー!?
理由は分からないが、アフロディーテ『カップルにピッタリ』というフレーズに対してもの凄く食いついているようだった。
「へい。実を言うと今回、私共がオススメするベッドはマッドマッシュの胞子を混ぜ込んでいるんですよ。
これにより……どんな草食系男子も思うが儘! 女と見れば見境なく飛びつく絶倫の狼に変貌を遂げます!」
「……な、なるほど。それはたしかに効果がありそうね」
「ええ。このベッドは夜の営みが遠のいているカップルに対して絶大な効果を発揮するものなのですよ。今なら100回に渡る分割払いローンで購入することも可能になっています」
恐る恐る店員が勧める商品を見ると……値段は驚きの150万マルク!
ぐはっ! 冗談じゃない!
こんな商品に手を出したらあっという間に俺は借金地獄じゃないか!?
「騙されている! お前……騙されているって!」
店員が明らかにヤバそうな商品を勧めていることは明白であった。
「お客さま。私は今こちらの婦人と喋っている最中なので静粛にお願いできますかな?」
「そうよ! ソータは黙っていて! アタシはこの人と真剣な商談をしている最中なんだからっ!」
「ぐっ……」
手口は分からないが、アフロディーテを味方につけられてしまった。
こうなってしまったら手段を選んでいられる余裕はない。
「ディー。【こっちに来い】」
俺は魔物使いが使役した魔物に使うことができる『命令権』を行使すると、アフロディーテの体をギュッと抱き寄せた。
それも出来る限り情熱的に……。
女神さまの柔らかい体を貪るかのように抱擁した。
「~~~~ッ!」
ドクドクという心臓の音が聞こえるのが分かる。
俺だってそうだ。
アフロディーテのふわふわとした柔らかい体を前にして、これまでの人生の中でも最高潮にドキドキしている。
「お、お客様……? 一体何を……?」
この状況に対して唖然としたのがスネリカさんである。
そりゃそうだ。
誰だって目の前で男女が熱い抱擁を始めれば同じようなリアクションになる。
「必要ないです! 俺たちはそんな怪しいアイテムの力を借りなくてもラブラブなので!」
我ながら恥ずかしい発言であったが、背に腹は代えられない。
向こうが俺たちのことをカップルと勘違いしているのならば、それを利用させてもらうとしよう。
「……そ、そうですか。これは失礼しました。またのご来店をお待ちしています」
白昼堂々イチャイチャしているカップルの姿にドン引きしたのだろう。
敏腕店員であるスネリカさんもこれ以上は、俺たちのことを引き止めることもなかった。
~~~~~~~~~~~~
う~ん。
少し迂闊だったかな?
他に選択肢が見つからなかったとは言っても後から思い返すと、俺の行動は色々とリスクの高いものだった気がする。
これからは何か用があっても、あの店に入れそうにないな。
「すまん! アフロディーテ! もう暫くの間『ふかふかの天蓋ベッド』は我慢してくれよ」
「…………分かったわ」
俺に抱きしめられたことがそんなにショックだったのだろうか?
店を出てから暫くアフロディーテは「心此処にあらず」という状態でフラフラと俺の後ろを歩いていた。
「男の人の体って……あんなに堅かったんだ……」
それから遠征に向かうまでの間――。
どういうわけかアフロディーテは繰り返し独り言を呟くのであった。
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