異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~
魔族の屋敷
翌日。
勇者の家系であるガルドからの依頼を引き受けた俺は、噂になっていた屋敷にまで足を運んでいた。
「ここか……!」
街の外れにあるこの屋敷は敷地面積だけで言うのならばセイントベルの中でも最大規模のものであった。
「……本当に行くの? もし相手が本当に魔王だったら……今のソータなんて鼻息で吹き飛ばされるわよ……」
「うぅぅ……。なんだか自分も恐ろしくなってきました」
屋敷に着いてからというものアフロディーテ&シエルは、完全に怖気づいている様子であった。
う~ん。
二人に釣られて俺も不安になってきたな。
もしかすると本当に魔王が住んでいるのでは……?
そんな不安を抱いてしまうほどにこの屋敷は、おどろおどろしいオーラを纏っているように見えた。
「心配には及びません。確信したのですが……この屋敷から感じる魔力の気配は魔王さまのものではありません」
「……そうなのか?」
「ええ。この奥からは強い同胞の臭いを感じますから。たしかにそれなりに高位の魔族が住んでいるみたいですが……。ご主人さまの手にかかれば赤子も同然かと」
「…………」
前々から思っていたのだが……お前は少し俺に対する評価が高すぎるぞ。
キャロライナがいれば魔族が相手でも遅れを取ることはないと思うが、ここは今まで以上に気を引き締めていった方がいいだろう。
~~~~~~~~~~~~
問題の屋敷に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌に触れる。
長期間使用されていないのだろう。
廊下は埃にまみれており、天井には蜘蛛の巣が張っていた。
日中に来たから光が差し込んでいて見通しが良いが、夜に訪れていたら完全にホラーになっていたような気がする。
「……どうやらこの屋敷の持ち主は筋金入りの骨董マニアのようですね」
「そうなのか?」
「ええ。あそこに置かれているツボも、向こうの窓に置かれている花瓶も、それなりに値が張る品になっています。ギルドに持っていけばそれなりの額で買い取らせることが出来るしょう」
「…………」
おいおい。
そんな高価な品を放置していいのかよ!?
屋敷に関する謎は深まるばかりである。
「……これは!?」
興味のあるものを見つけたのか、キャロライナは俺に断りを入れてから屋敷の廊下を走り始める。
キャロライナが駆け付けた先にあったのは本棚だった。
「……驚きました。この本棚の中にある古書はどれも一級品ばかりですね」
「それはキャロの要望にあった『古今東西の本が集められた書庫』を叶えられるレベルなのか?」
「ええ。これほどのものであればボールの中にいても暫く退屈をせずに済みそうです」
「…………」
どうする?
ボールを投げて本棚ごとゲットしてしまうという手も無きにしも非ずである。
いや、もう少し様子を見てから考えるか。
後々トラブルに巻き込まれないためにも、屋敷に関する情報を集めてからでも遅くはないだろう。
~~~~~~~~~~~~
どうやらこの屋敷は俺の思っていた以上に広かったようである。
1階のフロアーを探索するだけでも30分近く時間がかかっている気がする。
これが2階、3階と続いていくと思うと流石に気が滅入ってくるな。
1階の探索を終わらせた俺が2階の階段を上がろうとした直後であった。
「ご主人さま。気を付けて下さい。この通路の奥から敵の気配を感じます」
「……もしかしてさっそく例の魔族が?」
「いえ。おそらくその眷属のようですね」
暫く歩くと、前方から無数の人影が浮かび上がる。
グール 等級E LV15/15
生命力 118
筋力値 82
魔力値 15
精神力 10
スキル
なし
ぐええええ……。
こんなモンスターもいるのかよ……。
見ているだけで戦う気が削がれる感じだな。
グールは人間の腐乱死体がそのままモンスターになったかのような生理的嫌悪感を催す姿をしていた。
その数は3体。
遠くからでもそのモンスターの体から漂う、腐った卵のような臭いを嗅ぎ取ることができた。
「うぅ……。不気味な魔物ねぇ……。ソータ! 早くやっつけてしまいましょうよ」
「分かっている」
相手がどんなにグロテスクな外見をしてようと関係ない。
こちらには一撃必殺のカプセルボールがある。
俺が腕を振りかぶってカプセルボールを投げようとしたタイミングであった。
「ちょっと! ソータ! 正気!?」
寸前のところでアフロディーテに止められる。
「……どうして邪魔をするんだ?」
「あのね。アタシだってあんまりこういうことは言いたくはないんだけど……。そのボールの中はアタシだけではなく、キャロとシエルちゃんの生活空間なのよ?
その中にあんな気持ち悪いモンスターを入れるなんて……どういう神経しているわけ!? 認められるはずないじゃない!」
おいおい。
そんな個人的な事情が認められるはずないだろう!
と言ってやりたい衝動に駆られるが、気持ちはまあ分からないでもない。
俺だってグールと一つ屋根の下で同居しろって言われたらブンブン首を振るだろう。
仕方がない。
今回ばかりはアフロディーテの意見を尊重して普通に戦闘することにするか。
「「「ヴゥゥゥゥゥ」」」
そうこうしている内に3匹のグールが俺たちに接近する。
ぬぅ……。
これはどうしたものか……。
おそらく1番手っ取り速い方法は、アダマイトゴーレムを召喚して掌で押しつぶすことなのだろう。
でもなぁ……グールが肉片になって潰れる姿は可能な限り見たくない。
夢に出てきそうなトラウマを植え付けられてしまいそうである。
「ソータさん。こんなこともあろうかと……用意してきたッス!」
俺が頭を悩ませていると、何処からともなくシエルはグルグルに布が巻かれた棒切れを取り出した。
「これは……?」
真紅の魔剣 等級 A
(アダマイト鉱石で作られた魔剣。使用者の魔力を込めることで衝撃波による中距離攻撃を可能にしている)
「それは自分が打った武器です! ソータさんのアダマイト鉱石を貰ってから……時間をかけて作った拘りの逸品ッス!」
そこでシエルが取り出したのは、先日手に入れた『アダマイト鉱石』で作った魔剣であった。
いやいや。
俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて……。
どうしてこのタイミングで俺に渡したか、ということなんだけど!?
「ささ! ソータさん! 自分の作った魔剣でサクッとグールを蹴散らして欲しいッス」
「…………」
シエルの眼差しは俺が戦ってくれると信じて疑わないキラキラとしたものであった。
えっ!?
どうして俺が戦うみたいな流れになっているの!?
絶対に嫌だよ。
何が悲しくてあんなグロテスクなモンスター相手に近接戦闘を仕掛けなければならないのか。
「それは良いアイデアね! ソータったら何時も戦闘を他人任せにしているわけだし……たまには自分で戦って経験値を積んだ方がいいんじゃない?」
なんだろう。
言われていることは正論な気がするのだが、お前にだけは言われたくないぞ。
「ご主人さまの勇姿を見ることが出来るとは……光栄です!」
ちょっと待て。
俺としては『この程度の相手、ご主人さまの手を煩わせる必要はありません』とか言われることを期待していたのだが……。
どうしてそこでキラキラとした眼差しを向ける!?
畜生!
お前ら……そんなにも俺が戦っている姿を見たいのかよ……。
「うおおおぉぉぉ!」
ここまで言われたら男として期待に応えないわけにもいくまい。
俺は半ばヤケクソになりながらも、魔剣を手にしてグールの集団に向かって突っ込んでいくのであった。
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