異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

魔族狩り



「妾は元々、セイントベルの街からずっと東の集落で暮らしていたのじゃが……。忌々しい『魔族狩り』の連中が大挙として押し寄せて……妾の住処を滅茶苦茶に荒らしていったのじゃ。おのれ……許すまじ! 人間どもめ! 奴らのせいで妾は住む場所を追われているのじゃよ」

「…………」

 魔族狩り。
 それは金銭を目的として魔族を討伐する集団のことである。

 強大な魔力を持ちながらも人間を憎んでいる魔族たちは、国から莫大な報奨金が掛けられている立場にある。

 そういう事情もあって魔族たちは人間たちに命を狙われることが多いらしい。

 今にして思うと、俺に依頼を持ち掛けた勇者ガルドも『魔族狩り』という括りの中に入るのかもしれない。


「そして妾は、新しい住処としてこの屋敷を見つけたのじゃ。どうやらこの屋敷は前の持ち主が病死して以来……新しい買い手が見つからなかったようじゃからのう」


 となるとこの屋敷は……何処かの店で売りに出されているわけか。

 ちなみにユウコが墓地をうろついていたのは、新しい眷属を生み出すための素材を探す目的だったらしい。

 レイスという種族は、人間の死体から『ヒトダマ』・『グール』なんかを生み出すことが出来ることができるのだとか。


「ちなみにその……屋敷に侵入してきた冒険者たちの始末ってどうしているんだ? もしかして殺したりしていないよな?」

「ククク。不届きものたちなら傷一つ付けずに丁重にお帰り願っとるわ。もっとも……二度と攻めてこられないようグールたちを使ってトラウマを植え付けているがの」

「…………」


 これで俺がユウコのことを咎める理由はなくなった。

 どうしたものか。
 キャロライナに頼めばユウコのことを屋敷から追い出すのは簡単だろうが……流石にそれは可哀想だよな。

 ……かと言って、このままユウコのことを放置しておくのもまずい。

 冒険者たちの間では屋敷の中に魔族が住み着いていることが有名になっているみたいだし、何時かユウコのことを脅かすような『魔族狩り』の人間が現れてもおかしくはないからな。


「これはラッキーだぜ! どんな魔族が住み着いている思えば……まさか相手はガキ1人だったなんてな!」 


 噂をすれば影である。
 声のした方に目をやると、武器を携えてドヤ顔をしているイケメン勇者の姿がそこにあった。


「……ガルドさん? どうしてここに?」


 尋ねると、ガルドは鞘から剣を抜いて高笑いを始める。


「ハハッ。まだ分からねえのか。お前は魔族討伐のための捨て駒としてボクに利用されていたんだよ!
 本当はお前が魔族と戦っているところで一網打尽にしてやろうと思っていたのだが……状況が変わった! 相手が小娘と分かれば魔族と言えども恐れる必要はねえ! お前たちはこの場でボクたち魔族狩り……《薔薇の宴》が成敗してくれよう!」

「…………」


 ここまで来るといっそ清々しいくらいの三下台詞であった。

 なるほど。
 仕事を引き受けたときから多少のリスクは覚悟していたのだが……こういう風になるわけか。

 どうして俺はこんな奴に騙されてしまったのだろう。
 一時でもガルドの口車に乗ってしまった自分が恥ずかしくなってきた。


「ご主人さま。このゴミの始末は私にやらせて下さい。10秒もあればまとめて掃除して見せます」

「……いや。ダメだ」


 俺以外の人間に対しては、ビックリするほど冷たいキャロライナのことである。

 ここで彼女に任せてしまうと、かなりの確率でガルドたちのことを皆殺しにしてしまう気がする。

 いくら相手が悪人とは言っても命を奪うようなことはしたくない。

 俺が目指すのは皆笑顔になれるWIN-WINの世界だからな。


「召喚……ゴブリンナイト!」


 ここで俺がチョイスした魔物はゴブリンナイトである。
 ガルドたちの相手は『強過ぎず、弱過ぎず』くらいの魔物で挑むのが最善だろう。

 アダマイトゴーレムを使れば一瞬で倒せそうな気はするが、流石にそれは過剰戦力な気がする。


「へぇ。噂には聞いていたが……本当にキミは魔物使いだったんだね。ハハハッ! そんなゴミ職業でよくレイスを倒せたもんだ!」


 おうおうおうおう。
 随分と立派なフラグを立ててくれるじゃないか。 

 やはりアーテルハイドにおいて『魔物使い』という職業は、ハズレ扱いを受けているらしい。

 今の俺の力も偶然手に入れた《絶対支配》という加護&アフロディーテを使役して大量の経験値をゲットした結果だからな。

 普通の魔物使いは多くても3匹くらいしかモンスターを使役できないと聞いたことがある。


「……さてと。信愛なるソータくんに対してここでクイズを出そうかな。ボクの元に集まった10人の兵隊とキミの味方をしている1匹のゴブリン。戦って勝利するのは果たしてどちらかな?」

「いや。誰もゴブリンが1匹とは言ってないないけど?」


 どれどれ。
 ちょっとこちらの戦力を見せて驚かせてやろうか。

 そう考えた俺はカプセルボールの中からゴブリンナイトたちを召喚していく。

 その数は総勢15匹。
 シエルの作った特製の武器を装備したゴブリン軍団は傍から見るとスゲー強そうだった。


「バカな……!? なんなんだ……この数は……!?」


 期待通りのリアクションありがとう!

 ガルドが驚くのも無理はない。
 実際15匹の魔物と契約するには150近いレベルが必要になるわけだしな。


「……グッ。問題ない! 数で劣っていようとも所詮相手はゴブリンだ! 質で勝る我々が遅れを取る理由はない!」

「「「おー!」」」


 ガルドの号令によって士気を高めた傭兵たちは一斉にゴブリン軍団に突撃していく。


「「「ゴブッ! ゴブゴブッ!」」」


 だがしかし。
 俺が予想していた以上にゴブリンナイトたちの戦闘能力は高かったみたいである。

 これもキャロライナから受けた厳しいトレーニングの賜物だろうか?
 ガルドが雇った兵隊たちは1歩、また1歩と後退していくことしか出来なかった。

 ん?
 全体であると優勢であることは間違いないのだが……よくよく見ると一か所だけゴブリンナイトたちが押し負けているところがあるな。


「ガルド様! お下がり下さい! この戦闘は閃光の剣闘士……ドモンが引き受けましょうぞ!」


 ドモン・バルドカッシュ
 性別 :男
 年齢 :35


 問題の部分に目をやると……そこにいたのは身長2メートル近いガチムチのオッサンであった。

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