異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

VS サラマンダー



 ダンジョン。
 ダンジョンである。

 ロストに連れられて入った洞窟の中にあったのは、そうとしか形容のできない光景であった。


「うおっ。マグマが剥き出しかよ……」


 やけに熱いと思っていたらドロドロのマグマが池のように広がっていた。

 懐かしいな。
 ゲームの世界では、マグマ床を踏んだらHPが減ったりするんだけど、今にして思うと不自然な設定だと思う。

 どう考えてもマグマの中に入ってしまうとHP減少程度では済みそうにない。


「こっちだ。カゼハヤ。クルル様はあそこある扉の向こうにいる」

「……お、おう」


 今回の探索は危険度が段違いなので無暗に大人数で動くわけにはいかない。
 そういうわけで俺・キャロライナ・ロストの編成で行動するつもりでいた。

 けれども、何故だろう。
 どういうわけか俺は猛烈にシリアスな雰囲気をぶち壊すアフロディーテのアホ面が恋しくなっている。


「ご主人さま! 上です!」

「…………ッ!」


 サラマンダー 等級C LV25/25

 生命力 318
 筋力値 272
 魔力値 215 
 精神力 153

 スキル
 ファイアブレス


 なんだ……!
 あの化物は……!

  キャロライナの注意を受けて視線を上げると、そこにいたのは体長5メートルを優に超えようかという巨大なトカゲのモンスターであった。


「グシャァァァアアアアアアアア」


 サラマンダーは門の上の天井に貼り付きながらも、奇声を上げて俺たちのことを威嚇する。

 なるほど。
 どうやら門を開けるためにはサラマンダーを倒さなければならない状況らしい。


「そうか。このドラゴンはクルルが俺たちを迎え撃つために用意した刺客というわけ」

「いや。それは違うぞ。カゼハヤ。このサラマンダーはステファニーと言ってクルル様のペットだよ」

「……ペット?」

「ああ。ステファニーはボクに懐いているから危害はない。何を隠そうボクは1年以上もステファニーの餌やり当番を担当したからな。安心するといい」

「…………」


 果たして本当に大丈夫なのだろうか?
 どう考えても向こうは俺たちに対して好意を持っていないように見えるのだが……。


「納得いかなそうな顔をしているな」

「うん。だって見るからに俺たちを敵視している感じだぞ?」

「チッチッチ。たしかに本来ならばステファニーは侵入者を決して逃しはしない。しかし、ステファニーはお利口だからな。一度匂いを認識した相手には危害を加えることはしないのさ」

「…………!?」


 なるほど。
 それなら安心……ってんなわけあるか!

 ロストが自信満々に大丈夫と言い張る根拠は、『匂いを覚えてもらっているから』だったのかよ!?

 たしかに以前のロストであればサラマンダーに襲われることはなかったのかもしれない。

 だがしかし。
 性転換して美少女の姿になったということは、匂いも自ずと変わっているんじゃないか?

 絶対にそうだろ!
 男の体と美少女サキュバスの体が同じ匂いなわけがない!

 俺が不安に思った直後であった。
 無謀にもロストはサラマンダーの元に近づいていく。


「ほ~ら。ステファニー。こっちに来てボクと遊ぼう。ボクたちはキミの味方だよ」


 ああ! ロストのバカ!
 そんな風に近づいたら絶対に……。


「グシャァァァアアアアアアアア」

「ぎゃあああああああああああ! 熱い! 熱い熱い熱いっ! 何故だ! 何故なんだステファニー!?」


 だから言わんこっちゃない!
 サラマンダーのブレス攻撃を受けたロストは地面の上をゴロゴロと転げまわっていた。

 ステータスがイマイチなロストをこのまま放置しておくのはまずい。
 道案内の役割も終わったことだしボールの中に戻しておこう。


「キャロ。飛んで行ってサラマンダーを叩き落とすことはできるか?」

「ええ。その、不可能ではないのですが……」


 妙だな。
 普段通りであれば「了解しました」と言って即座に行動してくれるキャロライナであるが、今回は歯切れが悪そうな回答であった。


「私が魔物化して全力で戦闘できる時間は1日に10分ほどが限界なのです。ここで魔物化を使用してしまうと後に控えているクルルとの戦闘が厳しくなってしまいます」

「あ~……」


 知らなかった。
 魔物化したキャロライナのステータスは破格だが、裏にはデメリットもあったんだな。

 ボスとの戦闘前の雑魚敵にMPを使ってしまうのは初心者ゲームプレイヤーが嵌ってしまう落とし穴でもある。


「……仕方がない。ならばこいつで!」

「ノコー!」


 そこで俺が召喚した魔物はマッドマッシュである。

 相手を発情状態にする『乱れ粉』を持ったマッドマッシュならば天井に張り付いているサラマンダーをおびき寄せることができるだろう。


「ノコー!」


 マッドマッシュのキノコ傘から放たれた『乱れ粉』がサラマンダーに向けられる。


「グシャァァァアアアアアアアア」


 だがしかし。
 サラマンダーの口から放たれたファイアブレスが乱れ粉を焼き払う。


「のこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「マ、マッドマッシュゥゥゥッ!?」


 サライマンダーの炎攻撃を受けたマッドマッシュを慌ててボールに戻す。

 あ、危ねぇ。
 あのファイアブレス……こんな遠距離まで届くのか。

 おかげで間合いは掴めたが、マッドマッシュのダメージが心配である。

 不安に思った俺はステータスを確認。


 カゼハヤ・ソータ

 職業  魔物使い
 レベル 576
 生命力 262
 筋力値 97
 魔力値 208
 精神力 2993

 加護
 絶対支配 

 スキル
 カプセルボール 鑑定眼 魔物配合 コンタクト 精神操作 スキルレンタル

 使役 
 アフロディーテ
 キャロライナ・バートン
 シエル・オーテルロッド
 ユウコ
 ロスト・トリザルティ
 ワーウルフ
 アダマイトゴーレム
 ケダマロ
 リザードウィング
 ゴブリンナイト ×15
 ライトマッシュ ×6
 キツネビ ×4 
 マッドマッシュ


 良かった。
 マッドマッシュの名前は残っている。

 間一髪のところで致命傷を逃れることが出来たらしい。
 後はカプセルボールのヒーリング効果で自然と元気になってくれるだろう。

 はぁ~。
 マッドマッシュが無事で本当に良かったよ。

 まだまだマッドマッシュを亡くすわけにはいかない。
 こいつの『乱れ粉』はスキルレンタルとのコンボで色々と面白そうなことが出来るかもしれないからな。

 ……。
 …………。

 そうか。分かったぞ!
 ここで俺はサラマンダーを撃破するアイデアを思いつく。

 ありがとな。マッドマッシュ。
 おかげで突破口が開けた気がするぜ。


「キャロはそこにいて俺を受け止めてくれ!」

「……はい?」


 本来ならばもう少し説明をしておきたいところだったが、そんなに時間を費やしている余裕はない。
 どのタイミングで次のファイアブレスが来るか分からないからな。

 俺はボールの中からアダマイトゴーレムを召喚すると、その掌の上に乗ることにした。


「いっけぇぇぇええええええええええ!」


 コンタクトのスキルを使って命令を送ると、アダマイトゴーレムは大きく腕を振りかぶって俺の体を放り投げる。

 さながら人間大砲となった俺はサラマンダーとの距離をグングンと縮めていく。


「グシャァァァアアアアアアアア」


 おっと。
 当然そう簡単には近づかせてはくれないよな。

 サラマンダーは大きく口を開けると、灼熱のブレスを浴びせにくる。


「ご主人さまっ!?」


 ふふふ。
 キャロライナは心配してくれているようだが、ここまでは俺の想定の範囲内である。


 火属性攻撃無効 等級A パッシブ
(火によるダメージを無効化するスキル)


 何を隠そう俺は『スキルレンタル』のスキルによりアダマイトゴーレムが持っている『火属性攻撃無効』を一時的に借りたのであった!

 うおっ!
 マジで熱くない!

 火の中にいるのに全く変化を感じないぜ。

 俺はファイアブレスを掻い潜ると、そのままカプセルボールを投げ上げる。

 まさか炎の中から無傷で出てくるとはサラマンダーも思わなかったのだろう。

 サラマンダーの巨体は見事に小さなカプセルボールの中に吸い込まれていくことになった。


(ギャアアアアアア! な、なんか来たわよー!)

(恐ろしいッス! でかいッス!?)


 その直後。
 ボールの中からアフロディーテとシエルの悲鳴が聞こえてきた。

 たしかにボールの中にいきなりサラマンダーが現れたらビビるよな。
 2人には後でキチンと事情を説明しておこう。


「うおっと。サンキューな。キャロ」


 流石はキャロライナ!
 この作戦の懸念点は落下ダメージが大きいということにあったのだが、キャロライナが対応してくれたおかげでダメージを最小限に留めることができた。

 この格好は……お姫様抱っこみたいで少し恥ずかしいが……。


(……気のせいでしょうか。なんだか最近……ご主人さまがどんどんとあの方に近づいているような気がします)


 抱きかかえられている最中、心の中から漏れ出したキャロライナの声を聞き取ることができた。

 いやいや。
 誰だよ『あの方』って!?

 毎度のことながらキャロライナは意味深な発言をするよな。

 こういうのは深く追及すると藪蛇な気がする。
 俺はサラマンダーを入れたボールを拾うと、そのまま奥の扉に進むことにした。


 サラマンダー
 図鑑NO 54
 種族  竜族
 等級  C
 レベル 1
 生命力 185
 筋力値 150
 魔力値 110
 精神力 95

 スキル
 ファイアブレス

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 竜族の中位種族となるモンスター。
 ブレス攻撃と驚異的な生命力が持ち味。
 レベルを上げることで飛竜に進化する可能性を秘めている。

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