異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

VS 竜王女3


 それから。
 勝負の行方はワンサイドゲームと呼ぶに相応しい展開になった。


「ンフゥ。そうよ。その顔よ! アテクシはずっと……アータのその絶望顔が見たかったのよ!」

「……カハッ」


 クルルが拳を打ち込む度にキャロライナは苦悶の表情を浮かべる。


「ご主人……さま……」


 クルルの力は絶対的でキャロライナに付け入る隙を与えない。

 かと言って頼みの綱のカプセルボールは風の鎧によって完全に無力化されてしまっている。
 その後、何度かボールを投げたが気を反らすことすら出来はしなかった。


「貴様! カゼハヤ! 何をやっている!?」 


 棒立ちしている俺に不満を募らせたのだろう。
 俺の胸倉を掴んだロストは怒りを露わにしていた。


「キャロライナ様がピンチだぞ! 早く得意の奇策を考えないか!」

「……もうやっている。けど、今回ばかりはお手上げだ。クルルを打ち破る作が全く思い浮かばねえ」


 そもそもにして基本のスペックからして違いすぎる。
 圧倒的な格上の相手に手の内まで読まれてしまっては打つ手なしだろう。


「……チッ。カゼハヤ……見損なったぞ。こうなったらボクが行く!」


 おいおい。
 自分のステータスを考えろよ!?

 あの2人の人外バトルに凡人のロストが入っていったところでプラスになることは1つもない。


「バカッ! 止めとけって!」

「知ったことか。男には……命を賭けてでも成し遂げなければならないことがあるのだ!」


 ロストの暴走を止めるために肩を掴んでいたタイミングであった。

 ピコーン! と。
 俺の脳裏にアイデアが閃くことになる。

 なるほどな。
 命を賭けて……か。

 この絶望的な状況を切り抜ける手段が見つかったかもしれない。


「ありがとな。ロスト。お前のおかげでクルルを倒す方法が分かったよ」


 考えてみれば簡単なことだった。

 もともと敵は圧倒的に格上の相手なんだ。
 そもそも正攻法でどうにかしようと考えていた間違いであった。


「ロストは俺の体を見ていてくれ」


 一発逆転を狙った俺が召喚したのはアダマイトゴーレムである。

 うおっ!
 精神操作でアダマイトゴーレムの体に乗り移ったのは初めてだが、思っていた以上に視線が高くてビックリするな。


「き、貴様――! カゼハヤ! 何を寝ているんだ!? 貴様が寝たら誰がキャロライナ様を助けるのだ――!?」


 突如として意識を失った俺を目の当たりにして、ロストはパニックに陥っているようであった。

 コンタクトのスキルで事情を説明することも出来るのだが、今は1秒でも時間が惜しい。


(うぉぉぉおおおおおおおおお!)


 アダマイトゴーレムに乗り移った俺はクルルに対して渾身のタックルを食らわせる。


「ンフゥ。ゴーレム? そんな雑魚モンスターに何ができるというのかしら」


 たしかに通常であればアダマイトゴーレムでは絶対にクルルを敵わないだろう。

 だがしかし。
 ステータスでは勝てなくても体のサイズならばクルルを上回っている。

 ダメージを与えることは出来なくても全体重を乗せてタックルすれば、クルルの体を動かすことくらいなら出来るはずである。


「なっ……」


 ふふふ。
 ようやく俺の狙いに気付いたようだな。

 俺の狙いはタックルでダメージを与えることではない。
 捨て身の攻撃で自分の体ごとクルルをマグマの中に突き落とすことであったのだ。


「チッ。この……離せぇぇぇえええええええ!」


 クルルの体に絡みつきながらもマグマの中にダイブすると、ジュウと身の焦げる音が聞こえてきた。

 ぬおっ。
 マグマの中って……こんな風になっていたんだな。

 炎の赤に染まった視界では何一つとして周囲を見通すことは出来はしねえ。

 だが、それでも構わない。
 とにかく今は目の前の相手を離さないことに集中すればいいのだから。


「ギャャャァァァアアアアアアア!」


 暫くするとクルルの悲鳴が聞こえてきた。

 どうやら俺の狙いは正しかったみたいだな。


 火属性攻撃無効 等級A パッシブ
(火によるダメージを無効化するスキル)


 火属性攻撃無効のスキルを持ったアダマイトゴーレムならばマグマの中に入っても自由に動くことができる。

 だがしかし。
 一緒に入ったクルルは別である。

 俺たちのステータス差はフィールドを変えることで逆転した!


「バ、バカなっ。アテクシが……いずれ魔王となるはずだったアテクシが……こんなところで……」


 炎の中にいるせいでクルルの表情を確認することは出来ない。
 しかし、彼女の言葉から驚愕と絶望の感情を読み取ることは容易であった。


 精神操作スキル……解除!

 本音を言うとサキュバスの胸の感触を味わっていたいところだったが、当然今はそんな余裕はない。


 地面に足を付けた俺は急いでマグマの傍に駆け寄りアダマイトゴーレムをボールの中に戻す。

 危なかった。
 あと少しでもクルルに粘られていたら、距離が遠すぎてアダマイトゴーレムをボールの中に戻すことが出来なかっただろう。


「カゼハヤ! 良くやったぞ!」

「ご主人さま!」


 命を賭けた戦いから解放されて安堵したのだろう。
 キャロライナ&ロストは俺の体をギュッと抱きしめた。

 ハハハハッ。
 この胸の感触を味わえるだけでも頑張ったかいがあったというものだろう。

 吸血鬼とサキュバス。
 長きに渡る激闘は2人のメイドのおっぱいに挟まれながらも幕を下ろすのであった。


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