異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

エピローグ ~ 師匠との別れ ~



「ソータくん。キミに対して正直に言うと、キミにはどんな言葉で感謝をすれば良いのか分からないよ」

 それから数日後。
 クルルのアジト探索任務に一区切りがついたリックさんは、約束通りに俺の家にまで足を運んでいた。


「これはクルルのアジトから出てきたアイテムを売って得たカネだ。受け取って欲しい」

「えっ。これ全部ですか!?」


 そこでリックさんが俺に差し出してきたのは、ズシリとした重量を感じる麻袋であった。

 少なく見積もっても1億コルくらいはあるのではないだろうか。
 リックさんから受け取った麻袋には大量の白金貨が詰められていた。


「ああ。本当はもっと高額になる予定だったのだがな。値打ちのある品をクルルの部下に持ち逃げされたのが痛かった。私が不甲斐ないばかりに申し訳ない」

「そうだったのですか」


 クルルのアジト探索をリックさん1人に任せたのは失敗だったのかな。

 そんなに沢山の宝がアジトの隠されていたのならば俺も参加するべきだったのかもしれない。

 ああ。そうそう。
 これは後になって分かった話なのだが、クルルのアジトには大勢の部下たちが待機していたらしい。

 キャロライナとのタイマンに拘るクルルが部下たちを退けてくれて助かった。

 クルルの部下たちが軍勢になって攻めてきたら流石に一溜りもなかっただろう。

 しかし、部下たちは金目の品を回収して逃げられてしまうとは……。。

 これもクルルの日頃の行い悪かったせいなのだろうな。


「キャロライナさん、と言ったか。申し訳ない! 貴方には本当に無礼なことしてしまった」

「…………」


 俺に報酬を渡した直後。
 リックさんはキャロライナに対して深々と頭を下げた。


「どうやら私は勘違いをしていたらしい。これまで私は魔族と見れば一方的に『悪』と決めつけて顧みなかった。
 しかし、ソータくんを守るためにクルルとの戦闘で引かない貴方を見て……考えを改めることにしたよ。魔族と言っても色々なタイプがある。
 悪と決めつけて斬り付けるような行為こそ……真の悪なのだと今回のことで痛感することになった」

「そうですか。ご主人さまの素晴らしさを少しでも分かって頂けたのなら何よりです」


 これは和解できたと判断して良いのだろうか。
 その辺り、キャロライナは基本的に無表情だから心が読めない。


「そういえばクルルを倒すことがリックさんの悲願だったんですよね? これからどうするんですか?」

「……私のすることは変わらないよ。クルルのような悪い魔族を野放しにしておくことは出来ないからな。セイントベルの街を出て魔族狩りの旅を続けると思う。
 差し当たってまずは私の所属する魔族狩り『蒼穹の弓』の本拠地がある『王都 ワンダラーク』に向かおうと思っている」

「分かりました。リックさんも頑張って下さい」


 王都。王都かぁ……。
 話に聞いた感じだと『王都 ワンダーラーク』は飛竜の山脈の東の、ずっと東に行ったところにあるらしい。

 1度くらいは行ってみたいけど亀車を使っても半日かかってしまうのが悩みどころである。


「シエル。お前は以前から王都に来たがっていただろう? 私の旅に同行するか?」

「えっ。ええええぇぇぇ!?」


 唐突に話を振られたシエルは戸惑いの声を漏らす。


「そ、その……な、なんというか……」


 リックさんの提案を受けたシエルはしどろもどろになっていた。

 ちょっと待て。
 シエルはウチのパーティーには欠かせない鍛冶屋である。

 相手がリックさんでも勝手に引き抜いていくことは許さないぞ!


「……ふふ。冗談だよ。お前が既に惚れていることは知っているからな」

「えーっと。誰が誰に惚れているんですか?」

「ソータくん。シエルのことをよろしく頼むよ」

「ちょっ。えっ。師匠ぉぉぉおおおおお!?」


 結局その言葉が最後となりリックさんは、俺たちの前から姿を消すことになった。

 なんだか最後にとんでもない爆弾を落として行った気もするが……深く掘り下げるのは辞めることにしよう。

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