異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~
DXゴブリン号
日が落ちて夜になったところで俺たちは、本格的にクラーケン討伐の作戦を立てることにした。
魔法によって潜水して探すパターンも考えたが、バーサクシャークに襲われた苦い経験もあるので出来れば避けておきたい。
水中での戦闘っていうのは、想像以上に不自由を強いられるものがあった。
「あ! それならボードを借りて探索するといいッスよ。たしか近くの漁村で貸し出しを行っていたはずッス」
「なに!? 本当か!?」
渡りに船という言葉は、まさに今回のシチュエーションのことを指すのだろう。
シエルの言葉を受けた俺は、さっそくボートを借りるために漁村に向かう。
どうやらここら一帯は、獲れた海産物をセイントベルの街に卸すことで繁栄してきた地域らしい。
タルゾフ・モンテス
種族 :ケットシー
年齢 :41
「あの……この店でボートを借りられると聞いて来たんですけど」
勇気を出してボート屋のオジサンに声をかける。
ボート屋のタルゾフさんは、頭から猫耳を生やしてはいるが、非常に強面の人物であった。
「あんちゃんは冒険者かい? レンタル用のボートならそっちの海に並べているよ」
「ありがとうございます」
タルゾフさんに案内された俺は、浮かんでいるレンタルボートを眺めてみる。
値段は1日、2万コル。
サイズは7人で乗るのは結構ギリギリになるくらいだろうか。
価格設定について文句を言うつもりはないのよ。
けれども、どうしても1つだけ腑に落ちない点があった。
「あの……どうしてボロボロのボートばかりなんですか?」
貸出用のレンタルボートは所々に穴があいており、継板で補強した箇所が散見されていた。
どれもこれも海の上に浮かんでいるのが不思議なくらいの状態である。
「ウチの船は、どれもこれもクラーケンにやられちまったのさ。まったく、おかげでウチは商売あがったりだよ。もしボートを壊したら、あんちゃんからも修理代として20万コル追加で払ってもらうからな」
なるほど。
考えることは、皆同じというわけか。
つまりこの惨状は、俺たちと同じようにボートを借りようとした冒険者が返り討ちにあった結果なのだろう。
「あっ! あっちに綺麗な船がありますね!」
並べられたボートの中に1つだけピカピカの船があるのを発見する。
全長は20メートルくらい。
こういうのガレー船っていうのかな?
学校の歴史の教科書で写真を見たことがあるような気がする。
人力+帆の力を原動力にするガレー船は、男心を擽るデザインをしていた。
「ダメダメ。あれは貴族のお偉いさんに売るために1年がかりで作った船だからね。貸出はしていないんだよ」
「……そうだったんですか」
当然と言えば当然か。
こんな立派な船を冒険者に貸し出したら、そのまま盗まれてしまいそうである。
さてさて。
どうしたものか。
クラーケン討伐のためにボートを借るというところまでは良かったのだが……。
ボロボロのボートでは、いつ沈むかが分からず不安が残る。
かと言って潜水魔法で海中から探索を行うのも何かと危険な気がするんだよな。
~~~~~~~~~~~~
それから1時間後。
俺たちの前にはピカピカのボートが用意されていた。
ふふふ! あはははは!
やってしまった!
結局カネにものを言わせて……あのピカピカの船を買ってしまった!
「いやー。驚いたよ。まさか、あんちゃんが……超の付くほどの金持ちだったなんてね。こう言うと気を悪くするかもしれないが……人は見かけに寄らないとはよく言ったものだ」
信じられないものを見るかのような眼差しを俺の方に向けるタルゾフさん。
タルゾフさんが驚くのも頷ける。
なんと言っても俺が購入した船の値段は、驚愕の1000万コル。
これは仕方がない。不可抗力だったんだ。
ケチってボロボロのボートを借りた結果、全滅なんてことがあったら悔やんでも悔やみきれない。
死後の世界でカネを使えるわけではないからな。
ボールの中に入れておけば置き場に困らないし、自前の船を保有しておけば何かと役に立つこともあるだろう。
無事にクラーケンを討伐できれば十分に元は取れるし、ここは必要経費と考えておくことにしよう。
~~~~~~~~~~
船をボールの中に収納した俺は、人気のない海岸にまで足を運んでいた。
さてと。
いよいよ出向の時間である。
俺は召喚した15匹のゴブリンナイトたちにオールを持たせると、それぞれ配置につかせることにした。
ゴブリンたちの指揮を執るのは、もちろんキャロライナである。
「いいですか。少しでもタイミングが遅れたら……その時は貴方方の命もないものだと思いなさい」
「ゴブッ!?」
キャロライナがニッコリと微笑むと、ゴブリン軍団はビクリと体を震わせる。
こ、こえー!
流石はキャロライナ軍曹。
ボールの中でモンスターの訓練の仕事をしているキャロライナは、ゴブリンナイトたちにとって天敵とも呼べる存在である。
俺も以前、ゴブリンナイトの精神に入った時に、散々な目に合されたことがあったんだよな。
「クッ……。どうしてボクがゴブリンたちと同じ扱いを受けなければならないんだ……」
ゴブリンたちの中に混じったロストはブツブツと不満を漏らしていた。
答えは簡単。
俺が使役しているゴブリンナイトの数は合計で15体だからな。
オールの漕ぎ手が奇数人では、左右のバランスが悪い。
だからロストには足りないゴブリンの代わりに漕ぎ手を任せることにしたのである。
「ソータさん! こっちは準備OKッスよ」
マストの上に登り帆の調整を担当するのはシエルである。
手先が器用なシエルならば、トラブルが発生した時も安心して対応を任せることができる。
「へへーん! 上のことはアタシに任せなさいー!」
「のじゃ~!」
アフロディーテ&ユウコにはシエルのサポートに回ってもらっている。
空中を自由に浮遊することが可能なユウコは、帆の調整は、これ以上ないくらいのハマリ役である。
アフロディーテはオールを漕がせても速攻で、『疲れた』と愚痴を零す姿が見えているので消去法で仕事を割り振ることにした。
強いていうならステータスの影響で、マストから落下してもケガすることがない、という利点があるだろうか。
「総員! 準備はいいか!?」
最後にこの俺、カゼハヤソータは船長のポストに就いている。
くはぁ~。
これはテンションが上がってきたわ!
海賊船の船長になるのは日本男子の夢ともいえる。
このシチュエーションに燃えない男はいない。
「DXゴブリン号! 発進!」
「「「ゴブッ!」」」
俺が指示を飛ばすと、シエルが帆を張って、ゴブリンナイトたちが一斉にオールを漕ぎはじめた。
おいおい。
いくらなんでもこれは……早すぎないか!?
鍛えられた肉体&統率力をいかんなく発揮したゴブリンナイトたちは、凄まじいスピードでボートを動かしていく。
俺たちを乗せた船は『モーターでも搭載しているのか!?』とツッコミを入れたくなるかのような勢いで前進していくのであった。
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