異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

変身スキル(前編)



 クロウとの出会いを果たした日の夜。


「ふぃ~。疲れたなぁ」


 屋敷に戻った俺は、速攻で自分の部屋のベッドに寝ころんでいた。

 やたらと体に疲れが溜まっている理由は、アフロディーテの買いものに付き合っていたことだけではないだろう。

 双剣のクロウ。

 最強の職業《勇者》に選ばれた男。
 俺と同じ日本人が、あんだけ躊躇なく他人を斬りつけたのは衝撃的であった。

 一体どんな環境で生活をしていれば、あそこまで残酷なことができるのだろうか?

 幸いなことに2人のAランク冒険者コンビの傷はシンジ君が治療してくれたみたいである。
 何でもシンジくんの《聖騎士》のジョブは、強力な近接攻撃スキルの他に、高度な回復魔法まで取得できるらしい。

 お前も十分チートじゃねーか!

 などとツッコミを入れたいところであったが、生憎と俺はアフロディーテの下僕という設定である

 俺にできることというと愛想笑いを浮かべることくらいであった。
 とまぁ、チート主人公2人の動向が気になるところではあるが、ひとまず他人のことは置いておこう。


 スキルの種 等級A
(食べるとランダムで職業スキルを習得する魔法の種)


 今日は道具屋の主人から買い取ったアイテムの検証をしようと思っていたんだよな。
 俺は説明に書かれている通りにスキルの種を口の中に放り投げる。

 ぐはっ!
 予想はしていたけど、スゲー不味いな。

 喩えるならば公園に落ちているドングリ。
 あれをそのまま生で齧っているかのような感覚である。

 ジャリジャリ。
 ジャリジャリ。ジャリジャリ。

 俺はなるべく味を感じないように鼻を抑えて種を齧り続ける。

 体には特に変化は見られないが、ステータスの方はどうだろうか?

 疑問に思った俺はそこでステータスを確認。


 カゼハヤ・ソータ

 職業  魔物使い
 レベル 588
 生命力 270
 筋力値 99
 魔力値 214
 精神力 3053

 加護
 絶対支配 

 スキル
 カプセルボール 鑑定眼 魔物配合 コンタクト 精神操作 スキルレンタル 変身

 使役 
 アフロディーテ
 キャロライナ・バートン
 シエル・オーテルロッド
 ユウコ
 ロスト・トリザルティ
 ワーウルフ
 アダマイトゴーレム
 ケダマロ
 ワイバーン
 クラーケン
 ゴブリンナイト ×15
 ライトマッシュ ×6
 キツネビ ×4 
 マッドマッシュ

 変身 等級A アクティブ
(一定時間、使役した魔物に外見を変化させるスキル。ただしステータスの値は変わらない)

 取得条件

●???


 ステータスの項目には新しいスキルが追加されていた。

 取得条件が『???』か。
 こんなパターンは初めてだな。

 おそらく正規の方法で取得したわけではないので、特殊表記になっているのだろう。

 クククク。
 アハハハハハハ!

 心の中で高笑いせずにはいられない。

 これは面白そうなスキルを手に入れたな!

 効果としては魔物の肉体を乗っ取る『精神操作』のスキルと似ている気がするが、あちらは使用中に元々の自分の体が無防備になってしまうという欠点が存在していた。

 ステータスを引き継ぐことができないのは、ネックだがこの『変身』のスキルならば『精神操作』のスキルより気軽に使っていくことができそうである。

 こういうのは考えるよりも実際に試した方が早いだろう。

 そう考えた俺はさっそく『変身』と心の中で強く念じることにした。


 システムメッセージ
(対象となる魔物を選んで下さい)

→アフロディーテ
 キャロライナ・バートン
 シエル・オーテルロッド
 ユウコ
 ロスト・トリザルティ
 ワーウルフ
 アダマイトゴーレム
 ケダマロ
 ワイバーン
 クラーケン
 ゴブリンナイト
 ライトマッシュ
 キツネビ
 マッドマッシュ

 そこで俺はノータイムでアフロディーテを選択。

 か、勘違いしないでくれ。

 これには別に他意はない。

 たまたま選択肢の1番上にあったのが、偶然アフロディーテの名前だったというだけでそれ以上の理由は存在しない。

 それ以上の理由は存在しないのである。

 暫くすると俺の体は眩い光を発して、その身長を縮ませていく。

 ボボボンッ。キュッ。ボボンッ。

 俺の肉体はそんな効果音が聞こえてきそうな変形を遂げていく。
 恐る恐る視線を下げてみると、床が見えなくなるほどの大きな胸がそこにあった。


「ウソッ。信じられない。これが本当にアタイなの……?」


 鏡の前に立った俺は絶句した。
 姿だけだと思っていたが、服装&声までアフロディーテのものになっている。


 ムニムニ。
 ムニムニ。ムニムニ。


 いや、違うよ?
 俺がおっぱい揉むのには正当な理由がある。

 これは自分が夢を見ているわけではないことを確かめるために、ほっぺを抓る的な行為だからな?

 決してエロい意味ではない。
 エロい意味ではないのである。

 はうわ~。
 これがHカップ(俺調べ)のアフロディーテのおっぱいか。

 いくら揉んでも揉み足りない。
 揉めば揉むほど揉みたくなってくる。

 こんなん麻薬と一緒じゃないか!


「……つ、次は直に触ってみようかな」


 服の上からでもこれほどの弾力なんだ。

 生の状態で触ったら一体どうなってしまうんだろうか。

 いや、違うよ?
 これは生物学的な見地から好奇心が疼いただけで、決してやましい理由ではないからな。

 学習意欲旺盛な俺がおっぱいを揉みたくなってしまうのは、致し方のないことなのである。


「…………ッハ!」


 嘘……だろ……!?

 おっぱいを揉むのに夢中で完全に意識が飛んでいた。

 部屋の中の時計で時刻を確認。 
 そして明かされる衝撃の事実……。

 おっぱい揉み始めから10分も経っているだと……!?

 さ、流石はアフロディーテのおっぱい!
 時間という概念を吹き飛ばすとは……少年マンガもビックリの能力である。


「次はこっちの方も……」


 おっぱいを堪能した後は、下半身の方も気になってきた。

 はいはい。そうですよ。
 どうせエロい意味ですよ。すいませんでしたね。

 そろそろ言い訳の理由を考えるのも疲れてきたわ。

 仕方がないじゃないか。


 男の子はみんなエッチなことが好きなんですよ!


 などと俺が誰に向けるでもなく説教を始めようとした時であった。


「ククク。見~た~ぞ~! カ~ゼ~ハ~ヤ~!」


 部屋の中に馴染みのある声が響く。


「お、お前は――!?」


 ヤバい! 見つかった!?

 俺の前に現れたロストの表情はまるで鬼の首を取ったよう。
 息子が隠していたエロ本を発見した母親にも通じる眼をしていた。


「うふ~ん。なんのことかしらロストちゃん。見ての通りアタシは、アフロディーテよ~ん」


 恥を忍んで口調を真似てはみたが、全く手応えが感じられない。


「くだらん猿芝居は止せ。カゼハヤ」


 ロストの表情は一段と険しいものになる。

 クッ……! 万事休すか。

 事情は分からないが、ロストは既にアフロディーテに変身をした俺に正体に気付いているようであった。


「……どこだ。どこでバレたんだ?」

「簡単なことだ。姿こそ女だが、貴様の動作は完全に男のままだ。そう。貴様はまるで昔のボクのようだからな」


 流石は経験者! 説得力が違う!

 いや、待てよ。
 逆に考えると、この状況は不幸中の幸いとも言えるのかもしれない。

 今でこそムチムチボディのサキュバスの体をしているロストであるが、何を隠そうこいつは精神的には男である。

 そういう意味では、アフロディーテ、キャロライナ、シエル、ユウコに見つかるよりはずっと良い!

 同じ男同士ならば共感してもらえる可能性が高いからな。


「ハハハッ。本当に楽しみだ。今回のことをキャロライナ様たちに報告したら……貴様の評価は地に落ちるだろうなぁ~」


 全然良くなかった!?

 こ、こいつ! 脅迫する気か!
 流石にそのパターンは想定外だったわ!


「お、お願いだ! 何でも! 何でも言うことを聞くから! 皆には秘密にしておいてくれ!」


 クッ……。
 どうして俺は主人公と出会ってから、2秒くらいで堕ちそうなアニメのヒロインのようなセリフを口にしているのだろう。

 落ち着け。
 今は我慢の時である。

 俺が仲間の体を借りて、卑猥なことをしていると知られたら冗談では済まされないような展開になるかもしれない。

 とにかく少しでも時間を稼いで、この絶体絶命の窮地を抜け出す方法を考えるんだ!



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