異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~

柑橘ゆすら

変身スキル(後編)



「ほう……。何でも、と言ったか」


 ロストは怪しくキラリと目を輝かせると、少しずつ俺との距離を詰めていく。

 ま、待て。
 どうしてそこでお前が服を脱ぐんだ!?

 ムチムチのボディをギュッと抑えつけたかのような下着姿のロストは、端的に言って非常にエロいものがある。

 しかし、悲しいかな。
 状況が状況だけに今は全く喜ぶことができない。

 半裸の女性に対して恐怖感を抱いたのは初めてである。


「~~~~っ!?」


 更にそこで驚くべきことが起こった。

 何を思ったのかロストは俺の服を剥ぎ取りながらも、強引にベッドの上に押し倒したのである。

 怖い。
 なんなんだよ。怖いよ。

 どうしてロストは俺のおっぱいを揉もうとするのだろうか?

 他人におっぱいを揉まれることが、こんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。


「な、何の真似だ。もしかしてお前……男が好きだったのかよ!?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる。これは普段、貴様がボクにやっていることではないか」

「!?」


 そこまで言われたところでピンときた。

 そうか!
 つまりこれはロストにとっての復讐なんだ。


 外見が美少女であるが故に俺は、これまでロストに対して様々な羞恥プレイを与えてきた。


 だからこそロストは、今まで自分が受けてきた屈辱を倍返しにするつもりなのだろう。


「ふにゃぁぁぁっ! な、舐めるなぁぁぁー!」


 思わず絶叫してしまう。
 ロストのやつ……どこでこんなテクニックを身に付けてきやがった!?

 ムズムズ。
 ムズムズ。ムズムズ。

 な、なんだこの感覚――!? 

 女の子の体ってこんなに気持ち良いのかよ!?

 ロストに触られる度にどんどんと体が熱くなっているのが分かる。


「ククク。どうした。カゼハヤ。貴様、すっかり『メスの顔』になっているぞ」


 ひ、酷いよ。
 こんなのってないよ。あんまりだよ。

 素朴な疑問なんだけど、第三者の視点からは俺たちはどういう風に映っているのだろうか。

 肉体的には百合、精神的にはホモ、という何処に需要があるか分からない展開である。


「さてと。ここからが本番だ。女の体の不自由さ……とくと思い知るがよい!」


 ロストが叫んだそのの後。 
 俺の体はビクンッ! ビクンッ! と体が跳ね上がる。


 催淫 等級B アクティブ
(近距離・単体攻撃。対象に性欲を付与するスキル)


 あわわわっ! こ、これはまずいぞ! 

 ロストのやつ……催淫のスキルを使ってきやがった!

 このスキルの恐ろしさは以前にシエルの体を使って検証済みである。

 なんとしても逃げなければ!
 このままで取り返しのつかないことになってしまう!


「ふふふ。そうはさせるか!」

「クッ……」


 俺が逃げ出そうとしたことを察知したのだろう。

 ロストはメイド服に付いていたリボンを使って、俺の手足を縛り始める。

 更にそこで驚くべきことが起こった。
 何を思ったのかロストはポケットの中からハンカチを取り出して――。

 丸めたハンカチを強引に俺の口の中に押し込んだのである。


「これで助けを呼ぶことすらできないだろう?」

「モガァッ……モガァッ……」


 なんだこれ。
 なんだこれ。なんだこれ。

 ハンカチが喉に詰まって息が苦しい。

 これで逃げ出すどころか声を出すことすらできなくなってしまった。

 一体何故?
 魔物使いが契約した魔物は主人に危害を加えることができなくなるはずである。

 それなのにどうして俺はロストにいいようにやられてしまっているのだろうか?


「ふふふ。やはりそうか。貴様を攻撃するためには、こうするのが1番手っ取り早いのだな」

「――――ッ!」


 ロストの不敵な笑いを見てピンときた。

 なるほど。
 つまりこの状況は、『魔物の反逆』ではなく、『特殊なプレイの一環』として見做されているのだろう。

 クッ……。
 考えたなロスト!

 ロストは主人に対する暴力をSMプレイに置き換えることによって、強引にルールの隙間を突破してきたというわけである。


「覚悟をしろよ。カゼハヤ・ソータ。今宵、これまでボクが味わった屈辱を1000倍にして返してやる!」


 万事休すか……。
 手足の自由を失った俺にはロストの魔の手に抗う術が何もない。

 既に『催淫』のスキルが体に行き届いているのだろう。
 俺の体はロストに触れられることを期待しているかのように火照っていた。


(誰かああああああああぁぁぁ! 助けてくれええええぇぇぇ!!)


 こうなったからには最後の手段!

 俺はコンタクトのスキルを用いて救援を要請する。

 助けを求めるということは、当然のことながら俺が『変身』のスキルを悪用していたということが、バレてしまうことになる。

 けれども、今はそんなことどうでも良かった。

 このままメス堕ちしてしまうくらいなら、オスとして変態の烙印を押される方が100億倍マシだろう。


「ご主人さま!」


 吸血鬼 等級S LV173

 生命力 1732
 筋力値 1240
 魔力値 1520 
 精神力 1428

 スキル
 火属性魔法(上級) 風属性魔法(上級) 水属性魔法(上級) 闇属性魔法(上級) 光属性魔法(中級)


 さ、流石はキャロライナ!
 助けを叫んでから2秒後も経っていないのに到着しただと!?

 魔物化したキャロライナは既に完全な臨戦態勢に入っているようであった。


 更にそこで奇跡が起こった。


 どうやら変身のスキルの効果っていうのは、思いのほか短いものだったらしい。
 キャロライナが部屋に入るのと同じタイミングで俺の姿は元に戻ることになった。


「……ロスト。これは一体どういうことですか」


 ズゴゴゴゴゴゴゴ。
 全身から無言の圧を放ちながらもキャロライナは言う。

 キャロライナが怒るのも無理はない。
 傍から見ると、現在の状況は、ロストが無理やり俺の体を縛って、襲っているとしか思えない感じになっていた。


「こ、これは違うのです! キャロライナ様!」 

「ほう。何が違うのですか……?」

「ボクはただ……カゼハヤがスキルを悪用して淫らな行いをしていたから、咎めようとしただけで……」


 一応言っておくと、ロストの言葉は9割方真実である。

 しかし、悲しいかな。
 世の中というものは残酷で、常に悪人が裁かれるとは限らない。

 今回のように誤解を招くような証拠が出揃っている状態では尚更である。


「淫らなのはどっちですか! このアバズレがッッ――!!」

「フギャアアアアアアアアァァァ!?」


 吸血鬼モードのキャロライナのパンチがロストの顔面に思い切りめり込んだ。

 アチャー。
 あれは何本か歯が折れているだろうな。

 後で回復魔法で治療してやらないと。

 それにしても今回ばかりはマジで生きた心地がしなかったな。

 ロストの犠牲によって、なんとか命拾いしたが、一歩間違えていれば壁にめり込んでいたのは俺の方であった。

 効果時間も短いみたいだし、誰が何処で見ているか分かったものではない。

 変身のスキルを悪用するのは、しばらく控えた方が良さそうだな。




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