異世界モンスターブリーダー ~ チートはあるけど、のんびり育成しています ~
童貞喪失SOS
眼を開けると、そこにあったのは知らない天井であった。
んん……。
たしか俺……さっきまで宴会場で料理を食べていたはずだよな?
それがどうしてパンツ1枚の状態でベッドの上にいるのだろう。
寝惚け眼をこすりながらも上体を起こそうとしたその直後。
俺は自身の身に迫った危機に気付く。
な、なんじゃこりゃー!?
どうして鎖?
手足を拘束された俺はベッドの上から起き上がれない状態になっていた。
「ソータさま。目を覚まされたのですね」
「レミスさん!?」
声のした方に目を向けると妖艶な笑みを浮かべるレミスさんがそこにいた。
「助けを呼んでも誰も来ませんわ。天狗の清水の濃度を調整して、他の方々には眠ってもらっている最中ですから」
「なっ……」
そこまで言われたところでハタと気付く。
しまった! 罠だったのか!
おっとりとした雰囲気に騙されて完全に失念していた。
もともとレミスさんはクルルと同じ魔王軍の師団長の1人。
本性が邪悪な魔族であっても何ら不思議はない。
クソッ!
どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。
俺たちはマンマと……敵の本拠地に誘いこまれていたというわけである。
「俺を……殺る気なのか?」
「流石はソータさまですわ。まさかそこまでお気づきになられているだなんて……」
どうする。
どうすればいい。
こう手が縛られている状態では、ボールの中からモンスターを召喚することすらできはしない。
「――ああ。可愛い可愛いソータさま。今直ぐに食べてしまいたいですわ」
ゾゾゾゾゾッ。
俺の背筋に悪寒が走る。
瞬間、俺の脳裏に過ったのは、以前に読んだ小説の中に書いてあった人魚の生態系であった。
その小説によると、人魚という生物は全員が女で、若くて美しい娘の姿をしているという。
人魚族はその美貌で以て、人間のオスを誘惑すると、海の底に引き摺り込んでエサとしてしまうのである。
「ソータさま。直ぐに終わると思いますので……よろしければ目を閉じていて頂けませんか?」
クソッ。
これから殺そうという敵に情けをかけるつもりか。
そう簡単に殺されてたまるかよ!
「――嫌だと言ったら?」
「少しだけ、照れますね」
「照れる!?」
「ええ。何分こう言った経験は初めてでしたので」
なんだろう。
この微妙に会話が噛み合っていない感じ……。
TVの中のお笑い芸人のコントでも同じようなシチュエーションがあったような気がする。
「それでは……失礼しますわ」
「~~~~っ!?」
突如としてレミスさんは……俺の唇に自身の唇を重ねた。
ファーストキスはレモン味だなんてよく言うが、レミスさんとのキスは微かな海の味がした。
「うふふ。よくできました。ソータさまはキスもお上手なのですね」
キスが終わった後、レミスさんは俺の頭を撫で撫でしてくれた。
ママァァァァァ――!!
間違いない。
やっぱりレミスさんは俺のママだなんだ――!!
ハッ!
しっかりしろ! 俺!
意識を強く持つんだ……!
俺は鋼鉄の理性を以て幼児退化しそうになる精神をグッと抑える。
「い、一体なにを!?」
「我慢していて下さい。ソータさまが気持ちよくなれるよう、わたくし頑張りますから」
宣言すると、レミスさんは身に着けた服を脱ぎ始める。
なんてエッチな下着なんだろう。
露出度の高い大人下着は、ロリ美少女のレミスさんが着用することによって色っぽさを増していた。
「気持ち良くって……どういう……?」
「意地悪なのですね。先程ソータさまが申し上げた通りのことですわ」
そこまで言われたところで俺は、喉の奥に引っかかっていた違和感の正体に気付く。
あ~。そっちね!
やるってそっちの意味だったのか!
KILL ではなく PLAY の方ね。
命を落とすかもしれないという絶体絶命の窮地から、童貞を捨てる千載一遇のチャンスに転換を遂げた瞬間であった。
「ど、どうしてこんなことを……?」
残っていた僅かな理性を振り絞って質問してみる。
レミスさんとエッチなことをするのは大歓迎なのだが、理由くらいは聞いておきたい。
「ソータさまは不思議に思いませんでしたか? この城に住んでいる人魚族はわたくし1人です。人魚城と銘打っていながらもおかしな話ですよね」
「それは……」
言われてみれば妙である。
最初は城の中にはたくさんの人魚族がいるものだと思っていたのだが、出迎えてくれたのはタツノコファイターを始めとするレミスさんの眷属であった。
「他の人魚族はどうしているのですか?」
「殺されました。わたくしは人魚族で唯一人の生き残りなのです」
「――――ッ!?」
レミスさんはそこで更に人魚族を取り巻く歴史を語ってくれた。
人魚族の美しい鱗は、昔から人間たちの間で高値で取引されていた装飾品であった。
この鱗に目を付けたのが、悪しき『魔族狩り』の連中である。
魔族狩りは数々の罪ない人魚族の命を奪っていった。
当然レミスさんは天候を操る加護を使用して仲間たちと戦った。
その時のことが噂になり、レミスさんは魔族狩りの間で有名になっていったらしい。
良かった。
この世界の人魚族は、俺が読んだ小説の人魚族とは違って基本的には善良な存在であるらしい。
「わたくしは人魚族の生き残りとして、種を存続させる義務があります! だからソータさまの子供が欲しいのですわ!」
うん。分かった。
ところどころ論理が飛躍しているような気がするが、大筋の部分は理解した。
色々とツッコミ所はあるが、レミスさんのような美少女とエッチなことをするのは吝かではない。
むしろレミスさんで童貞を捨てられるなんて光栄すぎる!
俺が期待で胸と別の部分を膨らませていた直後であった。
「ご主人さま! ご無事ですか!?」
勢い良く扉を開け、キャロライナが部屋に入ってくる。
まだ体に酔いが回っているのだろう。
キャロライナの足取りはフラフラで本調子と呼ぶには程遠い状態であった。
「流石はキャロライナです。食事に出した《天狗の清水》は、一度飲んだら数時間は起きれないよう濃度を調整していたのですが……」
「黙りなさい! レミス! これは一体どういうことですか!?」
「どうって? 見ての通りです。わたくしはこれからソータさまと子作りに励むのですよ」
「そ、そのようなことは私が許しません――!!」
「どうしてキャロライナに許しを得なければならないのですか?」
「それは……」
「知っていますよ。キャロライナは嫉妬しているのですね。昔から貴方は自分の感情を他人に伝えるのを苦手としていましたから」
「――――ッ!」
ぬおっ。
舌戦でキャロライナを手玉に取ってしまうとは流石はレミスさんである。
「ち、違います! 私はそんな私的な理由で言っているのではありません。レミスは知らないでしょうが、ご主人さまは――」
「もちろん気付いていますよ。ソータさまは、『あの方』と縁の深い関係にあるんですね」
「……正気ですか? 知っていて尚、ご主人さまと事に及ぶつもりでいるのですか?」
「人魚族に手段を選んでいられる余裕はありません。わたくしとしては、強い子を産むことできるのであれば好都合です」
2人が何を言っているのか分からない。
そもそも、あの方って誰だよ!?
以前に言っていたキャロライナの初恋の人物と何か関係があるのだろうか。
「ああ。よろしければキャロライナも一緒に参加をしますか? わたくしはソータさまの子種を頂けるのであれば3人一緒でも構いませんよ」
おいおいおいおい!
サラリと凄いこと言っているよ! この子!
お、俺としては別に異論はないかな……。
初体験が3人、というのも、男冥利に尽きる展開である。
後はキャロライナが認めてさえくれれば――。
吸血鬼 等級S LV173
生命力 1732
筋力値 1240
魔力値 1520
精神力 1428
スキル
火属性魔法(上級) 風属性魔法(上級) 水属性魔法(上級) 闇属性魔法(上級) 光属性魔法(中級)
「ご主人さま! 待っていてください。私が絶対に助けますから!」
全然認めてくれる気配がなかった――!
キャロライナよ!
俺は全然ピンチじゃないよ!?
だから――むしろ助けないでくれぇぇぇ――!!
俺が心の中でツッコミを入れた直後であった。
ジリリリリリリッ。
突如として城の中に耳障りな音が響き始める。
「何事ですか!?」
「侵入者……でしょうか。城内の警備装置が作動したみたいです。待っていて下さい。水晶の中に映像を投影します」
待機すること2分後。
透明の板の中に海中の映像が投影される。
「あいつは……!?」
画面に映し出された人物を目の当たりにした俺は絶句した。
潜水魔法を使って人魚城に接近してくる人物には見覚えがあった。
双剣のクロウ。
そこにいたのは最強職業《勇者》を与えられた、最悪の魔族狩りであった。
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