異世界戦国記

鈴木颯手

第十五話・急変

「…ははっ、予想はしていたさ。信光に勝てないことは。でも信次にすら負けるとは」
「あ、兄上!しっかりしてください!」
「兄上の詠んだ句も素晴らしかったですよ!」
俺は那古野城の連歌会の部屋の隅でいじけていた。今日もいつも通りついて行くのがやっとの中信光はすらすらと進めさらには今日初めて参加するどころか初めてやった信次すら素晴らしいものを詠んだ。一家の長男としてはうれしいが俺の必要の意味がなくなってきているような気がする。信光と信次が慰めてくれているが連歌についてあまり触れないようにしているところが心にナイフを刺されているような気分になる。ああ、情けない。
「また始まりましたか」
「これもこの会の一部となりつつありますな」
他の参加者は何時もの光景に軽く流している。下手ではないがいいものを詠めない俺に比べ弟はポンポン良い句を出してくるから肩身が狭くてしょうがない。それにこれが連歌会での恒例になりつつあるのがまた更に悲しい。
「さて、今日はこれでお開きにしましょうか。…ん?」
氏豊が連歌会の終了を告げようとした時であった。廊下を勢いよく走る音が聞こえてくる。その足音は段々此方へと近づいてきているようだ。
「失礼します!」
部屋に入って来たのは氏豊の家臣の様だ。かなり慌てているようで汗で顔が酷い事になっている。
「織田信友が二千の軍勢で稲沢城に進軍中!」
「な、なに!?」
稲沢城は氏豊が尾張國に持つ三つの城の内の一つだ。清州城と勝幡城のほぼ中間に位置する城で昔から両家の影響力が強い地域でもある。その北方にもう一つ羽鳥城もあるがこちらは清州織田家だけの影響力が強いからな。恐らく、
「申し上げます!羽鳥城、信友に降伏!五百の兵で信友に加勢し稲沢城を攻撃しています!」
やはりか!となるとこの城も危ういか?いや、信友の出せる兵力は最大でも四千にいかない。その内二千を出していると言う事はこちらにまで攻める余裕はないか。
「直ぐに救援に向かうぞ!氏孝を呼べ!」
「はっ!」
今川氏豊は直ぐに指示を出すと「大変申し訳ないが見ての通り火急の様が出来てしまったため先に失礼する」と言うと部屋を後にした。部屋を出る時に信友代理の家臣を睨みつけながらではあるが。
「兄上、我々もそろそろ…」
「…そうだな。最悪、こちらにまで飛び火しかねないからな」
俺は信光の言葉に同意して直ぐに出る準備をする。恐らく勝幡城にも知らせは入っているだろうがここに何時までもいる訳にはいかないからな。
そう思っていると何やら騒がしくなってきた。数名の悲鳴も混じって聞こえてくる。俺は咄嗟に二人の弟の手を掴むと隣の部屋に入った。瞬間部屋に武装した数名の兵士が入って来た。
「貴様等は人質となってもらう。大人しくせよ」
「な!?どういう事か!?」
「黙れ!お前ら、早く縛り上げろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
不味いことになったな。事の顛末を聞いた俺は直ぐにその場を離れ急いで城門まで走る。どうやら那古野城の一部の暴挙の様で途中兵士がこちらを見ても反応はなかった。
しかし、馬小屋までたどり着くと騒ぎは場内のほとんどで聞こえるようになっていた。
「信光!信次!那古野城を急いで出るぞ!」
「護衛の方はどうするのですか?」
「手遅れだ。急げ!」
恐らく、護衛は既に殺されているだろう。そうでなければ捕まっているかもしれないが現状俺たちが逃げる事で精いっぱいだ。馬にまたがると直ぐに走らせそのまま城門に向かう。弟たちも後ろからついてきており離れる様子はなかった。
やがて直ぐに城門にたどり着くが既に誰が指導者かは不明だが敵の手にあるようで俺たちを見て急いで城門を占めようとしていたり槍をこちらに向けていた。
「このまま突貫する!付いてこい!」
「「はい!」」
俺の言葉に弟たちは返事をするのと同時に敵のそばを一気に曲がり城外へと出た。弟たちもそれに続き敵が慌てて追いかけようとするが人の足と馬とでは速さが違うためあっという間に離されていく。俺はそのまま緩めることなく一気に勝幡城まで向かうのであった。

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