異世界戦国記

鈴木颯手

第二十六話・藤左衛門家5

一方戦場に残された信繫は崖を背に必死に戦っていた。既に頼伴兵は古渡城の方へと逃げ去っておりそれを追いかける二百の兵以外の良宗兵が信繫軍を囲んでいたのである。
「決して敵に臆するな!背を崖に戦っている限り正面の敵に対応するだけでよい!」
信繫は自ら槍を振るい兵を奮い立たせていたがそれでも限界があった。信繫軍は全員が大なり小なり傷を負い疲労困憊となり次々と討ち取られていた。既に五百いた信繫軍は三百まで減りじわじわと追い詰められていた。
「殿!このままでは…!」
「分かっている!だが今は耐えるのだ!」
家臣の一人がそう言うも信繫とて分かっているため言葉を遮り耐えるように言う。しかし、戦線が崩壊していないのが奇跡なぐらい信繫軍は追い込まれていた。
「くそ!ここまでか!」
そう叫び信繫が敵を突破して撤退の指示を出そうとした時であった。
信繫軍が追い込まれている反対側から千を超える兵が現れたのである。彼らは黄の織田木瓜を掲げて良宗軍に襲いかかっていったのである。
後方を突かれる形となった良宗軍はあっという間に大混乱に陥ったのである。
「殿…」
「ようやくついたか…信秀様」
信繫は自分の当主となった者の名を呟くと極度の疲労からその場に座り込むのであった。


















「良宗軍を徹底的に殺せ!」
「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」」」
俺の言葉に兵士たちは雄たけびを上げて混乱する良宗軍を飲み込んでいく。俺は囲まれていた信繫軍の方を見る。大体二百近くまで減っているようだ。中には安心したのか倒れこむ兵士もいる。座り込んでいるが信繁も無事なようだな。
頼伴を自身の兵で踏み殺されたのを確認した俺はすぐさまこちらに向かってきてくれている叔父上秀敏の軍千三百と合流した。
「叔父上、熱田城は?」
「勿論接収済みだ」
俺は渡した書状にひそかに熱田城の接収を依頼していた。良宗はほぼ全軍を率いていたので熱田城には少数の兵しかいないと睨んでいた。その為熱田城の接収は可能と判断したのだ。無論兵が多ければ迂回するように言ってある。熱田城はあくまでついでだからな。
「報告によれば信繫軍が窮地に陥っているそうだ。長くは持ちそうにないという報告も来ている」
まじか。なら早く援軍に向かわないとな。予想以上に頼伴軍の崩壊が早かったからな。おかげで早く頼伴は死んだが。
「よし、このまま信繫の救援に向かう!叔父上は別働隊を率いて良宗の退路を塞いでください」
「兵にもよるが長く持たせる自信はないぞ?」
「問題ありません。をつけます」
「…あやつか?俺は制御しきる自信がないのだが…」
「俺だってありませんよ。むしろ押さえつけるより自由にさせた方がより良い結果を残しそうです」
「それもそうだな」
そう言うわけで今に至っている。良宗軍は混乱がピークにまで達しているようでちらほら逃げるものが出ている。…まあ、俺が囲むように布陣したせいで逃げ道がほとんどないからだが。そう思いながら俺は良宗の本陣がある場所を見る。良宗はこれまで五百の兵と共に全くと言っていいほど動いておらず俺がせっかく対策用に配置した兵が無駄になってしまっている。まあ、俺たちが逆に後ろを取られないためのものだから無駄ではないな。
それに良宗軍千はほぼ溶けつつあるからな。良宗の兵は実質五百のみだ。よほどのことがない限り負ける事は無いだろ。…とはいえそう思っていたら呆気なくやられた、なんて未来にならないように用心は怠らないようにするか。

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