スキルを使い続けたら変異したんだが?
第二十二話 ゴーレムキラー
『さあ、凄いことになって参りました!
《ゴーレムキラー》ことユウト・カミシロ選手が、《謎の美少女》ナツメ・カミツキ選手とタッグを組んでアリーナに参戦だぁ!』
金髪ショートの女性プレイヤーが、マイクパフォーマンスで会場を盛り上げる。
割れるような歓声に、俺は人知れず顔をしかめる。ナツメは笑顔で観客たちに手を振る。
全周を観客席で囲まれた砂のフィールドに俺とナツメは立っていた。
人、人、人で埋め尽くされたスタンド。好奇、疑惑、嫉妬。様々な想いが込められた視線に俺はうんざりしていた。
心臓がバクバクしてる。ノリで言ったけど、やっぱりやめておけばよかったかな。
結局は、アイドルになるためにはまず名前を知ってもらわないことには始まらない。
ならば、多くの人々の目に触れることのできる闘技場に参加すればいいじゃんということでエントリーしたのだ。
ただ、最初の話では人気過ぎて一ヶ月待ちということだった……のだが、上の方で何かやり取りがあったようで、急遽その日の運営プレイヤーのエキストラマッチを変更して参加できることになったのだ。
まさか、本当にこの戦いが終わった後に運営のインタビューがあるんじゃ……?
恐々としながら視線を上に泳がせる。
フィールドを見渡せる場所に設置された司会席。その背後には漆黒のスーツ姿を纏う壮年の男性と、清楚な白のワンピースを纏う青い髪の少女が見えた。
司会者と同じく、運営側のプレイヤーなのだろう。
男の青い双眸がこちらを向く。
ゾクッと、身体が震えた。心の内を見透かそうとするような瞳から、俺は視線を逸らす。
怖えっ。まるでちょっとお堅い職業の方みたいな……、絶対関わらない方が良い。
『さあ、この二人に相応しいモンスターはっ⁉
私たち運営が選択したのはこれだぁああっ!』
マイクが壊れそうなほどに司会が声を張り上げる。
一体、どんなモンスターが選ばれたのだろうか。
ベヒモスとかミノタウロスとか、そんな凶戦士は嫌だなぁ。あからさまに攻撃力が高そうで、一撃でやられそうな緊張感が苦手なのだ。そんなモンスターがこのゲームに存在しているかはわからないが。
五十メートル先の地面がぽっかりと穴が空けた。
四方、約十メートルが抜け落ち、俺は少し寒気を覚える。
あれだけの広さがなければ、姿を現すことのできないモンスター。
一体どれだけ巨大な――ッ⁉
下からせり上がってくるモンスターを見て、俺は目を剥いた。
それは、俺が危機感を覚えていたモンスターではなかった。
それは、俺が一度戦ったことのあるモンスターだった。
無機質な顔。
城壁の如き堅牢さを有する胴体。
伸びる四肢から繰り出されるのは、神の振るう鉄槌に似た重い一撃。
忘れるはずもない。忘れられるはずがない。
このモンスターこそが今日、今ここへ俺を導いた。
『そう、ゴーレムだぁあああ!
皆さんも気になっているでしょう⁉ ユウト・カミシロ選手がどうやって、いかにしてこのモンスターを下したのか!
運営側としても、大変気になります! なぜならっ! 本来今のバージョンで倒せるはずのないモンスターだったからです!
かといって、データを改ざんした形跡もない! ならばなぜ⁉ ダメ押しに“ユウト・カミシロ選手のステータス、スキルには何の変哲もないっ”
私どもは頭を悩ませました! それが、今までゴーレムを倒したプレイヤーを発表できなかった理由です!』
俺は彼女の言葉に疑問を覚える。
倒せるはずのないモンスター? あんなユニークスキルが用意されていたのに?
というか、スキルに変哲がない? 運営にとってあのユニークスキルはそこまで大したものではないのだろうか。
疑問符が尽きない中、司会者はハイテンションに続ける。
『ですが今日、その答えが明らかになります!
ゴーレムには私どもにも知り得ぬ攻略法が存在するのか⁉ それとも運営の想像を超えるプレイヤースキルを有しているのか⁉
さあ、ユウト・カミシロ選手! その答えを私たちに見せてくれ!
《ゴーレムキラー》、その名に相応しいことをここに証明しろおぉおっ!』
その絶叫に反応したかのように、ゴーレムは起動する。
瞳に似た宝石が輝く。その輝きに、胸を射抜かれたかのような錯覚を覚えた。
――はっ。上等じゃねえか。
嗤って、俺は睨み返す。
細かいことをごちゃごちゃ考えるのはやめだ。
怒号に似た観声。さっきまで煩わしいとさえ感じていたそれが、今は心地いい。
体が熱い、血がたぎる。ここまで盛り上げられて、燃えないわけがない。
「ゴーレム……! か、勝てるの?」
隣のナツメが威圧されたように、一歩後ずさる。
答える代わりに俺は緋桜を抜き、一歩前に出る。
そうして。
再び俺は、石の巨兵と対峙した。
《ゴーレムキラー》ことユウト・カミシロ選手が、《謎の美少女》ナツメ・カミツキ選手とタッグを組んでアリーナに参戦だぁ!』
金髪ショートの女性プレイヤーが、マイクパフォーマンスで会場を盛り上げる。
割れるような歓声に、俺は人知れず顔をしかめる。ナツメは笑顔で観客たちに手を振る。
全周を観客席で囲まれた砂のフィールドに俺とナツメは立っていた。
人、人、人で埋め尽くされたスタンド。好奇、疑惑、嫉妬。様々な想いが込められた視線に俺はうんざりしていた。
心臓がバクバクしてる。ノリで言ったけど、やっぱりやめておけばよかったかな。
結局は、アイドルになるためにはまず名前を知ってもらわないことには始まらない。
ならば、多くの人々の目に触れることのできる闘技場に参加すればいいじゃんということでエントリーしたのだ。
ただ、最初の話では人気過ぎて一ヶ月待ちということだった……のだが、上の方で何かやり取りがあったようで、急遽その日の運営プレイヤーのエキストラマッチを変更して参加できることになったのだ。
まさか、本当にこの戦いが終わった後に運営のインタビューがあるんじゃ……?
恐々としながら視線を上に泳がせる。
フィールドを見渡せる場所に設置された司会席。その背後には漆黒のスーツ姿を纏う壮年の男性と、清楚な白のワンピースを纏う青い髪の少女が見えた。
司会者と同じく、運営側のプレイヤーなのだろう。
男の青い双眸がこちらを向く。
ゾクッと、身体が震えた。心の内を見透かそうとするような瞳から、俺は視線を逸らす。
怖えっ。まるでちょっとお堅い職業の方みたいな……、絶対関わらない方が良い。
『さあ、この二人に相応しいモンスターはっ⁉
私たち運営が選択したのはこれだぁああっ!』
マイクが壊れそうなほどに司会が声を張り上げる。
一体、どんなモンスターが選ばれたのだろうか。
ベヒモスとかミノタウロスとか、そんな凶戦士は嫌だなぁ。あからさまに攻撃力が高そうで、一撃でやられそうな緊張感が苦手なのだ。そんなモンスターがこのゲームに存在しているかはわからないが。
五十メートル先の地面がぽっかりと穴が空けた。
四方、約十メートルが抜け落ち、俺は少し寒気を覚える。
あれだけの広さがなければ、姿を現すことのできないモンスター。
一体どれだけ巨大な――ッ⁉
下からせり上がってくるモンスターを見て、俺は目を剥いた。
それは、俺が危機感を覚えていたモンスターではなかった。
それは、俺が一度戦ったことのあるモンスターだった。
無機質な顔。
城壁の如き堅牢さを有する胴体。
伸びる四肢から繰り出されるのは、神の振るう鉄槌に似た重い一撃。
忘れるはずもない。忘れられるはずがない。
このモンスターこそが今日、今ここへ俺を導いた。
『そう、ゴーレムだぁあああ!
皆さんも気になっているでしょう⁉ ユウト・カミシロ選手がどうやって、いかにしてこのモンスターを下したのか!
運営側としても、大変気になります! なぜならっ! 本来今のバージョンで倒せるはずのないモンスターだったからです!
かといって、データを改ざんした形跡もない! ならばなぜ⁉ ダメ押しに“ユウト・カミシロ選手のステータス、スキルには何の変哲もないっ”
私どもは頭を悩ませました! それが、今までゴーレムを倒したプレイヤーを発表できなかった理由です!』
俺は彼女の言葉に疑問を覚える。
倒せるはずのないモンスター? あんなユニークスキルが用意されていたのに?
というか、スキルに変哲がない? 運営にとってあのユニークスキルはそこまで大したものではないのだろうか。
疑問符が尽きない中、司会者はハイテンションに続ける。
『ですが今日、その答えが明らかになります!
ゴーレムには私どもにも知り得ぬ攻略法が存在するのか⁉ それとも運営の想像を超えるプレイヤースキルを有しているのか⁉
さあ、ユウト・カミシロ選手! その答えを私たちに見せてくれ!
《ゴーレムキラー》、その名に相応しいことをここに証明しろおぉおっ!』
その絶叫に反応したかのように、ゴーレムは起動する。
瞳に似た宝石が輝く。その輝きに、胸を射抜かれたかのような錯覚を覚えた。
――はっ。上等じゃねえか。
嗤って、俺は睨み返す。
細かいことをごちゃごちゃ考えるのはやめだ。
怒号に似た観声。さっきまで煩わしいとさえ感じていたそれが、今は心地いい。
体が熱い、血がたぎる。ここまで盛り上げられて、燃えないわけがない。
「ゴーレム……! か、勝てるの?」
隣のナツメが威圧されたように、一歩後ずさる。
答える代わりに俺は緋桜を抜き、一歩前に出る。
そうして。
再び俺は、石の巨兵と対峙した。
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