異世界スキルガチャラー
兄の心配・妹の怒り
「シーヴァ、入るよ」
ノックもせずにいきなりそう言いながらドアを開けて中に入る。
ゼーテの予想通り、兄シーヴァは窓からぼんやり外を眺めていた。
「調子は?」
「……良くはないな。見ての通り、外観は綺麗だがね」
そう言って朗らかに笑うシーヴァの体の表面の傷は綺麗に治っている。
しかし、ゼーテは医者からこんな話を聞いていた。
「シーヴァ様の容態ですが、外見からは分かりませんがかなり悪いです。傷口一つ一つが余りにも細く深い」
「つまり、外傷より体内へのダメージが深刻なのです。回復に向かってはいますが、一週間以上は前線に出られないでしょう」
それを聞いた時、ゼーテは地の底に叩き込まれたような感覚に陥った。
シーヴァを見て改めて湧き上がったその感情が表情に出てしまったらしい。
「おいおい、そんな泣きそうな顔するなよ? 僕はこの通り生きてるし、ルカさんも元に戻った。万々歳じゃないか」
「……万々歳!? これのどこがよ!!」
「アンタが内臓ズタズタにされてベッドに寝てることが!? 私の利き腕が関節と逆方向に曲がったことが!? 周辺の街一帯が崩壊して死傷者が大量に出たことが!?」
ゼーテは壁に右手の拳を叩き付けながら叫ぶ。
「ゼーテ、落ち着け。こうなったものは仕方ないだろう?もう鎮静化したのだから……」
「良くない! 1ミリも良くないわ!! 私の怪我はもうすぐ治るからいい! でも、でも………」
激情のままに言葉をぶつけるゼーテと、どこか物悲しい目をしてそれを受け止めるシーヴァ。
この兄妹の対照的な性格には理由がある。
「……僕だけの前でくらい、自分を作らなくてもいいだろう?」
「う……るさ…………」
「目尻に涙が零れ落ちかねないくらい溜まってるぞ? 17年もの間ずっと隣に立ち続けた僕に隠し事なんて無駄だ」
その言葉を聞くと、ゼーテは黙ってしまった。
唇をぎゅっと結んだままゆっくりと歩いて行き、ベッドの端に腰掛けた,
「……なあ、ゼーテ。もう無理しなくても良いんだぞ?」
「【魔眼】なんてただのリスクの塊だ。僕を気遣ってその体に無理やり宿しておく必要も無いだろう?」
薄暗い部屋でも不自然な輝きを放つ妹の銀色の髪を撫でながら、シーヴァは言う。
「僕はもうお前に怪我なんてして欲しくない。戦って傷付くのは僕だけで十分だ。なあ、頼むよ」
「………嫌よ」
シーヴァの「提案」を、ゼーテは涙声で突っぱねた。
「元に戻す方法をちゃんと探そう。ゼーテ、「自分のものでない力」を体に宿し続けたらどうなるか分からないんだぞ?」
「元々僕の能力なんだ。あの日から成長もしたし、制御できるさ」
「……【黒眼】だけでも眼帯しないと暴発するのに?」
「それは…………」
言葉に詰まったシーヴァを見て、ゼーテはしてやったりといった表情を浮かべた。
「ね? だから、まだ私が借りとく。それに………」
「それに?」
「……ううん、何でもない。とにかく、この眼帯さえあれば力は制御出来るんだから問題ないじゃない」
「いや、そうは言ってもだな」
「だから大丈夫だって言ってるでしょ。10年も経ってるのに変な症状出てないんだから問題ないはず」
頬を涙で濡らしながらもシーヴァを言葉で圧倒するゼーテ。
シーヴァも説得は無理だと悟った。
「全く、泣き虫なのに強情なのは変わらないな」
「泣き虫は余計よ」
「いいや、余計じゃないさ。小さい時はよく虐められそうなお前を助けてやったものだ」
「あの時代は思い出したくないわ」
「だろうな。しかしどうだろう、話しておくべき人間は何人かいると思うが?」
「……まさか、ケイト達のこと言ってる?」
「正解だ。彼らとはこれからも行動を共にするのだから、僕は話すべきだと思うがね?」
ゼーテは口を結んで黙りこくってしまった。
何やら決めかねている様子である。
「仲間内で秘密は無い方がいい。信頼関係の向上も図れるし、一石二鳥だろう?」
まだゼーテは黙ったままだ。
「おいおい、昔の弱々しいお前に逆戻りか、ん? これじゃ、僕の隣に並ぶ騎士とは言えなくなるかもしれないな」
「あー、もう! 分かったわよ、アンタ本当に私をイライラさせるの好きね!」
「ふっ……身内相手の交渉が上手いと言って欲しいね」
「やっぱり心配した私が馬鹿だったわ。もういい、ルカの病室に行ってくる」
ゼーテは振り返って乱暴にドアを開けて出ていった。
そこで、ちょうど同じタイミングで病室から出てきた啓斗と鉢合わせした。
「あ、ルカとの話は終わった?」
「一旦はな。シーヴァの容態は?」
「全然問題なし。でも、意外と傷が深いっぽくてアイツはマギクニカに同行ムリ。一応話したら? 起きてるし」
「そうする。ゼーテもルカと話せ。逆にそっちには必要だと思うが」
「……お見通しなのね」
「そりゃな。だが、一つだけ言っておく」
啓斗の目は鋭い光を帯びている。
「ルカはまだ不安定だ。あんまり刺激しないでくれ」
「……りょーかい。別に恨んでなんてないわよ」
「だと良いんだがな」
そして啓斗はシーヴァの病室に、ゼーテはルカの病室に入っていった。
ノックもせずにいきなりそう言いながらドアを開けて中に入る。
ゼーテの予想通り、兄シーヴァは窓からぼんやり外を眺めていた。
「調子は?」
「……良くはないな。見ての通り、外観は綺麗だがね」
そう言って朗らかに笑うシーヴァの体の表面の傷は綺麗に治っている。
しかし、ゼーテは医者からこんな話を聞いていた。
「シーヴァ様の容態ですが、外見からは分かりませんがかなり悪いです。傷口一つ一つが余りにも細く深い」
「つまり、外傷より体内へのダメージが深刻なのです。回復に向かってはいますが、一週間以上は前線に出られないでしょう」
それを聞いた時、ゼーテは地の底に叩き込まれたような感覚に陥った。
シーヴァを見て改めて湧き上がったその感情が表情に出てしまったらしい。
「おいおい、そんな泣きそうな顔するなよ? 僕はこの通り生きてるし、ルカさんも元に戻った。万々歳じゃないか」
「……万々歳!? これのどこがよ!!」
「アンタが内臓ズタズタにされてベッドに寝てることが!? 私の利き腕が関節と逆方向に曲がったことが!? 周辺の街一帯が崩壊して死傷者が大量に出たことが!?」
ゼーテは壁に右手の拳を叩き付けながら叫ぶ。
「ゼーテ、落ち着け。こうなったものは仕方ないだろう?もう鎮静化したのだから……」
「良くない! 1ミリも良くないわ!! 私の怪我はもうすぐ治るからいい! でも、でも………」
激情のままに言葉をぶつけるゼーテと、どこか物悲しい目をしてそれを受け止めるシーヴァ。
この兄妹の対照的な性格には理由がある。
「……僕だけの前でくらい、自分を作らなくてもいいだろう?」
「う……るさ…………」
「目尻に涙が零れ落ちかねないくらい溜まってるぞ? 17年もの間ずっと隣に立ち続けた僕に隠し事なんて無駄だ」
その言葉を聞くと、ゼーテは黙ってしまった。
唇をぎゅっと結んだままゆっくりと歩いて行き、ベッドの端に腰掛けた,
「……なあ、ゼーテ。もう無理しなくても良いんだぞ?」
「【魔眼】なんてただのリスクの塊だ。僕を気遣ってその体に無理やり宿しておく必要も無いだろう?」
薄暗い部屋でも不自然な輝きを放つ妹の銀色の髪を撫でながら、シーヴァは言う。
「僕はもうお前に怪我なんてして欲しくない。戦って傷付くのは僕だけで十分だ。なあ、頼むよ」
「………嫌よ」
シーヴァの「提案」を、ゼーテは涙声で突っぱねた。
「元に戻す方法をちゃんと探そう。ゼーテ、「自分のものでない力」を体に宿し続けたらどうなるか分からないんだぞ?」
「元々僕の能力なんだ。あの日から成長もしたし、制御できるさ」
「……【黒眼】だけでも眼帯しないと暴発するのに?」
「それは…………」
言葉に詰まったシーヴァを見て、ゼーテはしてやったりといった表情を浮かべた。
「ね? だから、まだ私が借りとく。それに………」
「それに?」
「……ううん、何でもない。とにかく、この眼帯さえあれば力は制御出来るんだから問題ないじゃない」
「いや、そうは言ってもだな」
「だから大丈夫だって言ってるでしょ。10年も経ってるのに変な症状出てないんだから問題ないはず」
頬を涙で濡らしながらもシーヴァを言葉で圧倒するゼーテ。
シーヴァも説得は無理だと悟った。
「全く、泣き虫なのに強情なのは変わらないな」
「泣き虫は余計よ」
「いいや、余計じゃないさ。小さい時はよく虐められそうなお前を助けてやったものだ」
「あの時代は思い出したくないわ」
「だろうな。しかしどうだろう、話しておくべき人間は何人かいると思うが?」
「……まさか、ケイト達のこと言ってる?」
「正解だ。彼らとはこれからも行動を共にするのだから、僕は話すべきだと思うがね?」
ゼーテは口を結んで黙りこくってしまった。
何やら決めかねている様子である。
「仲間内で秘密は無い方がいい。信頼関係の向上も図れるし、一石二鳥だろう?」
まだゼーテは黙ったままだ。
「おいおい、昔の弱々しいお前に逆戻りか、ん? これじゃ、僕の隣に並ぶ騎士とは言えなくなるかもしれないな」
「あー、もう! 分かったわよ、アンタ本当に私をイライラさせるの好きね!」
「ふっ……身内相手の交渉が上手いと言って欲しいね」
「やっぱり心配した私が馬鹿だったわ。もういい、ルカの病室に行ってくる」
ゼーテは振り返って乱暴にドアを開けて出ていった。
そこで、ちょうど同じタイミングで病室から出てきた啓斗と鉢合わせした。
「あ、ルカとの話は終わった?」
「一旦はな。シーヴァの容態は?」
「全然問題なし。でも、意外と傷が深いっぽくてアイツはマギクニカに同行ムリ。一応話したら? 起きてるし」
「そうする。ゼーテもルカと話せ。逆にそっちには必要だと思うが」
「……お見通しなのね」
「そりゃな。だが、一つだけ言っておく」
啓斗の目は鋭い光を帯びている。
「ルカはまだ不安定だ。あんまり刺激しないでくれ」
「……りょーかい。別に恨んでなんてないわよ」
「だと良いんだがな」
そして啓斗はシーヴァの病室に、ゼーテはルカの病室に入っていった。
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