異世界スキルガチャラー

黒烏

双魔眼の少年

「さて、中々時間をかけてここまで僕とゼーテの過去を話してきた訳だが……」

シーヴァはそう言って頭を掻き、未だに目を覆ってグズグズと鼻をすすっている妹を見る。

「流石に泣き止んではくれまいか?ここからはお前の視点からの話も必要なんだ」
「………グスッグスッ………」
「ゼーテ、頼むよ」
「……分かった」

涙は流しながらもはっきりとした口調で言い返したゼーテに、シーヴァは幾分かホッとしたような顔を見せた。

「じゃあ、これからの話について君の視点からの状況も言ってくれるな?」
「……分かった。なら、私が先ね」

最後にもう一度鼻をすすり、深く深呼吸した。
顔はかなり赤いが、落ち着きを取り戻したゼーテは語り始める。

「あれは、いつも通り学校が終わって家に帰る時だった。でも、その日は私にとって忘れられない日の一つ」








ある秋の日。
兄妹はいつものように2人で帰宅路を歩いていた。

「ゼーテ、今日は帰ったらどうしようか?」
「今日こそ、魔法を使えるようになってみせるの!」

ゼーテは魔法を何か一つでも習得しようと躍起になっていた。
理由は言うまでもなく、シーヴァの役に立ちたいからだ。

「最近嫌に熱心だな。無理して攻撃魔法なんて覚えなくても良いんだぞ?僕が守ってやるさ」
「そういう問題じゃないの。私がいる意味がお兄ちゃんの重しだけなんてゴメンよ」

今日こそ初級でもなんでもいいから魔法を覚えるんだ、といつも以上にやる気を見せている。

(最近、ゼーテが少々魔法を習得することに執着し始めている。何かあったのか?)

目をギラギラ輝かせてやる気を醸し出している妹をじっと見つめる。
何かが起きたわけでは無さそうだが、こうやって元気な妹を見ると頬が緩む。

「お兄ちゃん、なんか顔ニヤついてるよ?」
「ん?あ、ゴメンな。つい……」

穏やかな笑顔でゼーテを見る。
その極限まで愛おしそうな瞳を直視出来ず、ゼーテは顔を逸らした。
そんな2人だけの空間を崩壊させる出来事は、突如起きた。

「キャアアアアアアアアアアア!!!!」
「おい、見ろ、あれ!!!」

いきなり聞こえてきた悲鳴と、騒然とする街。
悲鳴の発生源を見ると、想像を絶する光景が広がっていた。



シーヴァ達兄妹から10数メートルほど離れた店の入口に、立っていた。
服に赤いシミをつけて右手にはナイフを握り、左手には10000ルーン札を10枚ほど握り締めている。

「強盗か!?」
「お兄ちゃん、逃げよう!」

強盗に背を向けて逃げようとした瞬間、ゼーテは背中にゾクリと寒気を感じる。

「危ない!!」
「うぁっ!?」

思い切りシーヴァを突き飛ばす。シーヴァは数メートル横に吹っ飛び、誰もいない空中を強盗の右足が通過した。
蹴りが外れたことに少し驚いた表情を見せたが、すぐに気を取り直してゼーテに掴みかかった。

「あっ!」
「ゼーテ!?」

地面に背中を打ち付けた痛みに耐えて立ち上がると、ゼーテが見えた。
強盗の右腕で首を絞められ、左手でナイフを突き付けられている。

「ゼーテ!!」
「お兄ちゃ、う……あ……」
「うるせぇぞ、ガキ共!俺に近づくんじゃねぇ!」

ゼーテの首を絞めつける手を強めながら、ジリジリと路地裏に向かって後退する。

「ゼーテェェェ!!」
「お兄、ちゃ、ゲホッゲホッ!!」
「黙れっつってんだよ!お前は大人しく人質やってろ!」

ゼーテの顔面にナイフを当てがう。

「やめろ!!妹に触れるなぁぁ!!」
「おら、大人しくしろよ。さもないと、こうだ!!」

強盗は、ゼーテの顔を浅くピッと切った。
彼女の白い肌から真っ赤な血が流れ出る。

「いいか?今度抵抗したら口ん中にこのナイフ突っ込むからな!」
「あ……あ……」

そう言って強盗はゼーテの首をギリギリと絞め上げる。
ゼーテは既にグッタリとして動かず、ただ小さな呻き声を上げるだけだ。

「おい、強盗! 2度は言わないからよく聞け! ゼーテを……妹を離せ!」
「あ?ガキが何イキがってんだよ。テメェが1歩でも動いたら首掻っ切るぜ?」

シーヴァは、今までにないような怒りの表情を露わにしている。
だが、気迫とは裏腹に1歩を踏み出せずにいた。

(くそっ。確かに、この距離じゃ魔法を放っても向こうの方が恐らく一瞬早い。どうすれば……!)

強盗と睨み合いながら、シーヴァは策を練る。
しかし、この状況を打開できる案は思いつかない。

(一か八か、魔法弾を放ちながら突っ込むか!?いや、しかし……)

シーヴァが動けずにいると、首を絞められていたゼーテが突然意識を取り戻し、強盗の顔面に頭突きをかました。

「ぐえっ!」
「ゼーテ!?」

鼻を強打した強盗は一瞬怯んだが、すぐに持ち直すと激昴した様子で叫び出した。

「この糞ガキが!そんなに死にたいなら、今すぐ殺してやる!」

強盗がナイフをゼーテの首に当て、横に引く構えを取る。

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

ナイフの先端がゼーテの首に触れる。その時、シーヴァは脳内で「パキン」という何かが割れるような音を聞いた。

「死ねぇぇぇェェェ!!!」

瞬間、強盗の右腕が爆散した。

「な……!?」
「ゼーテ!」

呆気にとられている強盗をよそ目にシーヴァは素早く妹を救出し、場を離れる。

「ガ、キ……がぁぁぁぁ!!」

強盗は左手に持ったナイフを投げつける。
しかし、空中でナイフは動きを止めると、逆に強盗の足に突き刺さった。

「うぐええ!!」
「………」

堪らず膝をついた強盗を冷ややかに見つめるシーヴァ。
だが、強盗は最後に抵抗を放った。

「喰らえ!【電光弾サンダーバレット】!」

残っている左腕から放たれた魔弾は、シーヴァに触れる直前に消滅した。

「な、ぜ………」
「さあな、僕も知らない。だが、一つだけ分かる事がある」

シーヴァは強盗にさらに近づくと、髪の毛を掴んで顔をのぞき込んだ。
強盗からは、左眼が漆黒の闇を放出し続け、右眼が白銀に輝いている少年が目に入った。

「お前は死ぬってことだ。地獄で僕の妹に手を出したことを永遠に後悔するといい」

シーヴァが言い終わると、今度は強盗の体全体が爆散した。
その騒動の一部始終を遠巻きに見ていた野次馬達は、シーヴァが振り向いたと同時に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「ゼーテ、無事か?」
「う、うん。息苦しいけど、大丈夫」
「よし、なら帰ろうか。お腹も空いただろう? さ、行こう」

シーヴァの両眼の異常は既に収まっていた。
ゼーテは今の事象について聞こうと口を開いたが、否応なしにシーヴァに体を抱きかかえられたせいでまともに口が聞けなくなってしまった。

「あ、え?」
「大丈夫って言ってたけど、顔色悪いぞ?遠慮するな」
「あ、う、うん……」

ゼーテを抱きかかえたまま、シーヴァは走って家路を急いだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品