観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
第一章 あなたは誰?
急かされる焦燥に、私は足を走らせていた。
暗く不気味な場所を、私、黒木アリスは走っている。
ここは黒い世界。一面、見渡す限りの暗闇だ。さらにここにはいくつもの扉があった。安いアパートのような鉄扉から、緑色をしたインテリア調の扉。
中には綺麗な造形を施された扉まである。
私はそこを懸命に走る。服装は学校の制服で、大きく腕を動かし、必死に扉を開けていく。
何故なら、聞こえるから。辛そうな少女の声が。
「助け、て……。タスケ、テ……」
か細い声で、助けて、助けてと。何度だって。私は無性にこの声の子を助けてあげたくて、懸命に体を動かした。
「どこ、どこにいるの!?」
大声で呼びかけても、助けを求めている少女は答えてくれない。私はこんなにも助けたいと思っているのに。なのに、少女は応えても、姿を見せてもくれない。
急がないと。時間はあまりない。そうした思いだけが私を急かす。
いくつもある扉を一つずつ、片っ端から開けていく。
けれど、扉を開けた先はどこも真っ白な空間が広がるばかり。当然少女の姿もない。扉を閉めて、私は次の扉に向かう。
開ける。駄目。
開ける。違う。
開ける。ここでもない。
早く、早くしないと。
「はあ……、はあ……!」
この子を、助けてあげたい。
「助け、て……。タスケ、テ……」
耳を突く小さな悲鳴。弱々しい懇願が鼓膜に届き、私の心を焦らせる。
「もぉう、どこ? あなたはどこにいるの!?」
「助け、て……。タスケ、テ……」
無限を思わせる黒い世界を走り回り、疲労を重ねる体が重い。けれど無理やりにでも、私は次の一歩を踏み出した。そうして無数の中から一つ一つの扉を開けていく。
でも駄目だ、ついには限界を迎える。体が痛い、重くて倒れそう。私はついに立ち止まってしまった。
すると目の前の扉の裏から、一人の影が現れた。
その姿に目を奪われる。
それは、白いうさぎ.の少年だった。小学生くらいの小さな男の子。
なんて不思議な光景だろう。コスプレ? いいや違う、彼は本物だ。おとぎ話に出てくる幻想の住人。
少年の服装はタキシードで赤の蝶ネクタイを首元にあしらい、黒のシルクハットを被っている。けれどうさぎの耳が顔の横からピンと真上に立っていた。
顔や袖から覗く手は人のものだが、足だけがうさぎの足をしている。大きく白い体毛に覆われた足が、オニキスを思わせる透明感のある地面に乗っていた。
そんな彼が、私に向かってお辞儀をする。帽子が落ちないように片手で押さえて。そして、少女を探し回り、疲れ果てた私に言うのだ。幼く、朗らかな声で。
「やあ、ご機嫌ようアリス。一緒にワンダーランドへと行こう。しかし残念。扉はまだ開いていない」
演じるようにそう言って、白うさぎの少年は微笑む。
そこで、私の意識がぐらりと揺れた。
世界が終わる。
救えなかった。
助けられなかった。
またも。
またしても。
私に罪悪感を突きつけて。
「待って! 私はまだ――」
言っていて、視界が揺れる。遠ざかる。待って、私はまだ助けていない。やり残したことがある。けれど、意識が遠のいていく。
私はなにも出来ないまま、悔しい思いを残して、この黒い世界から消えていく――
暗く不気味な場所を、私、黒木アリスは走っている。
ここは黒い世界。一面、見渡す限りの暗闇だ。さらにここにはいくつもの扉があった。安いアパートのような鉄扉から、緑色をしたインテリア調の扉。
中には綺麗な造形を施された扉まである。
私はそこを懸命に走る。服装は学校の制服で、大きく腕を動かし、必死に扉を開けていく。
何故なら、聞こえるから。辛そうな少女の声が。
「助け、て……。タスケ、テ……」
か細い声で、助けて、助けてと。何度だって。私は無性にこの声の子を助けてあげたくて、懸命に体を動かした。
「どこ、どこにいるの!?」
大声で呼びかけても、助けを求めている少女は答えてくれない。私はこんなにも助けたいと思っているのに。なのに、少女は応えても、姿を見せてもくれない。
急がないと。時間はあまりない。そうした思いだけが私を急かす。
いくつもある扉を一つずつ、片っ端から開けていく。
けれど、扉を開けた先はどこも真っ白な空間が広がるばかり。当然少女の姿もない。扉を閉めて、私は次の扉に向かう。
開ける。駄目。
開ける。違う。
開ける。ここでもない。
早く、早くしないと。
「はあ……、はあ……!」
この子を、助けてあげたい。
「助け、て……。タスケ、テ……」
耳を突く小さな悲鳴。弱々しい懇願が鼓膜に届き、私の心を焦らせる。
「もぉう、どこ? あなたはどこにいるの!?」
「助け、て……。タスケ、テ……」
無限を思わせる黒い世界を走り回り、疲労を重ねる体が重い。けれど無理やりにでも、私は次の一歩を踏み出した。そうして無数の中から一つ一つの扉を開けていく。
でも駄目だ、ついには限界を迎える。体が痛い、重くて倒れそう。私はついに立ち止まってしまった。
すると目の前の扉の裏から、一人の影が現れた。
その姿に目を奪われる。
それは、白いうさぎ.の少年だった。小学生くらいの小さな男の子。
なんて不思議な光景だろう。コスプレ? いいや違う、彼は本物だ。おとぎ話に出てくる幻想の住人。
少年の服装はタキシードで赤の蝶ネクタイを首元にあしらい、黒のシルクハットを被っている。けれどうさぎの耳が顔の横からピンと真上に立っていた。
顔や袖から覗く手は人のものだが、足だけがうさぎの足をしている。大きく白い体毛に覆われた足が、オニキスを思わせる透明感のある地面に乗っていた。
そんな彼が、私に向かってお辞儀をする。帽子が落ちないように片手で押さえて。そして、少女を探し回り、疲れ果てた私に言うのだ。幼く、朗らかな声で。
「やあ、ご機嫌ようアリス。一緒にワンダーランドへと行こう。しかし残念。扉はまだ開いていない」
演じるようにそう言って、白うさぎの少年は微笑む。
そこで、私の意識がぐらりと揺れた。
世界が終わる。
救えなかった。
助けられなかった。
またも。
またしても。
私に罪悪感を突きつけて。
「待って! 私はまだ――」
言っていて、視界が揺れる。遠ざかる。待って、私はまだ助けていない。やり残したことがある。けれど、意識が遠のいていく。
私はなにも出来ないまま、悔しい思いを残して、この黒い世界から消えていく――
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コメント
ヒロ
始まりからとても引き込まれました。
私は最近初投稿しました。
人狼中学校ってやつを書いてます。
よかったら読んでみて下さい。