観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
日常2
そうして時間が過ぎるのを待っていると、隣の席に人がやってきた。
「アリスさん、おはようございます。今朝も早いのですね」
朝によく合う澄んだ声が耳を通る。喋り方一つ取っただけも伝わってくる上品さは、この教室には一人しかいない。
「おはよう、久遠」
私は振り向き、彼女の微笑に合わせて口元を持ち上げた。
隣の席のクラスメイト。折紙久遠。クリーム色の淡いセミロングが着席と同時に揺れていた。
白いリボンで髪を一つにまとめ、袖から覗く腕も新雪のように透き通った白をしている。目つきは優しく、穏やかで品のある人。
「今朝はまあ、ちょっと早くに起きちゃって。でもいつも通りよ」
「いつもだからすごいのですよ。私は一日だって真似できそうにありませんわ。……ふぁ~」
席に着いた久遠が片手を口許に当てながら欠伸をする。昨日は夜更かしでもしたのだろうか。ただ、欠伸をしただけなのに彼女が行うと可愛らしい仕草に見える。なんかずるい。
すると唐突に、久遠は眠たそうにしていた目を見開き私に振り向いてきた。
「そういえばアリスさん、ご存知ですか!?」
「あ、その感じ。もしかして今朝も?」
彼女の唐突な行動だが私は驚かない。慣れというのはおそろしいものだ。
久遠は珍しい物好きで、仕入れた情報を毎朝私に教えてくれるのだ。昨日は芸能人のこと、もっと前ならゲームの一つであるホラー系TRPGのこととか。
久遠の対象は幅が広い。いったいどこから仕入れてくるのか。
「実は最近、学校の近くにクレープ屋さんが出るようになったのですよ? そしてそこのチョコバナナクレープが絶品なんです!」
「へえ~」
クレープか、いいなあ。久遠の口から出てきた甘美なささやきについ食べるところを妄想してしまう。
「久遠はよくそんなものまで知ってるわね。珍しいもの好きっていうか、新しい物好きっていうか」
久遠は新しいものに目がない。それか、好奇心旺盛? っていうのかな。久遠はいつも何かに目を輝かせてる。毎日楽しそうで羨ましい限り。
「あ、いつもと言えば。アリスさん、今朝もあの夢を見たのですか?」
すると、くるりと大きな瞳を向けて久遠が話題を変えてきた。あの夢、といえばあれしかない。
「あー……、うん。今朝も」
少女に助けを求められるも、助けられない夢。無力感と罪悪感を突き付ける夢に、顔が少しだけ暗くなる。
「不思議なことですよね。いつも同じ夢を見るのだなんて」
「いつもだから慣れちゃったけどね」
私は肩を竦めて、やれやれと毎朝の苦行を受け流した。
黒い世界で助けを呼ぶ少女と、最後に現れる白うさぎの少年。それだけならまだしも、毎晩見るなんて。うーん、不思議。
普通に見えて、私はそう普通でもない。人とは違うところがある。まあ、自分でいうことではないけれど。
なんだけど、久遠は笑っていた。
「きっと、アリスさんは特別なんですわ」
「ちょっと、止めてよ、からかわないで」
「からかってなどいませんわ。普通、こんなことありませんもの」
「それはそうだけど。でも、私だけが特別じゃないわ。それは皆も同じよ」
私は真面目に言い切る。皆が特別。そう思っていたから。私は誰に見せるわけでもなく頷いた。
「?」
「あ、その、なんていうんだろ、例えば……」
「アリスさん、おはようございます。今朝も早いのですね」
朝によく合う澄んだ声が耳を通る。喋り方一つ取っただけも伝わってくる上品さは、この教室には一人しかいない。
「おはよう、久遠」
私は振り向き、彼女の微笑に合わせて口元を持ち上げた。
隣の席のクラスメイト。折紙久遠。クリーム色の淡いセミロングが着席と同時に揺れていた。
白いリボンで髪を一つにまとめ、袖から覗く腕も新雪のように透き通った白をしている。目つきは優しく、穏やかで品のある人。
「今朝はまあ、ちょっと早くに起きちゃって。でもいつも通りよ」
「いつもだからすごいのですよ。私は一日だって真似できそうにありませんわ。……ふぁ~」
席に着いた久遠が片手を口許に当てながら欠伸をする。昨日は夜更かしでもしたのだろうか。ただ、欠伸をしただけなのに彼女が行うと可愛らしい仕草に見える。なんかずるい。
すると唐突に、久遠は眠たそうにしていた目を見開き私に振り向いてきた。
「そういえばアリスさん、ご存知ですか!?」
「あ、その感じ。もしかして今朝も?」
彼女の唐突な行動だが私は驚かない。慣れというのはおそろしいものだ。
久遠は珍しい物好きで、仕入れた情報を毎朝私に教えてくれるのだ。昨日は芸能人のこと、もっと前ならゲームの一つであるホラー系TRPGのこととか。
久遠の対象は幅が広い。いったいどこから仕入れてくるのか。
「実は最近、学校の近くにクレープ屋さんが出るようになったのですよ? そしてそこのチョコバナナクレープが絶品なんです!」
「へえ~」
クレープか、いいなあ。久遠の口から出てきた甘美なささやきについ食べるところを妄想してしまう。
「久遠はよくそんなものまで知ってるわね。珍しいもの好きっていうか、新しい物好きっていうか」
久遠は新しいものに目がない。それか、好奇心旺盛? っていうのかな。久遠はいつも何かに目を輝かせてる。毎日楽しそうで羨ましい限り。
「あ、いつもと言えば。アリスさん、今朝もあの夢を見たのですか?」
すると、くるりと大きな瞳を向けて久遠が話題を変えてきた。あの夢、といえばあれしかない。
「あー……、うん。今朝も」
少女に助けを求められるも、助けられない夢。無力感と罪悪感を突き付ける夢に、顔が少しだけ暗くなる。
「不思議なことですよね。いつも同じ夢を見るのだなんて」
「いつもだから慣れちゃったけどね」
私は肩を竦めて、やれやれと毎朝の苦行を受け流した。
黒い世界で助けを呼ぶ少女と、最後に現れる白うさぎの少年。それだけならまだしも、毎晩見るなんて。うーん、不思議。
普通に見えて、私はそう普通でもない。人とは違うところがある。まあ、自分でいうことではないけれど。
なんだけど、久遠は笑っていた。
「きっと、アリスさんは特別なんですわ」
「ちょっと、止めてよ、からかわないで」
「からかってなどいませんわ。普通、こんなことありませんもの」
「それはそうだけど。でも、私だけが特別じゃないわ。それは皆も同じよ」
私は真面目に言い切る。皆が特別。そう思っていたから。私は誰に見せるわけでもなく頷いた。
「?」
「あ、その、なんていうんだろ、例えば……」
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