観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
買い物3
私は更衣室のカーテンを開け外に出た。
「どうでしょう、お気に召しましたでしょうか?」
「ええ、ありがとうございます。とてもいい服ですわ《久遠流》」
私は上機嫌に店員さんに笑みを浮かべた。脱いだ学生服は自宅に届けてくれるらしく、またお代は彼がすでに払っているということで私はそのまま外へと出る。
お店を出て行く私を、従業員が深々と頭を下げてお見送りしてくれた。今更だけど、この服いったいおいくらなの?
私はタクシーに乗り込み扉を閉める。見違った私の服装を誇るように、私はふんと自慢げに隣に座ってやる。そんな私をホワイトがちらりと横目で見遣るが、すぐに正面を向いてしまった。
「馬子にも衣装だな」
「…………」
ふん。まあいいわよ、買ってくれたんだし、文句は言わないわよ。
タクシーが走り出し、次なる目的地へと向かう。再びあの気まずい時間を過ごすのかと憂鬱になるが、数分後には到着していた。
開かれた扉から身を乗り出し、ドレスの裾に気をつけて外へ出る。コンクリートの地面に立ち、私は正面を、いや、そこにあったものを見上げた。私の眼前に聳える巨大な建物。それは、
「ここ、西京グランドホテルじゃない!」
タクシーが止まったのはこの町一番の高級ホテルの正面だった。それこそ金持ちか結婚記念日にしか利用しないような。
正面入り口は車が立ち寄れるように道路に面しており、巨大な自動扉の前には荷物持ちの係員が待機している。
白を基調とし天高く伸びる建物はそれこそ私たちには雲の上のような場所。なのに、私は今ここにいる。
高貴な黒のドレスを身にまとい、入り口前に立っているのだ。これはなんの夢? だってこんなのあり得ない。あの黒い世界とはまた違う意味で、こんなこと私の身に起こるはずがないのに。
「どうした、早く行くぞ」
「行くって、ここに? まさか、そのために服を買ったの?」
「当然だ」
ホワイトは何気なく、瞳を閉じてそう言った。威張るわけでも誇るわけでもなく、本当に何気なく。
私はそんなホワイトをまじまじと見つめてしまう。初め見た時から思っていたことだけど、ここにきて私は確信する。
この人、金持ちだ。
「それとも迷惑だったか?」
「ぜ、ぜんぜん! その」
まぶたを開け、私を見てくる彼の瞳に慌てて首を振る。それで私は一応、言っておいた。
「あ、ありがとう」
「…………」
ホワイトは黙ったまま歩き出してしまった。
無視!?
「ちょっと待ってよ~!」
もう、少しくらい待ってくれてもいいのに! 私も後に続き隣に並んだ。
私たちは巨大なガラス扉を通りホテルの中へと入る。まず目に飛び込んできたのはロビーを照らす巨大なシャンデリアだった。次に受付フロントと休憩所にある茶色のソファに赤い絨毯。
私は初めて来たホテルに歩きながら視線が右へ左へと移ってしまう。まるで落ち着きのない子犬のよう。
しかしホワイトはまっすぐと迷うことなくエレベーターの前にまで来ていた。ホワイトと比べたら、今の私はさぞかし子供っぽいことだろう。
まるで場違いな世界に迷い込んでしまったよう。けれど圧倒されるほどの美しさは変わらない。まるで夢のような時間。夢の中でさえこんなことなかったのに。
そう、夢の中でさえ。私は瞳を輝かせ周囲を見る。いつしか心は魅了されてしまって、内心では興奮してしまう。女の子ならこういうこと、一度はしてみたいって思うもの。
それが今叶ってるんだ。そうよ、せっかくなら楽しまないと。きれいなドレスに高級ホテル、うん、悪くないんじゃない?
「どうでしょう、お気に召しましたでしょうか?」
「ええ、ありがとうございます。とてもいい服ですわ《久遠流》」
私は上機嫌に店員さんに笑みを浮かべた。脱いだ学生服は自宅に届けてくれるらしく、またお代は彼がすでに払っているということで私はそのまま外へと出る。
お店を出て行く私を、従業員が深々と頭を下げてお見送りしてくれた。今更だけど、この服いったいおいくらなの?
私はタクシーに乗り込み扉を閉める。見違った私の服装を誇るように、私はふんと自慢げに隣に座ってやる。そんな私をホワイトがちらりと横目で見遣るが、すぐに正面を向いてしまった。
「馬子にも衣装だな」
「…………」
ふん。まあいいわよ、買ってくれたんだし、文句は言わないわよ。
タクシーが走り出し、次なる目的地へと向かう。再びあの気まずい時間を過ごすのかと憂鬱になるが、数分後には到着していた。
開かれた扉から身を乗り出し、ドレスの裾に気をつけて外へ出る。コンクリートの地面に立ち、私は正面を、いや、そこにあったものを見上げた。私の眼前に聳える巨大な建物。それは、
「ここ、西京グランドホテルじゃない!」
タクシーが止まったのはこの町一番の高級ホテルの正面だった。それこそ金持ちか結婚記念日にしか利用しないような。
正面入り口は車が立ち寄れるように道路に面しており、巨大な自動扉の前には荷物持ちの係員が待機している。
白を基調とし天高く伸びる建物はそれこそ私たちには雲の上のような場所。なのに、私は今ここにいる。
高貴な黒のドレスを身にまとい、入り口前に立っているのだ。これはなんの夢? だってこんなのあり得ない。あの黒い世界とはまた違う意味で、こんなこと私の身に起こるはずがないのに。
「どうした、早く行くぞ」
「行くって、ここに? まさか、そのために服を買ったの?」
「当然だ」
ホワイトは何気なく、瞳を閉じてそう言った。威張るわけでも誇るわけでもなく、本当に何気なく。
私はそんなホワイトをまじまじと見つめてしまう。初め見た時から思っていたことだけど、ここにきて私は確信する。
この人、金持ちだ。
「それとも迷惑だったか?」
「ぜ、ぜんぜん! その」
まぶたを開け、私を見てくる彼の瞳に慌てて首を振る。それで私は一応、言っておいた。
「あ、ありがとう」
「…………」
ホワイトは黙ったまま歩き出してしまった。
無視!?
「ちょっと待ってよ~!」
もう、少しくらい待ってくれてもいいのに! 私も後に続き隣に並んだ。
私たちは巨大なガラス扉を通りホテルの中へと入る。まず目に飛び込んできたのはロビーを照らす巨大なシャンデリアだった。次に受付フロントと休憩所にある茶色のソファに赤い絨毯。
私は初めて来たホテルに歩きながら視線が右へ左へと移ってしまう。まるで落ち着きのない子犬のよう。
しかしホワイトはまっすぐと迷うことなくエレベーターの前にまで来ていた。ホワイトと比べたら、今の私はさぞかし子供っぽいことだろう。
まるで場違いな世界に迷い込んでしまったよう。けれど圧倒されるほどの美しさは変わらない。まるで夢のような時間。夢の中でさえこんなことなかったのに。
そう、夢の中でさえ。私は瞳を輝かせ周囲を見る。いつしか心は魅了されてしまって、内心では興奮してしまう。女の子ならこういうこと、一度はしてみたいって思うもの。
それが今叶ってるんだ。そうよ、せっかくなら楽しまないと。きれいなドレスに高級ホテル、うん、悪くないんじゃない?
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