観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
食事
「いらっしゃいませ。ご予約はありますでしょうか?」
「二名で予約を取っているホワイトだ」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
店員は手で席を示してからしっかりとした動きで歩き出す。ホワイトは当然のように店員の後をついていき、私も彼らに倣って歩く。
予約なんていつ取ったんだろう。そしてこの雰囲気、なんかすごい。なんだろう、この感じ。上手く言えないけど、なんかすごい。
私たちが案内された席は二人用の席に白のテーブルクロスが敷かれ、さらには窓際だった。
テーブルには初めからナイフやフォークがいくつも並べられている。他にもテーブルはあるが、正午を過ぎたこの時間には私たちしかいない。
店員さんに椅子を引かれ、そこに腰を下ろす。対面には当然ホワイトがおり、視線を右へとずらせばさきほど感動した街の景色が広がっている。
青空と建物がずっと並ぶ、夜景なんかきっとドラマチックな席。この時間帯に来たのがもったいないかも、なんて少しだけ思ってしまう。
店員さんは会釈してから離れると、少ししてから別の男性店員がやってきた。なんだろうか、さきほどの人よりも年上の、すらりとした三十代か四十代ほどの人。
柔らかい笑顔がさまになっている。
「お久しぶりです、ホワイト様。本日も当店をご利用いただきありがとうございます」
え、お久しぶり? どういうこと? 私は急いでホワイトに向き直るが、彼は無表情に近い顔のままテーブルを見つめていた。いや、見てあげなさいよ。
「急ですまなかったな」
「いえ、とんでもございません。いつでもいらしてください。……ですが」
そこで男の人は言葉に一拍の間を置いてから、優しい目を私に向けてきた。
「ホワイト様にお連れ様がいるとはまた珍しい。事前に女性の方であると教えてもらえましたら、こちらでなにかしらご用意をさせていただけたのですが」
「構わん。いつも通りでいい」
「かしこまりました」
ホワイトと男の人で淡々とやり取りが進んでいる。もう確認するまでもなく、彼はここの常連だ。嘘でしょ、あんた年になん回誕生日あるのよ?
「お嬢様」
「へ!?」
お嬢様? 私のこと? しまった、いきなり声をかけられたから、変な声が。
「ご来店、まことにありがとうございます。私はこういう者です」
そう言いながら彼は私に名刺を渡してきた。私は急いで立ち上がり両手で受け取る。見てみると、そこにはここのレストラン名とオーナーの文字が。
え、この人オーナー? こんなに若いのに!?
「あ、あの、はじめまして。私、黒木アリスといいます」
ぎこちないあいさつは不慣れなこと丸出しだが、彼は笑顔のままだった。私は緊張した固い動きで席に戻る。
どうしよう、名刺なんかもらっちゃったけど、でもなにに使えばいいの? カードゲーム? 五枚集めれば特殊勝利?
それからホワイトとオーナーで二、三言葉を交わしてからオーナーは離れていった。ようやく緊張が解けた私は肩の力が抜けるが、すぐにホワイトへと目を向ける。
「ねえ、ここへはよく来るの?」
「たまにな」
「たまに……」
やはり初めてではないらしい。それにしても、お腹が空いたという出だしからよくここまで飛躍したというか、大事になったものよね。食事するために服を買うとかどんな異次元よ。
私は彼の感覚に呆れそうになるが、そうこうしているうちに店員さんが近づいてきた。両手にお皿を乗せて。
「二名で予約を取っているホワイトだ」
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
店員は手で席を示してからしっかりとした動きで歩き出す。ホワイトは当然のように店員の後をついていき、私も彼らに倣って歩く。
予約なんていつ取ったんだろう。そしてこの雰囲気、なんかすごい。なんだろう、この感じ。上手く言えないけど、なんかすごい。
私たちが案内された席は二人用の席に白のテーブルクロスが敷かれ、さらには窓際だった。
テーブルには初めからナイフやフォークがいくつも並べられている。他にもテーブルはあるが、正午を過ぎたこの時間には私たちしかいない。
店員さんに椅子を引かれ、そこに腰を下ろす。対面には当然ホワイトがおり、視線を右へとずらせばさきほど感動した街の景色が広がっている。
青空と建物がずっと並ぶ、夜景なんかきっとドラマチックな席。この時間帯に来たのがもったいないかも、なんて少しだけ思ってしまう。
店員さんは会釈してから離れると、少ししてから別の男性店員がやってきた。なんだろうか、さきほどの人よりも年上の、すらりとした三十代か四十代ほどの人。
柔らかい笑顔がさまになっている。
「お久しぶりです、ホワイト様。本日も当店をご利用いただきありがとうございます」
え、お久しぶり? どういうこと? 私は急いでホワイトに向き直るが、彼は無表情に近い顔のままテーブルを見つめていた。いや、見てあげなさいよ。
「急ですまなかったな」
「いえ、とんでもございません。いつでもいらしてください。……ですが」
そこで男の人は言葉に一拍の間を置いてから、優しい目を私に向けてきた。
「ホワイト様にお連れ様がいるとはまた珍しい。事前に女性の方であると教えてもらえましたら、こちらでなにかしらご用意をさせていただけたのですが」
「構わん。いつも通りでいい」
「かしこまりました」
ホワイトと男の人で淡々とやり取りが進んでいる。もう確認するまでもなく、彼はここの常連だ。嘘でしょ、あんた年になん回誕生日あるのよ?
「お嬢様」
「へ!?」
お嬢様? 私のこと? しまった、いきなり声をかけられたから、変な声が。
「ご来店、まことにありがとうございます。私はこういう者です」
そう言いながら彼は私に名刺を渡してきた。私は急いで立ち上がり両手で受け取る。見てみると、そこにはここのレストラン名とオーナーの文字が。
え、この人オーナー? こんなに若いのに!?
「あ、あの、はじめまして。私、黒木アリスといいます」
ぎこちないあいさつは不慣れなこと丸出しだが、彼は笑顔のままだった。私は緊張した固い動きで席に戻る。
どうしよう、名刺なんかもらっちゃったけど、でもなにに使えばいいの? カードゲーム? 五枚集めれば特殊勝利?
それからホワイトとオーナーで二、三言葉を交わしてからオーナーは離れていった。ようやく緊張が解けた私は肩の力が抜けるが、すぐにホワイトへと目を向ける。
「ねえ、ここへはよく来るの?」
「たまにな」
「たまに……」
やはり初めてではないらしい。それにしても、お腹が空いたという出だしからよくここまで飛躍したというか、大事になったものよね。食事するために服を買うとかどんな異次元よ。
私は彼の感覚に呆れそうになるが、そうこうしているうちに店員さんが近づいてきた。両手にお皿を乗せて。
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