観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
食事4
「気になるか?」
「ええ、もちろん」
「……そうか」
けれど、すぐに視線を切ってしまう。そんな彼を私はずっと見つめる。なんでだろう。
今、彼の目が寂しそうに見えた。気のせいだろうか。
「それで、お前は今後どうするんだ?」
彼の言葉にハッとなる。そうだ、忘れていたわけではないけれど、私には問題が残っている。
黒い世界と、そこから現れる黒い怪物、メモリー。この脅威をなんとかしなければならない。
私を真っ直ぐと見つめてくるホワイトの瞳は力強く、寂しさなんて少しもない。きっとさっきのは見間違いなのだろう。
「メモリーについて前にも言ったが、あれはお前が忘れた記憶だ。忘れてしまった記憶というのは知識でなくなるため、表層世界から深層世界へと落される。そこで、奴らはメモリーという形を得る。再び記憶に戻りたいと願いながらな。お前が記憶を思い出そうとすれば奴らはこちら側へと浮上する。お前はもう、過去を思い出そうとするな」
「それは分かるけど、でも、それじゃ駄目よ。私は夢の中に出てくる女の子を救わないといけないの。あの子を助けるためには、昔にあったことを思い出さないといけなくて」
奴ら、メモリーが忘れてしまった記憶なら、思い出そうとするだけで私の目の前に現れる。それは分かる。でも、あの子を助けるためには過去の記憶を思い出さないといけない。
私は助けたいという一心から声を出す。けれど、ホワイトの返事は冷たかった。
「それこそ忘れろ、その方が安全だ」
「忘れるなんて嫌よ!」
私の大声が周囲に広がる。それで我に返り周りを見てみると、店員が何事かと心配そうに見つめていた。私は姿勢を正してホワイトを見る。彼はいつも通り、驚いてもいなかった。
「それは無理よ。私ね、数年間同じ夢を見てるの」
「知っている」
夢のことも知ってる。なんでも知ってるんだ、私のこと。
「あの子の声、毎晩聞いてる。毎朝あの子の声で起きる。いつもいつも辛そうで、本当に悲しそうに、助けてって私を呼んでるの。ねえ、忘れ去られた記憶、そのメモリーだけど、思い出すことは出来ないの?」
私は恐る恐る、ホワイトに尋ねてみる。反対されると分かっているから。もしくは答えてくれないか。どちらかだろうと覚悟しながらも、私は聞いてみた。
「メモリーを倒すとハートのエンブレムとなって現れる」
「え?」
「それを額に当てれば、そのメモリーに該当する記憶を思い出せる」
意外にも、彼は教えてくれた。記憶を取り戻す方法を。期待していなかった分、驚いてしまう。
「ホワイト……」
「勘違いするな、これは警告だ」
喜びそうになるが言葉で刺されてしまう。ホワイトはあくまでも反対だと、いつもの態度に険が混じっている。
「メモリーとはトラウマの記憶。あってはならない記憶だ。お前がエンブレムを手にすれば、それを思い出してしまう。辛い思いをするだけだ。お前を守る立場上、お前に危険な行為はさせられない」
「そっか。うん……」
彼の厳しい物言いに私は目線を下げて、小さく頷いた。けれど苦しくない。むしろ嬉しかった。彼の言葉が。
「ありがとう」
「なに?」
「私のこと、ちゃんと心配してくれてるんだ」
そっと視線を寄越して、怪訝な顔をしているホワイトを覗いてやる。あれだけ微動だにしなかった彼の顔が崩れていて、ちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
「なんにも興味なさそうな顔して。なんか安心した」
そして、表情が崩れているのはきっと私も同じ。私は目線を再び下げて、自分の思いを確認してみる。そう、私が本当にしたいことを。
「ええ、もちろん」
「……そうか」
けれど、すぐに視線を切ってしまう。そんな彼を私はずっと見つめる。なんでだろう。
今、彼の目が寂しそうに見えた。気のせいだろうか。
「それで、お前は今後どうするんだ?」
彼の言葉にハッとなる。そうだ、忘れていたわけではないけれど、私には問題が残っている。
黒い世界と、そこから現れる黒い怪物、メモリー。この脅威をなんとかしなければならない。
私を真っ直ぐと見つめてくるホワイトの瞳は力強く、寂しさなんて少しもない。きっとさっきのは見間違いなのだろう。
「メモリーについて前にも言ったが、あれはお前が忘れた記憶だ。忘れてしまった記憶というのは知識でなくなるため、表層世界から深層世界へと落される。そこで、奴らはメモリーという形を得る。再び記憶に戻りたいと願いながらな。お前が記憶を思い出そうとすれば奴らはこちら側へと浮上する。お前はもう、過去を思い出そうとするな」
「それは分かるけど、でも、それじゃ駄目よ。私は夢の中に出てくる女の子を救わないといけないの。あの子を助けるためには、昔にあったことを思い出さないといけなくて」
奴ら、メモリーが忘れてしまった記憶なら、思い出そうとするだけで私の目の前に現れる。それは分かる。でも、あの子を助けるためには過去の記憶を思い出さないといけない。
私は助けたいという一心から声を出す。けれど、ホワイトの返事は冷たかった。
「それこそ忘れろ、その方が安全だ」
「忘れるなんて嫌よ!」
私の大声が周囲に広がる。それで我に返り周りを見てみると、店員が何事かと心配そうに見つめていた。私は姿勢を正してホワイトを見る。彼はいつも通り、驚いてもいなかった。
「それは無理よ。私ね、数年間同じ夢を見てるの」
「知っている」
夢のことも知ってる。なんでも知ってるんだ、私のこと。
「あの子の声、毎晩聞いてる。毎朝あの子の声で起きる。いつもいつも辛そうで、本当に悲しそうに、助けてって私を呼んでるの。ねえ、忘れ去られた記憶、そのメモリーだけど、思い出すことは出来ないの?」
私は恐る恐る、ホワイトに尋ねてみる。反対されると分かっているから。もしくは答えてくれないか。どちらかだろうと覚悟しながらも、私は聞いてみた。
「メモリーを倒すとハートのエンブレムとなって現れる」
「え?」
「それを額に当てれば、そのメモリーに該当する記憶を思い出せる」
意外にも、彼は教えてくれた。記憶を取り戻す方法を。期待していなかった分、驚いてしまう。
「ホワイト……」
「勘違いするな、これは警告だ」
喜びそうになるが言葉で刺されてしまう。ホワイトはあくまでも反対だと、いつもの態度に険が混じっている。
「メモリーとはトラウマの記憶。あってはならない記憶だ。お前がエンブレムを手にすれば、それを思い出してしまう。辛い思いをするだけだ。お前を守る立場上、お前に危険な行為はさせられない」
「そっか。うん……」
彼の厳しい物言いに私は目線を下げて、小さく頷いた。けれど苦しくない。むしろ嬉しかった。彼の言葉が。
「ありがとう」
「なに?」
「私のこと、ちゃんと心配してくれてるんだ」
そっと視線を寄越して、怪訝な顔をしているホワイトを覗いてやる。あれだけ微動だにしなかった彼の顔が崩れていて、ちょっとだけ可愛いと思ってしまった。
「なんにも興味なさそうな顔して。なんか安心した」
そして、表情が崩れているのはきっと私も同じ。私は目線を再び下げて、自分の思いを確認してみる。そう、私が本当にしたいことを。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
1512
-
-
267
-
-
238
-
-
59
-
-
55
-
-
159
-
-
32
-
-
2
-
-
381
コメント