観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
決着
「怖いよ、たしかに怖い。あんな体験、二度としたくない。メモリーを前にして感じた、あの恐怖。想像しただけで身体が凍りそう。それでもね」
あたしがしたいこと。それは身を守ること? あの怪物から逃げて、襲われないようにすること? ううん、それもあるけど、本当は違うよね、アリス。
「あの子も、同じ思いをしてるのよ。それもずっと一人で。黒い世界に閉じ込められて、もう何年も一人っきりで、あの恐怖に耐えてるの。そんなの我慢できない」
怖いと思う一方で、負けないくらいに助けたいと思う。あの子のことを。
「かわいそうだよ、そんなの!」
このままずっと、誰に助けられることもなく、放って置かれるなんて。あんな怖い思いをずっとするなんて、そんなのは駄目。
「だから、お前が危険を顧みず助けると?」
「そうよ」
私は顔を上げてホワイトの瞳を見る。鋭く青い、彼の双眸が私の覚悟の前に立ち塞がる。けれど、私も負けない。
「ホワイトには迷惑かける。また助けてもらうことになる。危険なのも分かる。それでも。これが私の思いなの。あの子を助けたいって、ずっと思ってた。それは今も変わらない。これが私の気持ち」
真っ直ぐに。覚悟は瞳を鋼に変えて、ホワイトへと突き出した。
「文句ある、ホワイト?」
少しの間、無言の空気が流れた。時間が止まった気さえする、重い雰囲気。けれど私の決意に支障はない。ひびどころか傷つくことなく、私は無言に力を込めていく。
そして、最初に口を開いたのは、ホワイトの方だった。
「まったく」
嫌そうに、けれど、どこか納得したような彼の声。ホワイトは姿勢を若干楽にして、ため息を吐くように口にした。
「あるに決まっている。だが、止める術もあるまい。厄介な小娘だよ、まったく」
「ごめんね、ホワイト」
辟易とした彼にかけた言葉は嫌味に聞こえてしまっただろうか。けれどこれが正直な気持ちだから。決してあなたのことを蔑ろにしているわけじゃないの。ただ、どうしても譲れないだけ。
「ありがとう、ホワイト」
だからせめて、私は彼にお礼を言っておく。
「…………」
けれど、彼は瞳を閉じると黙り込んでしまった。それは怒っているとかではなくて、それこそ穏やかな印象すら受ける。彼はしばらくそうしていたが、ホワイトはそのまま、一言だけ口にした。
「…………いいさ」
あれ、なんだろう。この違和感。嫌味や皮肉とか、そんなこと予想してたのに。彼はそう言う。なんで?
こんなにも我が強い人なのに、私を助けてくれて、心配してくれて、手伝ってもくれる。
あたなはいったい何者なの? あなたが何故守ってくれるのか、あなたが何を考えているのか、今も何を思っているのか、私、分からないよ。
「では行くぞ」
「え?」
「助けに行くんだろう?」
彼が席を立つ。私も続いて立ち上がった。私は彼への興味を一旦頭の隅に追いやり、今すべき目的を中央に置く。彼のことは気になるけれど、私がやるべきことはそれじゃない。
そうだ、あの子を助けに行かないと。
私たちは会計を済ませ、一時の安らぎを後にした。
しまった! 苺のミルフィーユ、最後まで食べてない……。
あたしがしたいこと。それは身を守ること? あの怪物から逃げて、襲われないようにすること? ううん、それもあるけど、本当は違うよね、アリス。
「あの子も、同じ思いをしてるのよ。それもずっと一人で。黒い世界に閉じ込められて、もう何年も一人っきりで、あの恐怖に耐えてるの。そんなの我慢できない」
怖いと思う一方で、負けないくらいに助けたいと思う。あの子のことを。
「かわいそうだよ、そんなの!」
このままずっと、誰に助けられることもなく、放って置かれるなんて。あんな怖い思いをずっとするなんて、そんなのは駄目。
「だから、お前が危険を顧みず助けると?」
「そうよ」
私は顔を上げてホワイトの瞳を見る。鋭く青い、彼の双眸が私の覚悟の前に立ち塞がる。けれど、私も負けない。
「ホワイトには迷惑かける。また助けてもらうことになる。危険なのも分かる。それでも。これが私の思いなの。あの子を助けたいって、ずっと思ってた。それは今も変わらない。これが私の気持ち」
真っ直ぐに。覚悟は瞳を鋼に変えて、ホワイトへと突き出した。
「文句ある、ホワイト?」
少しの間、無言の空気が流れた。時間が止まった気さえする、重い雰囲気。けれど私の決意に支障はない。ひびどころか傷つくことなく、私は無言に力を込めていく。
そして、最初に口を開いたのは、ホワイトの方だった。
「まったく」
嫌そうに、けれど、どこか納得したような彼の声。ホワイトは姿勢を若干楽にして、ため息を吐くように口にした。
「あるに決まっている。だが、止める術もあるまい。厄介な小娘だよ、まったく」
「ごめんね、ホワイト」
辟易とした彼にかけた言葉は嫌味に聞こえてしまっただろうか。けれどこれが正直な気持ちだから。決してあなたのことを蔑ろにしているわけじゃないの。ただ、どうしても譲れないだけ。
「ありがとう、ホワイト」
だからせめて、私は彼にお礼を言っておく。
「…………」
けれど、彼は瞳を閉じると黙り込んでしまった。それは怒っているとかではなくて、それこそ穏やかな印象すら受ける。彼はしばらくそうしていたが、ホワイトはそのまま、一言だけ口にした。
「…………いいさ」
あれ、なんだろう。この違和感。嫌味や皮肉とか、そんなこと予想してたのに。彼はそう言う。なんで?
こんなにも我が強い人なのに、私を助けてくれて、心配してくれて、手伝ってもくれる。
あたなはいったい何者なの? あなたが何故守ってくれるのか、あなたが何を考えているのか、今も何を思っているのか、私、分からないよ。
「では行くぞ」
「え?」
「助けに行くんだろう?」
彼が席を立つ。私も続いて立ち上がった。私は彼への興味を一旦頭の隅に追いやり、今すべき目的を中央に置く。彼のことは気になるけれど、私がやるべきことはそれじゃない。
そうだ、あの子を助けに行かないと。
私たちは会計を済ませ、一時の安らぎを後にした。
しまった! 苺のミルフィーユ、最後まで食べてない……。
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