観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

明かされる真実4

 そして。

 目覚めた時、私は気づけばここにいた。確かに部屋のベッドで横になっていた私の体は地面に立ち、服装は寝間着から制服になっている。そう、これは現実じゃない。

 これは夢だ。新しい夢が始まったのだ。

 そこにはどんな景色があるのだろう。私は期待に胸が躍ってしまう。

「え?」

 けれど、私は凍りついた。

「そんな」

 信じられなかった。

「嘘よ」

 何故なら、ここは――

「助け、て……。タスケ、テ……」

 黒い世界だった。

「なんで!?」

 底のような暗闇、無数の扉。助けを求める、少女の声。

 いくつもの扉が無数に広がる暗闇の世界。聞こえてくる、少女の声。同じ、悪夢。

 でも、でも。こんなのはあり得ない。

「終わったはずでしょう、この悪夢は!?」

 私は叫んだ。愕然とした衝動のままに。だって記憶は取り戻した。それで悪夢はおしまいのはずなのに。

 なのに、まだ黒い世界は健在している。こうして、少女が助けを呼ぶ声とともに、私を今夜も迎えている。

「嘘……」

 私は扉を開けるでもなく、その場から動けないでいた。

 そんな私に夢の終わりを告げるように、扉の裏から白うさぎが現れる。

「やあ、ご機嫌ようアリス。ワンダーランドへと出かけよう。扉はまだ、――開いているよ」

 白うさぎが浮かべるいつもの微笑。台詞。変わらない黒い世界。そして、助けを呼ぶ少女の声。

 私は、私は、

「私はいったい、なにを忘れているの……?」

 黒い世界は、雄大に、私に闇を見せつけていた。

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