観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
浸食する悪夢3
小型はそこまで早くない。私と同じか少し遅い程度。でも、走り続けた私には辛い。足の裏は痛みしか伝えてこない。体は熱くて息が苦しい。
「はあ! はあ!」
私は走る。痛みに震える足を動かして、両腕を必死に動かして。
私が走る先、そこには地下鉄の出入り口が見えてきた。右側に出口へと続く階段がある。小型の短い足ならば階段を上れず、腕を使って這いずらなければならないはず。
そうすれば距離を稼げる。
二つの選択肢が私に迫る。みるみると近づいてく。背後から聞こえてくるメモリーの音もさきほどより大きい。もう五メートルもない。
どうする。どうする。私は、
――階段を登る。
――通り過ぎる。
私は走る。すぐそこまで迫る脅威から逃げるため。私は必死に走り、階段を通り過ぎた。通過した出入り口が遠ざかる。代わりに背後に迫るメモリーが近づいてくる。
私も遠ざけようと必死に走るのだけれど、これ以上速度が上がらない。
「ギャアアオウ!」
「うっ」
今までのどれよりも近くからメモリーの声が聞こえてきた。もうすぐ、本当に後ろすぐ近くにいる。このままだと追いつかれる!
そこでまた別の出口が見えてきた。私は迷うことなく登ることを選択し階段を駆け上がる。
「ギャアアオウ!」
メモリーの叫び声。振り返れば、足幅を越える階段に悪戦苦闘している小型のメモリーが恨めしそうに私を見上げていた。
危機一髪だった。本当にあと少しで追いつかれていた。不安と恐怖がすぐそこまで来ていたんだ。
しかし私は振り切り、地下から地上へと駆け上がった。私が入った入り口からだいぶ離れた別の入り口。辺りを見渡せば小型のメモリーも大型もいない。
良かった。同時にもし手近な出入り口で待ち伏せされていたら、と思うとぞっとする。
私は逃げるのを再開し走り出した。朝の光はない。ここはまだ黒い世界のままだ。
私は走る。この黒い世界を。ここには果てがあるのか分からない。無限に広がる空までもここでは黒く塗りつぶされている。
それでも走った。スカートの裾を翻し、絶望に屈しそうになる心を辛うじて耐え繋ぎ。
けれど、どこまで走ればいいの? いつまで走ればいいの? 私の心に黒いシミが浮かぶ。次第に広がり、不安が滲み、私はいつしか泣いていた。
「はあ……! はあ……!」
怖い。辛い。苦しい。のどがからからで、肺は破裂しそうなほど痛い。足の感覚はとうに無くなり一瞬でも気を抜けば転びそう。
ぼやける視界を直すため、私は両目を拭った。けれど不安に涙は次々にあふれ、頑張ろうとするのだけれど、私の心を折ろうとしてくる。もう駄目だと、屈しそうになる。
私にはなにも出来ない。いじめられていた時だって、私にはなにも出来なかった。
そんな中で、私は残された希望にすがった。
「ホワイト……!」
知らず、私は叫んでいた。
「助けて、ホワイト!」
私を守る者だと言ってくれたあなた。この状況で現れ私を助けてくれたあなた。私を守れるのはあなたしかいない。お願い、もう駄目。このままだと私、諦めそう。だからお願い、助けて。
私は祈る。真実余裕はなく限界だった。心の底から私は叫ぶ。
なのに、ホワイトは現れてくれなかった。
「どうして?」
あふれる涙をふき取る気力も起きなかった。どうして現れてくれないの? 私が二度と出てくるなと言ったから? ストーカーだと悪口を言ったから?
それなら謝る。何度でも謝る。本当は感謝していたって、嬉しかったんだって、正直に言うから。お願い、ホワイト!
だけど、彼は現れてはくれなかった。
「はあ! はあ!」
私は走る。痛みに震える足を動かして、両腕を必死に動かして。
私が走る先、そこには地下鉄の出入り口が見えてきた。右側に出口へと続く階段がある。小型の短い足ならば階段を上れず、腕を使って這いずらなければならないはず。
そうすれば距離を稼げる。
二つの選択肢が私に迫る。みるみると近づいてく。背後から聞こえてくるメモリーの音もさきほどより大きい。もう五メートルもない。
どうする。どうする。私は、
――階段を登る。
――通り過ぎる。
私は走る。すぐそこまで迫る脅威から逃げるため。私は必死に走り、階段を通り過ぎた。通過した出入り口が遠ざかる。代わりに背後に迫るメモリーが近づいてくる。
私も遠ざけようと必死に走るのだけれど、これ以上速度が上がらない。
「ギャアアオウ!」
「うっ」
今までのどれよりも近くからメモリーの声が聞こえてきた。もうすぐ、本当に後ろすぐ近くにいる。このままだと追いつかれる!
そこでまた別の出口が見えてきた。私は迷うことなく登ることを選択し階段を駆け上がる。
「ギャアアオウ!」
メモリーの叫び声。振り返れば、足幅を越える階段に悪戦苦闘している小型のメモリーが恨めしそうに私を見上げていた。
危機一髪だった。本当にあと少しで追いつかれていた。不安と恐怖がすぐそこまで来ていたんだ。
しかし私は振り切り、地下から地上へと駆け上がった。私が入った入り口からだいぶ離れた別の入り口。辺りを見渡せば小型のメモリーも大型もいない。
良かった。同時にもし手近な出入り口で待ち伏せされていたら、と思うとぞっとする。
私は逃げるのを再開し走り出した。朝の光はない。ここはまだ黒い世界のままだ。
私は走る。この黒い世界を。ここには果てがあるのか分からない。無限に広がる空までもここでは黒く塗りつぶされている。
それでも走った。スカートの裾を翻し、絶望に屈しそうになる心を辛うじて耐え繋ぎ。
けれど、どこまで走ればいいの? いつまで走ればいいの? 私の心に黒いシミが浮かぶ。次第に広がり、不安が滲み、私はいつしか泣いていた。
「はあ……! はあ……!」
怖い。辛い。苦しい。のどがからからで、肺は破裂しそうなほど痛い。足の感覚はとうに無くなり一瞬でも気を抜けば転びそう。
ぼやける視界を直すため、私は両目を拭った。けれど不安に涙は次々にあふれ、頑張ろうとするのだけれど、私の心を折ろうとしてくる。もう駄目だと、屈しそうになる。
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