観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

友達5

「だからわたくしはアリスさんと一緒に行きます。お役に立てるかは分かりませんが、一人よりも。心の支えになってみせます。きっと大丈夫です。そんな恐ろしいことをお一人で抱え込まないでください」

 久遠はそう言った後、いたずらっぽく笑った。

「それとも、アリスさんはわたくしとご一緒では迷惑ですか?」

 久遠が私の両手を握ってくれる。両手を包む彼女の手の平と弾む声は温かい。

「…………」

 その言葉が、その温かさが、胸にジンと広がっていく。

 私は覚悟していたはずなのに、つい泣いてしまった。おかしいな、私はいつからこんなにも泣き虫だっただろう。きっと黒い世界の後だからかもしれない。

 一人で立ち向かうと決めた私でも、やっぱり一人では怖くて。

 彼女の優しさは胸を刺激して、私の気持ちを一杯にする。

 私は瞳に溜まった涙を指で受け止めた後、笑顔を浮かべて久遠に合わせた。

「さあ?」

「まあ!」

「ごめん。うそよ、うそ」

 わざとらしく、胸の前で両手まで合わせて。大仰に驚く久遠を見て私は笑う。

「ありがとう、久遠」

「いえ。わたくしはただ、アリスさんの笑っている顔が好きなだけですわ」

 そういって微笑む純白の笑顔が眩しい。どうやら久遠ももう大丈夫だ。この世界に取り残された私たち二人だけど、一人じゃない。助け合える友人がいるのだから。

「ではアリスさん。やるならば急いだ方がいいのでしょうが、今日はもう遅いですし、小学校へは明日行きませんか?」

「そうね。もう暗いし」

 窓を見るが、すっかり暗くなっている。分からなかったけど、私は相当長い間落ち込んでいたみたい。

 そこでふと思う。帰るにしたってこの町の様子では久遠の家も無事とは限らない。

 私は久遠を見た。

「久遠、今日は泊まってく?」

「いいのですか!?」

 私からの提案に久遠は目を輝かせて食いついてきた。そんな素振りが可愛らしくもなんだかおかしくて。私は小さく笑ってから顔を縦に振った。

「ええ、大歓迎よ」

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