観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
クトゥルー
メモリーの接近にホワイトが動く。私を守るため、率先して前に歩み私の前に立った。
メモリーはすでに教室一つ分先にいる。
廊下に詰まった異物のように、空間を埋め尽くす無数の触手が暴れている。
けれどホワイトは前に立つ。平然と見上げ、敵を睨む。
「忘れ去られたメモリー、クトゥルー」
ホワイトが名を明かす。目の前にいる怪物の名前。後ろ姿のホワイトの表情は分からない。でも、彼の言葉にいつも以上の熱を感じた。熱意は言葉となって、私の胸にも響く。
「『アリス』に害なすものならば、俺はなんであろうが排除する」
メモリー、クトゥルーを前にホワイトは宣言する。私に恐怖を与える怪物を前にして怯えも見せず。
私を守るために。私を助けるために。脅威を取り除くため、防衛本能、ホワイトは冷淡な口を動かした。
「使うぞ、世界の意思を知るといい」
そして続ける、彼は言葉を紡ぎ始めた。瞬間。
「おっとぉ! それはさせられないねえ!」
「白うさぎ!?」
「っく!?」
突如ホワイトの両隣に扉が現れた。
同時に開かれた扉は別の空間に繋がっており、そこから白うさぎが現れホワイトに抱きついたのだ。
体当たりのようにしてホワイトを捕まえ、二人は反対側の扉へと入ってしまった。ホワイトがなんとか片手を伸ばし扉に掴まっているが、抱き付く白うさぎが邪魔をしている。
「アリスちゃんから離れろこの真っ白シロ助ヤロウ、僕とキャラ被ってんだよ!」
「貴様が離れろ白うさぎっ!」
「ホワイト!」
扉の先は暗闇で、しかも重力が扉の奥からきているのかホワイトは横にぶら下がっていた。
そんな状態で白うさぎを引き剥がそうとしている。私は急いで廊下の横に掴まった。
扉の引力に引っ張られ髪が扉に向かって垂れる。助けに行きたいけど、でも駄目。これ以上近づいたら私まで落ちそう!
「アリス、聞け!」
「え?」
ホワイトは表情を苦く曲げて私を見ていた。必死に掴む片手を今も引き剥がそうと白うさぎが叩いている。
「必ず助けに行く。それまで走れ! 俺が助けに来るのを信じて、今は逃げろ!」
「ホワイトぉお!」
そう言い残しホワイトは白うさぎと共に扉の奥へと消えてしまった。扉は閉まり消えてしまう。
「そんな」
嘘でしょ。ホワイトが消えた。扉があった場所には虚空があるだけでなんの痕跡もない。
さきほどまであった安心感が消えていく。もう大丈夫だと、どこかで安堵し緩んでいた心が引き締まる。そんな、そんな、逃げろって言ったって。
「オオオオオン!」
「あっ」
恐怖を伴い、狂気へ誘うメモリーの声が上げられる。母親を、呼ぶように。けれど私はますます恐怖に染まり、呑み込まれていく。
恐怖が形をもった怪物、メモリー。叫ぶ、叫ぶ。全身から生えたエメラルドグリーンの触手を蠢かせ。
暗闇に浮かぶ赤い瞳が、濡れた血のような輝きを放ち私を見てくる。猛烈な熱情を感じる。メモリーは求めているんだ、心の底から、何ものにも替え難いほどに。
私を殺してでも。私の記憶になりたいと。
身動きが取れないのに、体の震えが止まらない。恐怖は思考を阻害し身も心も縛り上げる。
「あ、あ……」
涙が知らず零れる。瞬きも出来ない瞳から、ぽつりぽつりと落ちていく。
怖い、怖い、怖い! 恐怖が、狂気が、戦慄が、私を壊しにくる耐えられない。
メモリーはすでに教室一つ分先にいる。
廊下に詰まった異物のように、空間を埋め尽くす無数の触手が暴れている。
けれどホワイトは前に立つ。平然と見上げ、敵を睨む。
「忘れ去られたメモリー、クトゥルー」
ホワイトが名を明かす。目の前にいる怪物の名前。後ろ姿のホワイトの表情は分からない。でも、彼の言葉にいつも以上の熱を感じた。熱意は言葉となって、私の胸にも響く。
「『アリス』に害なすものならば、俺はなんであろうが排除する」
メモリー、クトゥルーを前にホワイトは宣言する。私に恐怖を与える怪物を前にして怯えも見せず。
私を守るために。私を助けるために。脅威を取り除くため、防衛本能、ホワイトは冷淡な口を動かした。
「使うぞ、世界の意思を知るといい」
そして続ける、彼は言葉を紡ぎ始めた。瞬間。
「おっとぉ! それはさせられないねえ!」
「白うさぎ!?」
「っく!?」
突如ホワイトの両隣に扉が現れた。
同時に開かれた扉は別の空間に繋がっており、そこから白うさぎが現れホワイトに抱きついたのだ。
体当たりのようにしてホワイトを捕まえ、二人は反対側の扉へと入ってしまった。ホワイトがなんとか片手を伸ばし扉に掴まっているが、抱き付く白うさぎが邪魔をしている。
「アリスちゃんから離れろこの真っ白シロ助ヤロウ、僕とキャラ被ってんだよ!」
「貴様が離れろ白うさぎっ!」
「ホワイト!」
扉の先は暗闇で、しかも重力が扉の奥からきているのかホワイトは横にぶら下がっていた。
そんな状態で白うさぎを引き剥がそうとしている。私は急いで廊下の横に掴まった。
扉の引力に引っ張られ髪が扉に向かって垂れる。助けに行きたいけど、でも駄目。これ以上近づいたら私まで落ちそう!
「アリス、聞け!」
「え?」
ホワイトは表情を苦く曲げて私を見ていた。必死に掴む片手を今も引き剥がそうと白うさぎが叩いている。
「必ず助けに行く。それまで走れ! 俺が助けに来るのを信じて、今は逃げろ!」
「ホワイトぉお!」
そう言い残しホワイトは白うさぎと共に扉の奥へと消えてしまった。扉は閉まり消えてしまう。
「そんな」
嘘でしょ。ホワイトが消えた。扉があった場所には虚空があるだけでなんの痕跡もない。
さきほどまであった安心感が消えていく。もう大丈夫だと、どこかで安堵し緩んでいた心が引き締まる。そんな、そんな、逃げろって言ったって。
「オオオオオン!」
「あっ」
恐怖を伴い、狂気へ誘うメモリーの声が上げられる。母親を、呼ぶように。けれど私はますます恐怖に染まり、呑み込まれていく。
恐怖が形をもった怪物、メモリー。叫ぶ、叫ぶ。全身から生えたエメラルドグリーンの触手を蠢かせ。
暗闇に浮かぶ赤い瞳が、濡れた血のような輝きを放ち私を見てくる。猛烈な熱情を感じる。メモリーは求めているんだ、心の底から、何ものにも替え難いほどに。
私を殺してでも。私の記憶になりたいと。
身動きが取れないのに、体の震えが止まらない。恐怖は思考を阻害し身も心も縛り上げる。
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