観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
クトゥルー2
この恐怖に耐える術など人にあるはずがない。だからこれは運。正気を保っていられるか、それは運命によって決められると言っても過言ではない。
私が正気を保っていられるか。今、運命がサイコロを投げる。
私は、
私は、
私は、
私は、
私は、
――私は、駄目。私はこれに、耐えられない。
「いやああああああ!」
絶叫した。あれほど喉を通らなかった声が出る。けれどそれは悲鳴だった。感情が剥き出しの、声とも音とも区別しがたいそれ。
恐怖が全身に充ちる。喉元まで来ていたのがついに頭まで沈め口を塞ぐ。息ができない、溺れる! 私は暴れた、もがいた。水中から出るために。ここから出るために。でも出れない。
私は両手に力を入れた。思いっきり締め付け離さない。なに? 私はいまなにを締め付けてるの?
分からない。ただ息が苦しい。私はこの苦しみから逃れる一心で両手に力を入れていく。
早く、早く、もっともっと力を。なのに、ますます苦しみが増えていく。それがさらに私を追い込み混乱を加速させていく。パニックだった。
意識が、霞む。身体が前に傾く。重力に引かれて、私はそのまま、――倒れる。
『必ず助けに行く。それまで走れ! 俺が助けに来るのを信じて、今は逃げろ!』
瞬間だった。もう恐怖を感じることもない、廃人のような私の頭に浮かんだ言葉があった。地面がみるみると私に近づく、刹那。脳裏を過る、彼の声。
「あ」
私の目に、光が灯る。半壊された精神に辛うじて残されていた意思が、私の意識を繋ぎ止める。
そうだ、私はホワイトに言われたんだ。逃げろと。信じろと。なら私は彼を信じて逃げなくてはならない。必ず助けに来ると、彼は言ってくれたのだから。
すぐ近くには未だメモリー、私に恐怖を与える怪物がいる。これには絶対に勝てない。メタテレパシーは根源的な恐怖を与えてくる。私は恐怖に呑まれて死ぬだけだ。
でも、そんなことは許されない。
ここで私の精神が削られて死ぬことが、さながらTRPGのように決められていたとしても。それがルールで、運命だとしても。
私はまだやれる。私の精神が尽きようと。
そんなことは、許されない。なら――
やり直しだ。
運命なんて、
覆してやる!
この恐怖に耐える術など人にあるはずがない。だからこれは運。正気を保っていられるか、それは運命によって決められると言っても過言ではない。
私が正気を保っていられるか。今、運命がサイコロを投げる。
私は、
私は、
私は、
私は、
私は、
――私は、大丈夫。まだ大丈夫。
私は一歩を踏み出し、倒れかける体を支えた。そして、眼前にいるメモリーを見上げる。
いじめられていた時、私はなにも出来なかった。それは今もそう。私は戦えない、そんな力はない。一人では、なにも出来ないままだ。
「こ、怖くなんかない! お前なんか、こ、こ、怖いもんか!」
体は震えていた。声も上手く出せない。
「そうよ! 私は無力な小娘よ。お前を倒すことなんか出来ない」
今にも気を失いそうなほど、胸が締め付けられる。
「だけど、だけど、私にだって出来ることがあるわ!」
たとえ無力でも。敵を倒せないとしても。
いじめられていた記憶の敵に、私は言う。
私が正気を保っていられるか。今、運命がサイコロを投げる。
私は、
私は、
私は、
私は、
私は、
――私は、駄目。私はこれに、耐えられない。
「いやああああああ!」
絶叫した。あれほど喉を通らなかった声が出る。けれどそれは悲鳴だった。感情が剥き出しの、声とも音とも区別しがたいそれ。
恐怖が全身に充ちる。喉元まで来ていたのがついに頭まで沈め口を塞ぐ。息ができない、溺れる! 私は暴れた、もがいた。水中から出るために。ここから出るために。でも出れない。
私は両手に力を入れた。思いっきり締め付け離さない。なに? 私はいまなにを締め付けてるの?
分からない。ただ息が苦しい。私はこの苦しみから逃れる一心で両手に力を入れていく。
早く、早く、もっともっと力を。なのに、ますます苦しみが増えていく。それがさらに私を追い込み混乱を加速させていく。パニックだった。
意識が、霞む。身体が前に傾く。重力に引かれて、私はそのまま、――倒れる。
『必ず助けに行く。それまで走れ! 俺が助けに来るのを信じて、今は逃げろ!』
瞬間だった。もう恐怖を感じることもない、廃人のような私の頭に浮かんだ言葉があった。地面がみるみると私に近づく、刹那。脳裏を過る、彼の声。
「あ」
私の目に、光が灯る。半壊された精神に辛うじて残されていた意思が、私の意識を繋ぎ止める。
そうだ、私はホワイトに言われたんだ。逃げろと。信じろと。なら私は彼を信じて逃げなくてはならない。必ず助けに来ると、彼は言ってくれたのだから。
すぐ近くには未だメモリー、私に恐怖を与える怪物がいる。これには絶対に勝てない。メタテレパシーは根源的な恐怖を与えてくる。私は恐怖に呑まれて死ぬだけだ。
でも、そんなことは許されない。
ここで私の精神が削られて死ぬことが、さながらTRPGのように決められていたとしても。それがルールで、運命だとしても。
私はまだやれる。私の精神が尽きようと。
そんなことは、許されない。なら――
やり直しだ。
運命なんて、
覆してやる!
この恐怖に耐える術など人にあるはずがない。だからこれは運。正気を保っていられるか、それは運命によって決められると言っても過言ではない。
私が正気を保っていられるか。今、運命がサイコロを投げる。
私は、
私は、
私は、
私は、
私は、
――私は、大丈夫。まだ大丈夫。
私は一歩を踏み出し、倒れかける体を支えた。そして、眼前にいるメモリーを見上げる。
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「そうよ! 私は無力な小娘よ。お前を倒すことなんか出来ない」
今にも気を失いそうなほど、胸が締め付けられる。
「だけど、だけど、私にだって出来ることがあるわ!」
たとえ無力でも。敵を倒せないとしても。
いじめられていた記憶の敵に、私は言う。
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