異世界を楽しみたい転生者
第90話少年期[80]妄想も大概にしろよ
ゼルートのスタンを食らい気絶していたセイルは、痛みを感じながらも起き上がった。
起き上がったはいいが、セイルの頭の中はまだ盗賊のリーダーと戦っている最中らしく、そしてまた阿保なことを言っていた。
「なに阿保なこと言ってんだ猪突猛進の阿保男」
そう言うとゼルートは物凄く威力を弱くした、それでも人にとってはそこそこ痛いブレットをセイルの額にぶつけた。
「がっ! っって~~~~!! い、いきなりなにするんだ! 俺はこれから盗賊を・・・・・・」
「盗賊のリーダーなら俺がもう倒した。それに捕まっていた奴隷の人たちも既に救出し終わっている。
つまりもう試験はほとんど終わったんだよ阿保」
「なっ、なんだと!!」
セイルは自分が盗賊のリーダーを倒せなかった悔しさや、その倒したかった盗賊のリーダーをゼルートが倒したということへの恨み等が混ざった視線を、ゼルートに向けて怒鳴った。
「ふ、ふざけるなよ!!! あいつは俺が倒すはずだったんだ。それをお前が俺を気絶させたから・・・・・・!!!」
セイルはゼルートの胸倉を掴み、お門違いな文句を言いだした。
この光景に助け出され奴隷たちは何が起こっているのかさっぱり分からず、ポカーンとしているがミールは喧嘩になりそうなので、止めた方が良いのかそれとも止めない方が良いのか迷ってオロオロしている。
ロークはゼルートの戦いぶりをしっかりと見ていたので、セイルが到底敵う相手ではないと思い、もし私闘になるならせめてセイルに大きな怪我を負わないで欲しいと思っていた。
ラナはロークと同様ゼルートの戦いを見ており、セイルがゼルートに戦って勝てるとは一欠片も思っていなかった。
それとラナはロークと違いセイルのことを心配しておらず、寧ろここらへんで一回痛い目をみればいいとすら思っていた。
ルウナはなぜこの男は力の差が一向にわからないんだと、本気で不思議に思っていた。
アレナに関しては昔Aランクだったころ自分に喧嘩を吹っかけてきた男や女の冒険者達を思い出し、まだ若いんだし仕方ないのかしら? と過去の自分の経験からそう思っていた。
ちなみにアレナに喧嘩を売った冒険者達は、全員自分の自信やプライドをボロボロにされた。
「お前が自分の得物を飛ばされて素手の状態にも関わらず相手の盗賊に突っ込んでいったから、無理やりにでも止めたんだろううが。そもそもの話、相手がマジックアイテムを使ってったっていうのもあるけど、お前とあの盗賊の基礎能力じゃ、間違いなくお前が負けてるんだよ」
ステータスが全てとは言わない。技が力を超えることもあるが、今のセイルとボーランでは文字通り話にならない。
そもそもセイルには対人戦経験があまりなく、そういった部分でもセイルがボーランに勝てる要素はなかった。
「そんなのやってみなきゃわかんないだろ!! それをお前は・・・ぁ・・・」
ゼルートの正論に反論しようとしたセイルが急に倒れこみ寝てしまった。
「ったく、若いから元気がいいのはしょうがねぇけど流石に駄目だわ。はぁ~~~試験官なんてやるんじゃなかったぜ。まさか睡眠針を使わされるとはな。くそ、使い捨てのマジックアイテムなのに結構高えんだぞこれ」
ブツブツと文句を言っているガンツに、ゼルートが呆れた顔で声を掛けた。
「それならわざわざ使わなきゃ良かっただろ。別に俺だって無傷で気絶させることぐらい出来るぞ」
今度は逆にガンツが、何もわかってないなお前はといった表情でゼルートに言った。
「試験官の俺が今みたいな状況を放っておいていいわけないだろうが。まぁ、とりあえず街に帰るまではこいつにはおとなしく眠っておいてもらう。そういえばゼルート、街まで一日以内で着くか?」
「んん? 別に問題はないけど・・・・・・何か考えがあってか」
「そういうこった」
「は~~~、わかったよ。その内容は明日には聞かせろよ」
「わぁってるよ。ほら、とりあえず皆もう寝ろよ」
ルウナ達はガンツの言葉に従い、各自のテントに入っていった。
(とりあえず帰ったらセイルと決闘でもして、なるべく早く実力の差をわからせるってのがガンツの考えってとかろかな)
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