チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 021 旅の途中でとある新迷宮3

 




 シローたち3人は冒険者ギルドの出張所で淡いピンク色の髪をした受付嬢が髪を振り乱して冒険者たちに指示をしている場面に出くわす。
 彼女は緊急依頼の対応に追われているようだ。


 (随分慌てているようだが、これってあの魔物の群れが原因なんだろうな・・・)


「ロッテンさんは予備の武器を冒険者に配って下さい! アマンダさんは食料を! ヘルシキさんは防御柵の作成を急がせてください!」


 (何で受付嬢がギルド職員に指示を出しているんだ? ・・・って、ああぁぁ、彼女がこの出張所の所長なんだ・・・見た目は若いが結構な歳ーーーっ!)


 シローが受付嬢でありこの冒険者ギルドアゼン村出張所の所長であるアリシアーナのステータスを確認した事でアリシアーナの年齢を知ってしまった。
 それによるものなのかアリシアーナがシローを射殺すかと思える程の視線を向ける。


「あなたたちは昨日の? 現在、アゼン村付近に居る冒険者には緊急依頼が発令されております。あなたたちも私の指揮下に入ってもらいます!」


 シローたちが昨日この冒険者ギルドの出張所を訪れてアズハの手続きをした事を覚えていたアリシアーナはシローたちに近付くや否や指揮下に入れと命令をする。
 これは冒険者であれば当然のことではある。
 冒険者は緊急依頼を拒否する事ができないのだ。
 これは冒険者登録をする時に説明があったのでシローも覚えていたし、このアゼン村に来る前にもスノーにもそう言われたので認識をしている。


 (しかしこのアゼン村のギルドって人がいないのな・・・)


「ここは出張所だからよ」


 アリシアーナはシローが心の中で疑問に感じていた事に回答を提示する。
 だが、この行為がシローを身構えさせる。


 (この女は俺の心が読めるのか? だが、この女のスキルに読心術やそれに類するスキルはなかったはずだ・・・だとすれば・・・)


「うふふ、女には色々と秘密があるのよ」


 スーッとシローに近付いたと思ったら耳元で艶やかにそしてしっとりと囁く。
 そんなアリシアーナの行動を見ていたスノーは激しく動揺するのだった。


「さて、・・・魔物集団暴走スタンピードが発生しましたのであなたたちも直ぐに魔物を迎え撃つ準備をっ!」


 アリシアーナは先ほどとはまるで別人のようにシローたちに指示を出す。
 そんなアリシアーナの変わり身の早さに呆れるよりも尊敬にも似た感情を抱くシローだった。


「アリシアーナさん、魔物は迷宮から溢れ出しています!」


 叫びながら近づいて来るギルド職員をアリシアーナはこめかみに青筋を立てて迎える。


「メストさん、そんな重要な事を大声で叫ばないで下さいっ! って、迷宮? この近くには昨日報告があった迷宮しかないのよ? そんな新しい迷宮が魔物集団暴走スタンピードを起こしたって言うのっ!?」


 アリシアーナも思わず叫んでいたが、自分の瑕疵には構わずアリシアーナは報告に来たメストの胸倉を掴み大きく前後に振るのだった。
 そしてシローはここにきて魔物集団暴走スタンピードの原因があの迷宮だと確信をもったのだった。


 (確かにあの迷宮には大量の魔物がいたのだが、何故今頃溢れ出すんだ?)


 実の処、シローたちが発見した迷宮はできてから数ヶ月が経っており、その間誰にも発見されずにひっそりと力を蓄えていたのだ。
 そして力を蓄えた迷宮の中には大量の魔物がひしめき合っていたのだが、迷宮の入り口に近い場所にランクBの魔物であるデザートアリゲーターが陣取っていた為に迷宮の奥にいた魔物達が迷宮の外に出れずにいたのだ。
 つまりシローによってデザートアリゲーターが討伐されてしまった事で振った後の炭酸飲料の蓋を外した時のように勢い良く魔物達があふれ出してしまったのだ。


「魔物はアゼン村から2Km程まで迫っておりますっ! 大至急迎え撃つ準備をっ!」


 (理由は・・・ともあれ、これはアズハにとってチャンスだな)


 アズハのユニークスキルは敵を1,000体倒す事によって封印が解ける。
 つまり今回の魔物集団暴走スタンピードを利用してアズハに敵である魔物を大量に討伐させれば封印を解く助けになるとシローは考えたのだ。


「魔物を迎え撃つのに冒険者はどうすれば良いんだ? アンタが前線指揮をとるのか?」


 シローは自分たちの立ち位置を確認する為にメストと話し込んでいたアリシアーナに声を掛ける。


「え? アナタたちまだ居たの?」


 なんとも惚けた回答にシローはこめかみに青筋を立てるが、ここで怒っても仕方がないと自分を抑える。


「魔物が押し寄せてくるまでの時間がないの。今回はそれぞれの冒険者に判断を任せます! ランクBのデザートアリゲーターを倒せるほどの腕を持っているアナタには期待していますっ!」


 アリシアーナの回答はシローにとってまったく理解が出来なかった。
 その理由は2つあり、その1つは大声でシローの能力を公開していることだ。
 冒険者には2種類の人種がおり、自分の力を誇示する者と力を隠す者だ。
 シロー自信はこれまでの行動を横に置いておいて力を隠す後者側だと思っているのだ。
 そしてもう1つは大量の魔物が攻め寄せてくるこの事態に対して、アリシアーナや冒険者ギルドの職員、もしくは高ランクの冒険者に指揮をとらせるのであれば話は分かるが、アリシアーナは冒険者個人に行動を任せるというのだ。
 軍事行動とまでは言わないが、せめて団体行動で魔物の群れを迎え撃つのが正しいのではないかと思うシローであった。
 そもそも、このアゼン村では魔物集団暴走スタンピードを想定してはおらず、こういった事態に対する対応について訓練もされていないのである。
 その為にアリシアーナは冒険者をまとめ前線で指揮をするスキルもなく、更に指揮官として期待できる高ランク冒険者は昨日シローによって死亡報告があった事でこうした対応となっているのだった。
 冒険者としては冗談では済まない話で、これから命をかけて戦うというのに緊急依頼を発令した冒険者ギルドの対応が余りにもずさんである為に不満を覚える者はシローだけではなかった。


 (勝手にしろって言うのなら勝手にさせてもらおうか。後から文句を言うなよ)


 シローはスノーとアズハを連れて魔物があふれ出している迷宮の入り口に向って進む。
 ただし、迷宮の外には既に数千匹の魔物が溢れ出しており、簡単には迷宮に近づけない。


「ここから先は魔物との遭遇率が格段に高くなるだろう。今回はアズハの能力アップを優先するのでスノーは魔物が現れたら氷漬けにしてやってくれ。その後は動けなくなった魔物をアズハが止めを刺していけ」
「あ、あの、どうして私が止めを?」


 アズハの疑問は尤もで、今回のような魔物集団暴走スタンピードが起きたら先ずは魔物を殲滅するのを優先するべきであり、それをアズハの能力アップに利用するなんて言うのは誰も考えないだろう。


「これは決定事項だ。スノーは魔物の動きを封じ、アズハは止めを刺す。質問は受け付けない」


 奴隷であるスノーとアズハに対して命令権を持つシローが問答無用で命令を発する事でスノーもアズハも何も言えなくなってしまった。
 シローは2人に装備の確認を促し、【空間把握】の範囲を広げて周辺の状況を確認をする。


 (これだけ多くの魔物がいればアズハの神狼化の封印を解くのにかなり寄与できると思うけど、怪我をさせないように注意しないとな。それにスノーも)


 ここで細かい説明をしない、のではなく、するという事が頭に浮かんでこないところがボッチ体質のシローの問題点であるのだが、当の本人はそれに気付いていない。


「隊形は俺、アズハ、スノーの順だ。間隔は5mで」
「え? あ、あの、私が前に行かなくても良いのですか?」


 アズハは臭覚や聴覚が鋭いので常に先頭にたってパーティーを先導していた。
 斥候職としての能力にはそれなりに自信はあるし、前のパーティーでの実績もある。
 あの新迷宮でデザートアリゲーターの存在はしっかりと把握しアズハの主人に危険を伝えたにも関わらず進んだのは主人の判断でありアズハの責任ではない。
 アズハがしっかりと仕事をしてもその情報をどう扱うかは主人次第なのでアズハには何ともできなかった事だ。


「アズハより俺の方が索敵範囲が広いから問題ない」


 シローはバッサリとアズハの疑問を切って捨てた。
 それによりアズハは自分の存在意義を否定された気がし、意気消沈するのであった。
 スノーはそんなシローを見て言葉が足りないのはいつもの事だと息を吐く。


 暫く進むと魔物の群れに遭遇する。
 実際には魔物の群れに向って進むルートを敢えてとっているので当然なのだが、スノーとアズハはシローの能力を知らないので偶然だと考えている。
 シローはデリンボが鍛え上げた牛斬うしきりを鞘から抜き肩に担ぐと、スノーに視線を送り魔物の動きを封じるように促す。
 その視線を受けスノーはオークやオーガなどの魔物の群れに【氷魔法】を発動させる。


「アイスワールドッ!」


 スノーが発動させた【氷魔法】によって広範囲が氷に閉ざされるのだが、その氷は地上1.6mほどの高さしかないのでオークは頭が出ている状態であるしオーガは胸元まで氷に埋もれた状態である。
 スノーが良い仕事をしたのを見て、シローはアズハに止めを刺すように促すが、先ほどのシローの斥候職不要論による精神的ダメージによりアズハの動きに精彩はない。
 本来であれば一太刀で命を奪う事ができるはずだが、今のアズハは短剣を二振り、三振り、・・・六振りしてやっと魔物たちの命を奪っている状態である。


「何をしているんだっ!?」


 シローの苛立ちは絶頂に達しようとしている。
 いくら魔物であっても一瞬で楽にできるものを態々苦痛を与えるようなアズハの行動はとてもシローには容認できるものではなかったのだ。
 しかしアズハも態々苦痛を与えたいと思っているわけではなく、先ほどのシローの斥候不要論による心のダメージが癒えていないだけで通常であれば一振り、悪くても三振りあれば倒せるのだが、シローはアズハの心情を推し量る事ができないのだ。
 そんなシローの底冷えするほどの声と軽蔑さえ浮かべる視線を受けアズハはビクッとし萎縮する。
 萎縮し動きが止まったアズハは動ける魔物にとっては良い的でしかない。
 アズハは片手が動かせたオーガのパンチをもろに受けてしまいスーパーボールが跳ねるように吹き飛ばされる。
 何とか防御姿勢をとれたアズハではあったが、こういう時には体重の軽さが仇となり弾き飛ばされるのだった。


「覚悟を持って戦えないのであれば戦場を去れっ!」


 凛としたシローの声が容赦なくアズハに浴びせられる。
 スノーとしてはアズハの心理をある程度は掴んでいるのだが、ここで口出ししても良い結果にはならないだろうと考えており口出しをするのを躊躇っている。
 これはシローの奴隷となったアズハに対する試練なのだから。
 当のアズハはオーガのパンチを受け意識が飛びそうになっており、更にシローの叱責を受けた事で緊張が過度のプレッシャーとなり重圧が精神を圧迫する。
 そしてそんな重圧に耐える事ができずに意識を手放し、再びアズハが意識を取り戻したのは周囲の魔物をシローとスノーが殲滅した後であった。


「申し訳御座いませんっ!」


 意識を取り戻したアズハは土下座をしシローに詫びる。
 シローとしては詫びる前に気持ちの整理をつけて欲しいと思うのだが、そのシローの態度がアズハを萎縮させているとは思ってもいないのであった。


 もともとシローが奴隷から解放しても良いという提案を退け自分自身で奴隷のままでいる事を決めたアズハは冒険者として何よりシローの奴隷として戦う決意があるものとしてシローはアズハを扱っている。
 これは仕方が無く奴隷となり下手に奴隷から解放できない理由があるスノーとは全く違う理由であり、その為にシローは自分でも気付かない内にアズハに厳しく接するようになっているのだ。


「謝らなくても良いけどあんな戦い方をするのであれば・・・今直ぐ冒険者を辞める事だ」
「っ!」


 アズハは何ともいえない表情をし俯く。
 傍らで2人を見ていたスノーにはシローの気持ちもアズハの気持ちも分かるだけに何と声をかけて良いか分からず戸惑うのだ。
 しかしスノーもたまらず新しい仲間のフォローをしようとする。


「あ、あの、ご主人様・・・」
「どうした?」


 スノーはどう言うのが良いのか迷った挙句、正直にシローに説明しようと考えた。


「アズハはご主人様に不要だと思われ・・・それで萎縮してしまったのではないかと・・・」
「・・・俺が? ・・・・・・・・・」


 スノーは自分が出しゃばった事でアズハの立場が悪くなるのではないかとも危惧し、アズハはアズハで涙目でシローを不安そうに見つめる。
 シローはこれまでの自分の行動や言動を振り返る。


(俺がアズハを不要だと考えたのか? 確かに俺自身が望んでいないのに奴隷ができてしまったのは俺として不本意ではあるが、それでも俺がアズハを不要だとか疎ましいとか思った事はない! しかし俺の不用意な言動がアズハを追い込んでしまったのかも知れないな・・・)


「スノー、有難う。俺はアズハに詫びるべきだと気付いたよ。アズハ、すまなかった。アズハの気持ちが分かってやれなかった俺に非がある」
「そそそそそそそんな事は有りませんっ! 私なんかに謝らないで下さいっ!」


 シローはニッコリ微笑み続ける。


「そんな事は無い。俺はアズハを仲間だと考えていたはずなのにいつの間にか奴隷として扱っていたんだ・・・これは俺のケジメだ、すまなかった。そして俺にそれを気付かせてくれたスノーに礼を言う」


 2人に頭を下げたシローは憑き物がとれたような満面の笑みを2人に向けるのだった。




 

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