チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 022 旅の途中でとある新迷宮4

 


 魔物の氾濫が発生して冒険者ギルドアゼン村出張所から緊急依頼が発せられてより半日が経とうとしていた。
 既に陽は沈みアゼン村付近は夜の帳がおりており冒険者は討伐時に怪我をした者や討伐時に入手したアイテムをアゼン村に持ち込む者など千差万別である。
 魔物集団暴走スタンピードによる魔物の大侵攻は予想されたよりは規模が少なく冒険者たちは意外とアッサリ鎮静化してしまったと訝しむ者もいるが、これはシローたち3人が大量の魔物を討伐した事によるものだと気付いている者は少ない。
 シローは魔物の配置を【空間把握】で把握しており、全ての魔物を殲滅する事もできるが敢えて魔物がアゼン村に進めるように殲滅範囲に穴をあけていた。
 これは冒険者に自分たちの戦いを邪魔をされたくないと思うのと、戦い方を見せたくないと思っての事である。


 現在シローたち3人は他の冒険者たちとは違ってあの新迷宮の前までやってきていた。
 迷宮は未だに魔物を排出しており、それは永遠に魔物を排出するのではないかと錯覚さえ起こさせ、そして迷宮の奥深さを誇示しているようでもある。


「凍てつけ! アイスワールド!」
「準備は良いか?」
「はいっ!」


 シローは叱咤激励を与えるのではなく目標だけをアズハに提示し、その目標を受けアズハは氷漬けにされた魔物の群れに向って加速する。


 氷漬けになっている魔物はゴブリンジェネラルが率いるゴブリン軍団。
 ゴブリンジェネラルは指揮下にあるゴブリンの能力を底上げするので配下のゴブリンたちの能力は軒並み2割増しとなっている。
 そしてゴブリンジェネラルに率いられたゴブリンの中にはゴブリンナイトもおり、ゴブリンナイトは他のゴブリンとは違い金属製の全身鎧を身に纏い、背丈ほどもある剣を操る事で防御力と物理攻撃力は普通のゴブリンとは比肩できないほどの力をもっている。
 更にゴブリンメイジは敵を攻撃するだけではなく、味方のゴブリンたちを補助し援護を行う。
 迷宮の入り口付近にゴブリンだけで数百体はおり、更に迷宮からはオークやオーガの混成軍団も排出されてきている。


 アズハが氷漬けになっているゴブリンメイジの横をシュンッとすり抜けるとゴブリンメイジの首から大量の血飛沫が噴出す。
 最初のころとは見違えるような動きを見せるアズハを見つめるシローの目も少し緩む。
 アズハとしてはシローに奴隷ではなく仲間だといわれて心が軽くなったものの奴隷には変わりなく、ここでシローに自分が有用な奴隷である事をアピールするのに必死であった。
 自分を奴隷としてではなく人として見てくれるシローはアズハにとってこれ以上ないほどの優良物件なので、シローに見放され売られでもしたら目も当てられないのだから。
 そんな打算とも言える考えがアズハの思考を支配する。


 何体目の魔物を狩っただろうか、アズハはいつの間にか自分の意識が戦闘に溶け込んでいるような感覚を味わう。
 何故か今まで感じていたプレッシャーも今は感じる事なく、それどころか自分の体が自然と動いてしまうような感覚だ。
 周囲の景色がまるで空気のように無いかのような錯覚を、そして何より魔物がただの藁人形のように見えその動きがスローモーションのように緩やかに流れる。


「体が軽い・・・まるで羽が生えたように・・・足がこんなに軽やかに動くなんて・・・き、気持ち良いっ!」


(やればできるじゃないか! この調子で討伐数1000を目指せよ!)


 アズハが戦闘に集中していた頃、スノーはアズハを援護するように敵の動きを封じ更に弱体化する。
 凛々しく佇んでいるだけで高名な画家が描いた絵画のように絵になるスノー。
 そんなスノーを見るシローの視線はいつのまにか柔和になりそして何故か心臓が高鳴るのだった。
 これまでもスノーを見ると鼓動が早くなったり血圧が上がるような感覚に襲われていた事はあるが、鈍感なシローはそれが魔物を前にした緊張や高揚感からくる鼓動の高鳴りだと勘違いするのである。


「ご主人様、そろそろアズハの体力も限界が近いと思います。一旦後退させた方が良いかと・・・」


 戦闘を再開してから2時間は経っていないだろうが、アズハの動きに少しずつ遅れがでていたのを終始アズハを見て援護していたスノーには見て取れた。
 少し控えめにシローに意見を具申するスノーの仕草は凛としてそれでいて華麗である。
 そんなスノーの言葉がシローの耳に心地よく響く。


「・・・ご主人様?」
「え、あっ、そ、そうだね、・・・アズハ、後退だっ! 後ろに下がって休憩だ」


 前線で魔物を狩っているアズハはの体はこれまでになく軽く息は切れているのだが決して苦しいとか体が言う事を聞かないといった事はなく、それどころかまだまだ早くそして鋭くなれそうな状態であった。
 本人は調子が上がっていると錯覚をしているが、過度にアドレナリンが分泌され自分の調子が良いと錯覚を起こしているようである。
 これはシローが【ステータスマイスター】を使いアズハのステータスを底上げしたからではあるが、その事はアズハは知らないしステータスを底上げしたからといって限界がなくなるわけでもない。
 そんなアズハの耳にはシローの声が聞こえておらず後退をするどころか前進を続けるのだった。
 しかし、そんな状態がいつまでも続くわけもなく、アズハは次第に魔物の数に押され始めるのだった。
 新しく発見された迷宮の入り口から無尽蔵に湧き出てくるかと思える魔物の軍勢、ゴブリン、オークだけではなくオーガにミノタウロスなどの力自慢の魔物もちらほら見受けられる。
 そんな魔物の大群にアズハは飲み込まれそうになる。


「ど、そうして・・・あんなに軽かった体が・・・」


 ゴブリンが振るう剣がアズハを掠る、今まで軽やかなステップで魔物が攻撃する前に攻撃していたのに体が思うように動かないアズハは徐々に体に傷を増やしていく。


「も・・う・・・ここまで・・・なの?・・・」
「そうでもないぞ」


 その声と同時にアズハの周囲に群がっていた魔物が吹き飛ぶ。
 血肉を撒き散らしアズハの周囲から吹き飛ばされるゴブリンやオークたち、魔物たちを吹き飛ばしたのは今まで静観していたシローである。


「言ったろ、俺はアズハの仲間だぞ。仲間を信頼して貰いたいな」
「えっ!?」


 シローは牛斬を縦横無尽に振るいアズハに近付く魔物を死に追い遣る。


「そうですわね、私たちは仲間ですよ」


 シローのやや後方に陣取っているスノーはシローとアズハの立ち位置を確認しながら援護を行っており、その姿はまるで戦場に舞い降りた女神のように美しい。
 ただし美しい顔は笑っているように見えるが目は笑っていない。


「ただ、仲間の前に私たちはご主人様の奴隷である事を忘れてはいけませんよ! ご主人様の命令を無視するなんて、この戦いが落ち着いたら御仕置きですね」
「そ、そ・・んな・・・」


 青ざめるアズハを他所にシローとスノーは迷宮から溢れ出る魔物を次から次へと殲滅していく。


「アズハは俺たちの後方で休息をとりつつドロップアイテムの回収だ! 体力が回復するまで戦線復帰は認めないからな!」
「今度はしっかりと命令を守るのですよ!」


 2人は殲滅の手を緩める事なくアズハに言い聞かせる。
 そしてアズハは自分がシローの命令を無視したとは思ってもいなかったので、その事を言い聞かされ只オロオロとするだけであった。
 そうこうしている内にシローとスノーにより迷宮から溢れ出していた魔物は殲滅させられていった。
 しかし迷宮からはまだ魔物が溢れ出ておりシローは魔物を倒しながらユックリと迷宮の中に入って行く。
 そしてスノーもシローの後に続き迷宮の中に入って行く。
 当然、アズハも2人の後を追い迷宮に入って行くのだが、何故だか先ほどまでの疲労感が癒えているのが分かるほどに回復しているし、何箇所か怪我をしていたはずだがそれも傷痕がなくなっているのであった。
 自分の体の回復力に違和感を感じるも悪い違和感ではない為にアズハは再び戦線復帰するのだった。
 勿論、それはステータスが上がった事もあるがシローが【神聖魔法】によって回復させているからでもある。
 更にオーガなどの魔物から奪った【再生】や【疲労回復】をシローから譲渡された事も大きな要因であった。


「・・・取り敢えず魔物は殲滅できたか・・・」
「そのようです」
「周囲に魔物の臭いはありません」


 いつの間にか魔物がいなくなっていたと思ったらシローの【空間把握】にもアズハの【嗅覚】や【聴覚】にも魔物の気配は感じられなかった。


 シローはこのまま迷宮探索をしたかったが、流石にスノーとアズハの疲労が気になった事もありアゼン村に戻る事にした。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「っ!」


 シロー、スノー、アズハ、3人のギルドカードを受け取り確認したアゼン村の受付嬢兼所長のアリシアーナは絶句した。
 アリシアーナは3人の間を目まぐるしく視線を動かす。
 しかし目とは裏腹に口は開きっぱなしでそんなアリシアーナをシローは歳は兎も角として美人が台無しだと苦笑いをする。


「緊急依頼の報告と報酬を貰いに来た。早く処理をしてくれ」


 堪らずアリシアーナに処理を促すが、アリシアーナから帰ってきた返答はシローの満足するものではなかった。


「ほ、報告ご苦労様でした! ほ、報酬に関しては2日後に改めてお支払いしますので、それまでお待ち下さい!」


 シローが2日も待たされるのかと考えるのを見て取ったアリシアーナは弁明をする。


「当ギルド出張所の処理能力を考えますと情報収集や事後処理などに多少時間が掛かります、申し訳御座いませんがご了承下さい」


 人員不足かとシローは溜息を一つ吐く。


「報酬は他の支部でも受け取れるよな?」
「申し訳ありませんが、緊急依頼の報酬はその場で受け渡しが原則となっております・・・」


 面倒臭いものだと更に溜息を吐くシローにアリシアーナはコメカミをひくつかせながら緊張した面持ちで受け答えする。
 流石にたった3人で千匹にもおよぶ魔物を狩ったシローたちに緊急依頼を発した時の威勢はないアリシアーナであった。


 いつまでも押し問答をしても埒が明かないと思ったシローはスノーとアズハを伴い冒険者ギルドの出張所を後にする。


「2人とも、流石に疲れただろう? 2日後の報酬を受け取るまで休息にあてるから何かしたい事があったら自由にして良いぞ」


 シローの言葉にアズハは反応し、嬉しくて飛び上がりそうな気持ちになる。


「有難うございます、しかし私たちはご主人様の奴隷です。ご主人様の身の回りのお世話をさせて頂きます!」


 スノーは鼻息荒くシローの世話をすると言って聞かない。
 そして思い出したように一言付け加える。


「それにアズハの御仕置きがまだですから!」
「っ!?」
「・・・アズハの御仕置きはするんだね?」
「当然ですっ!」


 アズハは天国から地獄に落とされたような落胆が見て取れた。
 その落胆はまさに地面にめり込んでしまうほどだ。


「暫く考えて決めるか、取り敢えず今日はゆっくりと休もう」










 ■ 個人情報 ■
 アズハ
 狼人 15歳 女
 シローの奴隷


 ■ 能力 ■
 HP:144/144
 MP:16/16
 STR:100
 VIT:100
 AGI:120
 DEX:75
 INT:25
 MND:35
 LUK:50


 ■ 種族スキル ■
 嗅覚Lv3
 聴覚Lv3


 ■ ユニークスキル ■
 神狼化(封印・討伐数:482/1,000)


 ■ スーパーレアスキル ■
 再生Lv1(NEW)


 ■ レアスキル ■
 罠士Lv3
 隠密Lv3
 疲労回復Lv1(NEW)


 ■ ノーマルスキル ■
 体術Lv4(UP)
 短剣術Lv5(UP)













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