チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 025 旅の途中のとある街3

 


 翌日の昼にアレンボの店に顔を出したシローたちを迎えたのはフリンボであった。
 元はフリンボの店だったしアレンボはフリンボの息子なのでフリンボが居ても別に不思議はないと簡単に挨拶をするシローだった。


「ほほほほ、また会ったのぇ。お嬢さんがたものぅ」
「フリンボさんが紹介してくれたおかげで刀のメンテナンスできました、お礼を言います」


 シローはアレンボの店を紹介してくれたフリンボに礼を言い、スノーとアズハは主人の恩人に対して深々と頭を下げる。


「ほほほほ、気にせんでもよいぇ。それよりもじゃ、シローにちと頼みがあるんじゃがのぇ」
「俺に頼み?」


 頼みの前にメンテナンスを頼んでいた牛斬と猛牛の暗刀を受け取り代金を支払う。
 そして昨日と同じ部屋に通されるとフリンボと向かい合って座るシロー、そしてシローの後ろで立って控える2人の美女。
 店員がいれてくれた高級なお茶をすするとシローからフリンボに話しかける。


「それで俺に頼みというのは?」
「ほほほほ、頼みというのはのぇ、シローに奴隷を購入してほしいのじゃ」
「「「はぁ?」」」


 シローだけではなく後ろに控えていたスノーとアズハも一緒にハモった「はぁ?」であった。
 一瞬呆けたシローたちを飄々とした面持ちで眺めるフリンボ。


「フリンボさんは奴隷推奨派でしたっけ?」
「ほほほほ、ワシは奴隷反対派じゃぇ」


 事も無げに答えるフリンボの回答へ怪訝な顔をして頭の中で咀嚼するシローだった。


「何で俺が奴隷を購入しなければ? その理由を聞かせて貰えますか」
「ほほほほ、当然じゃぇ」


 フリンボはお茶を軽くすすり口を潤すと話し始める。


「実はのぉ、シローに購入して貰いたい奴隷はワシの旧友の孫娘なんじゃぇ」


 フリンボによれば、旧友は既に他界しており孫娘の母親も数年前に病気で他界していた。その娘は商人の父親と2人助け合い暮らし気の優しい性格のしっかりした娘に育ったそうだ。
 しかし半月ほど前に行商に出ていた父親が盗賊に出会い商品を奪われた挙句に殺されてしまった事で父親の借金を返せずに奴隷に落とされてしまったそうだ。
 フリンボがそれを知ったのは娘が奴隷に落とされた後だった為にお金を貸す事もできずにいた。
 本来であればフリンボがその娘を見受けすれば済むのだが、残念ながらフリンボには奴隷を購入できないある理由があり、フリンボの周辺の者も同様に身請けできない。
 その為、シローにその娘を身請けして欲しいと頼み込む事になったのだ。


「しかし何で俺なんですか?」
「ほほほほ、シローであれば奴隷を無碍には扱わないと思ったまでじゃぇ」


 そう言うとフリンボはシローの後ろに控えているスノーとアズハを優しい目で見るのであった。


「その狼人の娘さんの装備はワイバーンが素材となっておる。主たるシローの装備より奴隷の装備のほうが高価なんじゃぞぇ?」
「・・・あっ!」


 ここで初めて気付いたシローに呆れる面々である。


「ほほほほ、タダでとはいわんのじゃぇ」


 フリンボは左手の中指に嵌めていた指輪から徐に剣を取り出しシローに差し出す。
 それを見た3人の反応はまちまちであった。
 アズハは指輪型のアイテムボックスのマジックアイテムを初めて見たので大層驚いたがシローは全く動揺せずシローの異常さを知っているスノーは動揺こそすれそれは大きなものではなかった。


「これは?」
「ほほほほ、ワシが鍛えた剣じゃぇ。市場に出せば相当な額になるぞぇ。勿論、購入にかかった費用は別途支払うのじゃぇ」
「・・・これを俺に?」


  シローは知らないが名工とうたわれたフリンボが鍛えた剣が市場に出ると、その剣を巡って殺し合いが起きるともいわれるほどの騒ぎとなる。
 フリンボは頷きシローに剣を押し付ける。
 剣を鞘から抜いたシローはその美しい剣に一瞬見とれる事になる。


(何って美しい剣なんだっ!)


 その白銀の剣身の中心に一筋の深紅の文様が刻まれた正に魔剣と呼べる剣である。
 思わず奇声をあげそうになったシローだが、そこをグッと堪え何とか平静を装う。


「それで俺がその娘を購入し奴隷から解放すれば良いのですね?」
「それなんじゃがの・・・できればその娘をそのまま引き取ってはくれぬのかのぉ・・・せめてその娘が一人前とシローが判断するまで預かってほしいのじゃぇ」
「その理由は?」
「その娘は今年14歳になるのだが、流石に今回の件はその娘にとって堪えたようでの・・・心を閉ざしてしまったようなのじゃ・・・シローには苦労をかけるが頼めんかのぉ・・・」


 フリンボは真剣な面持ちでシローに懇願をする。
 その為かいつもの変な口調はなりを潜めてしまっている。
 そんなフリンボの言葉に反応したのはスノーであった。


「ご主人様、その娘の面倒は私がみますのでフリンボさんの依頼を受けてさしあげては頂けないでしょうか」


 スノーはその娘と自分を重ね合わせているのだろう、泣きそうな視線をシローに浴びせその横でアズハもウンウンと頷いている。


「・・・俺は冒険者です。魔物と戦う事が多々あるでしょう。その娘を危険な目に会わせる事になりますよ?」
「シローが守り切れぬのであれば致し方がないと諦める事もできるものじゃ」


(随分と信頼されてしまったようだが、昨日会ったばかりの俺をここまで信頼できるものなのか?)


「この歳になると人を見る目は確かなものじゃ。ワシはシローという冒険者は信頼に足る人物だと思っておる」


 そこまで言われては断るわけには行かないと結局シローはフリンボの依頼を受ける事にした。
 例え精神が崩壊していても【神聖魔法】であれば直す事もできるし、スノーやアズハが面倒をみると言っている事からもシローとしては引き受ける事は吝かではない。
 ただ、ボッチ体質であるはずの自分自身が何故か奴隷を増やしていく事に違和感を感じなくはないのだが、シローは今それを考えるのは止めようと意識を現実に引き戻す。






 フリンボの依頼を受け奴隷商店にやってきたシローたち3人。


「いらっしゃいませ、ブリック商店にようこそおいで下さいました。私は副支配人を務めますジャンと申します。どうぞ宜しくお願い申し上げます」


 何とも丁寧な対応にシローは尻がむず痒くなる。
 そんなシローに代わってスノーが件の娘を見せてほしいとジャンに申し入れる。
 ジャンは鋭い視線でシローが腰にさしているフリンボから貰った魔剣を一瞥する。
 その動作はシローでなければ気が付かなかったほどの洗練されたものであった。
 ジャンはシローたちを応接室に通し部下の者にお茶を出すように指示をすると部屋を後にした。
 お茶を啜り待つ事数分、ジャンは1人の幼女を連れて部屋の中に入ってきた。


「この娘がクルルで御座います」


 焦点が合っていない視線が虚空を見つめていると言えばよいのか、クルルは現在の状況が理解できていない。


(さて、どうしたものかな・・・)


「その娘がクルルで間違いないですか?」


 スノーは念の為ジャンにクルルが本物か確認する。
 シローからすれば【解析眼】で確認しているのでその必要はないのだが、あくまでも念の為である。


「勿論で御座います。当店にはクルルはこの娘1人しかおりません」


 ジャンの回答を聞きシローが頷くとスノーは更に続ける。


「この娘はいくらですか?」
「はい、250万レイルで御座います」
「にっ、250万っ!」


 アズハが驚きの奇声を上げる。


「その状態の娘に250万は高過ぎではありませんか?」
「そうでしょうか? 私どもは適正な価格だと考えておりますが?」


(なるほど、需要と供給のバランスってやつか、インフレっていうんだっけ? しかしべらぼうな金額だな、こういうのを足元を見るっていうんだったかな? はぁ、どうでもいいや)


「心神喪失状態の奴隷に250万もの値をつけるなど、あなたは売る気があるのですか!?」
「お言葉ですが、このクルルは借金奴隷で御座います。通常の価格に借金分の金額が上乗せされるは当然の事で御座います。それがお気に召さないのであれば他の奴隷を購入するか奴隷購入を諦めてお帰り頂くかで御座います」


 ジャンの言う通りだとシローが思っている間もスノーはジャンに食い下がるが、海千山千の猛者であるジャンには通じない。


「もういい、250万払おう。支払いはギルドカードでいいな?」
「有難う御座います。当店はギルドカードでの支払いも扱っておりますのでご心配には及びません」


 スノーが何か言いたげではあったが、構わず支払いを済ましクルルの主人となったシローは奴隷商店を後にする。
 その際、ジャンが店の出入口まで出てきて深々とお辞儀したのを見たスノーは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
 自分が望んでいないのに奴隷にされ、他人の都合で売り買いされる。
 自分自身が奴隷でありその苦しさを嫌というほど身に染みているスノーはやるせない気持ちである。


 クルルをスノーとアズハに任せ必要な日用品を購入させる。
 クルルはといえば、視線を虚空に彷徨わせるだけで視点があっていない。


「ご主人様、この靴ならクルルに似合っていますよね?」
「ご主人様、このカップの柄がかわいいです!」
「ご主人様、このブラウスはクルルにぴったりです!」
「ご主人様、このタオルの肌触りがとても良いです!」
「ごしゅ「すべて購入だっ!」・・・はい」


 クルルの生活雑貨などを見繕わせていた2人からあれやこれやと言われるのにウンザリしたシローは思わず声を荒げてしまう。
 ここでグッと耐え忍べないのが前世を含めて女性と付き合った事がないシローである。


「不憫じゃのぉ・・・」


 フリンボの呟きはスノーには聞こえなかったがシローとアズハにはしっかりと聞こえていた。
 アズハは種族的に耳が良いし、シローはこれまでに【聞耳】というスキルを身に着けていたから聞こえただけである。


「できるだけの援助はさせてもらうのじゃ。何でも言ってほしいのじゃ」


 シローに向かってフリンボは最大限の援助を申し入れる。
 シローはそれを快く受け入れ、暫くは様子を見ると告げる。
 宿に戻るとシローは早速心神喪失状態のクルルに【神聖魔法】による治癒を試み、魔法をかけられたクルルはベッドの上で可愛い寝息をたてて寝ているので後はスノーとアズハに任せシローは自分の部屋に戻る。


「起きたら教えてくれ」
「「はい!」」












 冒険者ギルドの入り口はどこも同じ扉のようで、同じ型のスイングドアを軽く押しシローたちはギルド会館に入ると毎回の事だが飲食スペースなどで屯っている冒険者たちがシローたちに視線を向ける。
 それらシローに向けた視線はすぐに外す者、粘りつくような視線を投げ続ける者、好奇な視線を向け続ける者、それぞれの視線には理由があるのはシローも知っているが敢えてそれらを無視する。
 クルルはまだ外に出すには早いのでフリンボが手配した者に預けてきている。
 シローはそのまま掲示板の前まで行き何か良い依頼書がないかと掲示板に貼ってある依頼書を見る。


「へ~、迷宮の魔物駆除ねぇ~」
「ご主人様・・・」


 シローの悪い顔を見て少し引き気味のスノーとアズハ。
 そんな3人に近付く影がある。


「へへへへ、ガキが良い女を連れているじゃねぇかぁ~」
「おい、こいつら奴隷だぜ!」
「こんなベッピンさんを2人も奴隷にしているのかよ! このガキませてるな!」
「ペッ、気に入らねぇなっ!」
「キャッ」


 唾を吐いた男が床を強く蹴りアズハに接近すると、その勢いのままアズハを蹴り飛ばした。
 シローが冒険者となって何度かこのように絡まれた事はあるが、いきなりアズハが蹴り飛ばされたのは初めてだ。
 アズハを蹴ったのは大型の両手剣を背負った大柄な男だが、その男はアズハを蹴った後に気絶をしている。
 アズハを蹴ったのを見たシローが大柄の男を無造作に殴り飛ばしたからである。
 その瞬間を目撃した者はシローが大柄の男を殴った事さえ分からなかったであろう早業である。
 シローも意識してやったわけではないので力の入れ加減が甘くなっており、殴り飛ばされた男はあばら骨が数本折れているのだが、この時点で男が気絶しているので誰も男が重傷だとは思ってもいなかった。


「何のつもりだ?」


 アズハに駆け寄ろうとしたスノーに対し他の男が阻止しようと動いたが、それさえもシローのローキックで足を蹴られ体勢を崩し顔面から床に転倒し男は意識を手放す。


「き、キサマッ!」
「俺を怒らせるな。お前たちがこれ以上俺を怒らせたならお前たちは二度と自分の足で歩けなくなるだろう」


 静かな声だが、威圧感をたっぷりと含んだその声に2人の男は後ずさる。


「俺の連れに手を、いや、足か、蹴りを入れたんだ、その代償は高くつくぞ!」


 2人の男は真っ青な顔をし、ただシローの威圧に耐え佇むだけで精一杯である。


(何でこんなにこの世界には馬鹿が多いんだろうか。・・・まぁ、日本人だった時も馬鹿が多かった気がするがな・・・)


 ある意味この世界よりも陰湿な暴力が多かった分日本の方が腐っていたのかも知れないな、と自分の前世を思い出すシローだった。


「おいおい、その辺にしてやってくれよ」


 酒場からシローたちの騒ぎを傍観していた者たちの中から1人の男がシローに仲裁を申し入れる。
 その男は日本にいたなら誰もが目を合わさないだろう強面で、顔には大きな傷がありその傷の為に左目が潰れているのか黒い眼帯をしていた。


「そいつらには俺が責任を持って侘びをいれさせるから許してやってくれ」


 強面の男はシローを油断無く見つめるも、一応は笑顔で話しかける。


「あんたは?」
「俺か? 俺はアズボーンっていうけちな冒険者だ。そいつらとは同じクランなんでな、これ以上は見過ごす事もできないわけだ」


 クランとは冒険者や傭兵などがパーティー以上の人数が集まってできる組織で、大規模なクランになると百人以上もの規模になるものもある。
 そして現在シローたちに手を出した4人と強面の男は大規模クラン、『巨竜の翼』の団員である。


(このアズボーンって奴は強い。・・・だが、それは普通の冒険者に比してであって俺との比較ではない)


「俺の連れは何の非もなく蹴られた。そいつらを許すにはそれなりの代償が必要だぞ」
「その代償だがなぁ、金貨1枚でどうだ?」


(金貨1枚、1万レイル、10万円相当か・・・アズハも怪我をしているわけではないし多いといえば多い金額だな)


「10枚だ、金貨10枚で手を打とう」
「それは多過ぎるだろ? あまり欲をかくものじゃないと思うがな」


 アズボーンは強烈な威圧を放つがその威圧はシローにとってそよ風程度にしか感じられないものであった。


「俺は一切妥協しないぞ、オッサン」


 アズボーンの威圧の中でまったく表情を変えないだけでもアズボーンには驚きであったが、そんな状態でも一切の妥協をしないというシローの実力を読み違えていたと、この時考え至ったのだった。


「調子にのるなよ、ガキ」


 シローとアズボーンは睨み合い、一触即発とも言える状態である。
 そのまま睨み合う事十数秒、折れたのはアズボーンであった。


「ふっ、強情なガキだな。ほれ、これで良いだろ」


 アズボーンは懐から皮袋を取り出しその中から金貨を取り出すとシローに手渡した。
 シローはその金を確認するとポケットに押し込み、口を開く。


「これはアンタの金だろ? 良いのか?」
「気にするな、利子をつけてしっかり取り立てるさ」


 それなら良い、とアズボーンに聞こえるかもわからないほど小さな声でシローは呟き、振り返りスノーに助け起こされたアズハを見る。
 ステータスで怪我をしていないのは確認していたが、立ち姿を見て少しホッとするシローだった。


「申し訳御座いません」


 アズハは大してダメージもないようでツツツとシローに近付き頭を垂れた。
 アズハはいきなり蹴られて体勢を崩したが、まがりなりにもランクがC+の冒険者であり咄嗟に受身をとった事をシローは見ていた。
 その為、暴漢たちを制圧するのを優先させたのだが、スノーはそんなシローに少し不満気である。


「アズハが悪いわけじゃないんだ、謝る事はない。それより大丈夫か?」
「はい! あの程度で怪我をするような事はありません」


 事が起きた瞬間に暴漢たちのステータスを見ているシローなので、それもそうだな、とにこやかにアズハの頭を撫でる。


「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな?」


 シローはこいつまだ居たのか、という感じで振り返りアズボーンを見る。


「俺はシローだ。覚える必要もない直ぐに忘れろ! そして消えろ!」
「生意気なガキだな! まぁいい。で、シローはその依頼書を見ていたな、お前もその依頼を受けるのか?」


 アズボーンがシローに依頼書を受けるのかと確認するが、シローとしては別に応える必要はないと考える。


「何だよ、その目は」
「別に」
「チッ、掴みどころのない奴だな。それよりどうなんだ?」


 シローは面倒臭そうに「さぁね」と返し、アズボーンは「チッ」と舌打ちし寝転がっている暴漢2人に蹴りを入れて起こし4人を連れてその場を立ち去る。
 勿論、アズハを蹴飛ばしシローに殴りつけられた男は目を覚ました時点であばら骨が折れている為にかなり喚いていたが、それを無視してアズボーンは男を引きずっていく。
 ともあれ、冒険者ギルドの職員たちはギルド会館内で大掛かりな乱闘騒ぎにならずに良かったと胸を撫で下ろすのだった。


「酷い目に会いましたね・・・」
「奴隷だからたまにはこういう事もあるわ」
「でも・・・」
「それが奴隷なのよ」


 それが奴隷なのよ、アズハが零した言葉はシローの心をまるで暴風のように荒れさせる。


(何が奴隷だ! 俺も、スノーも、そしてアズハも同じ人間じゃないか! 奴隷だからってこんな仕打ちは間違っている! この世界は間違っている!)


 シローはこの怒りをどこに向けたらよいのか分からず苛立つ。
 無造作に放出されるシローの殺気にも似た苛立ちを敏感に感じたのはスノーであった。


「ごしゅ・・じん・・さま・・・」
「・・・ん? ・・・何だ?」
「大丈夫ですか?」


 厳しい表情をしている事がスノーに不安を与えた事に気付くシローは直ぐさま笑顔をスノーとアズハに向ける。


「危害を加えられたのはアズハだ。俺じゃないよ」
「怖い顔をしていました」
「そうか?」


 自分が苛立って殺気を撒き散らしていた事ははぐらかす。
 その後、ギルド会館を後にしたシローたち3人は軽食で昼食を済ませ食後のお茶を飲んでいるとスノーがギルドの貼り紙についてシローに確認する。


「掲示板に貼ってあった依頼書の件、ご主人様も参加されるのですか?」
「・・・そうだな・・・いや、参加はしない。回廊迷宮の魔物駆除には冒険者だけではなく騎士団も参加するらしいからな、面倒な事には首を突っ込まないようにするさ」
「ではスノーさんのランクアップ試験が終わったら予定通り迷宮都市ヘキサに出発でしょうか?」
「アズハの戦闘訓練にクルルを戦闘に慣らす必要があるから回廊迷宮を通るつもりだ。但し2層よりももっと下の層に入る予定だ」


 スノーのランクアップ試験の次にアズハの【神狼化】の封印を解く事を優先事項としているシローは当の本人であるアズハに【神狼化】について何も説明していない事に今更ながら気が付く。


「あ、そうだ、アズハに話さなければいけない事があったんだ!」
「はい?」


 シローが【神狼化】についてアズハに説明をするとアズハは放心状態に陥る。
 アズハが放心するのも無理の無い事で無能といわれ一族の恥とまでいわれた自分が神獣であるシルバーフェンリルの血を引いているなど思ってもみなかった事であった。


「早くアズハの本当の力を解放してやらないとな。その為には魔物が闊歩する迷宮は非常に都合がいいんだ。【神狼化】が解放されればアズハを馬鹿にした奴らを見返す事もできるだろうし、誰もアズハに手を出せないようになるさ。スノーには悪いがもう暫く付き合ってくれ」
「ご主人様の良いように」


 スノーは自分自身が呪いを受けている事を忘れアズハの【神狼化】を解放させようと決意するのだった。


 

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