チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 026 旅の途中のとある街4

 


 力を入れ過ぎず、速くなり過ぎず、見た目にはゆったりと大地を埋め尽くすほどの魔物の群れの中を魔物と魔物の間を縫うように進む影。
 その影を凝視しても何故か残像のようなモヤがかかった感じでその正体を見止める事はできない。
 影の移動に合わせ近くにいた魔物はその首を切り落とされ絶命するのだが、魔物たちもその影を捉える事ができず困惑の表情を浮かべるのだった。
 影が魔物を殺し尽すのに要した時間は僅か10分もかかる事はなかっただろう、その短時間で凡そ200体にもおよぶ魔物が命を散らした。


「信じられない・・・」
「動きが見えないなんて・・・」


 魔物が虐殺されていく光景を2人の美女が見つめ息をのむ。


「スノー、アズハ、ドロップアイテムを拾っておいてくれ」
「「はいっ!」」


 幻影とも言える影の主は【剣士】スキルを最大レベルであるレベル10にまで上げて発現する『幻夢走』というアーツを使ったシローであり、シローは200体にもおよぶ魔物をこの『幻夢走』により自身が不足していると感じていた経験に替えていった。
 その為に態とモンスターハウスの罠を発動させ大量の魔物を一か所に集めた。
 ここは回廊迷宮の4層にある大部屋でここにモンスターハウスの罠が仕掛けられているのを【空間把握】により確認していたシローは自分の経験をつむ為に態と発動させたのだ。
 当面の目標としているアズハの【神狼化】にかけられた封印を解く為に魔物を生贄にすべきだが、流石にモンスターハウスに放り込むわけにもいかないのでシローが自分自身を鍛える糧にしたのだ。


「ドロップアイテムの回収を完了しました」


 床に座り休憩していたシローにアズハがドロップアイテムの回収完了を告げるとシローは今日はここまでにして鉱山都市フリオムに戻ると告げる。
 帰りはアズハを先頭にスノーとシローの順に続く。
 アズハはその索敵能力を生かして遭遇する魔物を先手必勝とばかりに奇襲攻撃で倒していく。
 今までとはうって変わった動きにシローはアズハの後姿を見てほくそ笑む。
 アズハのステータスはシローによって底上げされていたが当初はシローと同じようにアズハもその能力を十全に生かせていなかった。
 シローの場合は【チート】によりスキルレベルを上げていった事からくる経験不足だが、アズハは奴隷なので主人であるシローの一挙手一投足に脅え、更にはシローの存在に依存していた事が原因であった。
 しかしシローの奴隷になって暫くシローの行動を見ていたアズハはいつの間にかシローに対する不安や恐怖が消え、自分の以前よりも底上げされているその能力を生かせるようになっていたのだ。
 これほど早くに底上げされた能力を使いこなすのは狼人族が生まれながらの狩猟民族である事も理由に挙げられるのだろう。








「お帰りなのです!」


 宿に戻ったシローたちを待っていたのは心神喪失状態から回復したクルルである。
 クルルは順調に回復し今では自分の意志でしっかりと行動できるまでに回復していた。


「「「ただいま」」」


 真っ先にクルルに駆け寄ったのは主に彼女の面倒を見ているスノーで、スノーはクルルをしっかりと抱きしめるとその存在を確認するのである。
 次はアズハでその質量を確認するかのようにクルルを抱き上げると何度も頷くのである。
 最後にシローはクルルの頭を撫でてやりクルルも目を細め気持ちよさそうにその行為を受け入れている。
 実を言えばこの4人の中でもっとも年齢が低いのはシローであり、次いでクルル、スノー、アズハとなる。
 シローは12歳、クルルとスノーは14歳、アズハは15歳とその差は最大で3歳である。
 尤も、シローは前世で高校生だったので、それを入れればシローが最年長となる。


「ご主人様、次はクルルも魔物狩りに連れて行って下さいです!」
「っ!!!」


 この言葉に即反応したのはスノーでありそれはシローやアズハから見ても過剰ともいえるほどのものだった。
 クルルにはまだ早いだとか、クルルには戦いは無理だとか、クルルは家で大人しくしていなさいだとか、まるで母親のようにクルルを過保護に扱う。
 因みに同じ14歳である。


「そうだな、クルルにはまず鍛冶の修行をしてもらいたいと思う。できれば俺たちの武器や防具のメンテナンスをできる位にはなってほしいと思っているし、最終的には俺たちが使う武器や防具はクルルに造ってもらいたいんだけどな」


 クルルについては戦闘はそこそこに後方支援を行える生産職に就いてほしいと考えている。
 これはクルルのステータスにも関係しており、実をいえばクルルは生産特化のスキル保持者なのだ。
 このシローの申し入れにクルルは頬を赤らめ素直に頷くのだった。
 クルルも生産についてはドワーフとしての血が騒ぐのであった。




 ■ 個人情報 ■
 クルル
 ドワーフ 14歳 女
 シローの奴隷


 ■ 能力 ■
 HP:30/30
 MP:6/6
 STR:25
 VIT:15
 AGI:5
 DEX:50
 INT:10
 MND:10
 LUK:22


 ■ ユニークスキル ■
 生産性超向上Lv1


 ■ スーパーレアスキル ■
 生産品質向上Lv1


 ■ レアスキル ■
 解析Lv2
 採掘師Lv2
 鍛冶師Lv1


 ■ ノーマルスキル ■
 交渉術Lv2




 @生産性超向上
 生産時の時間短縮、品質向上、素材消費量低減、素材を魔力で代替えができる、特殊効果付与時の魔力消費低減。
 効果はレベル依存である。


 @生産品質向上
 生産品の品質を向上させる。
 効果はレベル依存。




 正に生産職に就くために生まれてきたと言えるスキル構成である。
 因みに【生産性超向上】と【生産品質向上】は共に品質向上の効果があるが、この2つのスキルの品質向上効果については2つ共発揮されているのか検証が必要だ。












 予定通りスノーのランクアップ試験が行われ危なげなく終了する。
 直ぐにスノーのランクアップの手続きが行われこれでスノーもランクがD-となり一般的には一人前の仲間入りである。
 同時刻、フリンボに預けられたクルルが鍛冶の手ほどきを受けている。
 これはシローがフリンボの援助を惜しまないという言質をとっていたので遠慮することなくフリンボへクルルを仕込んでやってほしいと頼んだのだ。
 引退しているフリンボではあったがシローにクルルを任せてしまった後ろめたさもあったしそれ以上に久しぶりに鍛冶場に立つ事に高揚するのだった。
 期間は1ヶ月、これはシローが迷宮都市ヘキサに旅立つ日程をできるだけ先延ばしにした交渉結果であり、その期間でフリンボはクルルを一人前の職人にすると息巻いていた。


「集中するのじゃぇ!」
「はいっなのです!」


 カン、カン、カカカン、トン、カン。


「もっとテンポ良く打つのじゃぇ!」
「はいっなのです!」


 カン、カン、テン、カン、カン、カン、テン、カン。


「大分良くなっているが、まだまだじゃぇ!」
「はいっなのです!」


 たった1ヶ月で鍛冶師として一人前になるなど誰も考えていないが、師匠であるフリンボと弟子であるクルルは一心不乱に熱した金属を鍛えるのだった。


 引退したはずのフリンボが鍛冶場に立った為に鍛冶場内は一種の緊張に満たされている。
 引退以降、滅多に鍛冶場に足を踏み入れなかったフリンボが居るだけで弟子や孫弟子は背筋がピンと伸びる感覚に襲われる。
 下手な事はできない、そんな所をフリンボに見られたら職人として恥ずかしいし、何よりフリンボの弟子を名乗れなくなるからだ。


 炉に空気を送る為に鞴を操り、熱した鋼を鉄槌で小気味良くとは言えないが打つ。
 真っ赤に熱せられた鋼がクルルの一振り一振りで徐々に形を変えていく。
 鋼を打つ、炉の温度を見る、クルルの眼差しは真剣であり、フリンボの指摘があれば修正し一心不乱に鋼を鍛える。


 クルルがフリンボの下で修業をしている期間はシロー、スノー、アズハの3人は回廊迷宮に入って自分たちの力を底上げする。
 腰を落ち着けて魔物が狩れる迷宮内。
 魔物を狩りつくしても数十分もすれば何処からともなく現れる魔物。
 シローは実戦の感を養うため、スノーは魔法に磨きをかけるため、アズハは【神狼化】の封印を解除するため、それぞれがそれぞれの目的のために切磋琢磨する。
 そんなシローたち3人は現在回廊迷宮の6層に到達していた。
 かつてランクSパーティーが踏破した記録が残っているが、この6層を越えた先の7層ではランクSパーティーが全滅の憂き目を見ている。
 そんな前人未到のエリアに後僅かまで迫っている。


「今日はここまでにしてそろそろ帰るか」
「「はい」」


 回廊迷宮に入り3日目も終わりに近づいた頃、シローは一度地上に戻り疲れを癒す判断をした。
 シロー自身は人外のステータスの為に体の疲れは感じないし精神的にも余裕があるが、スノーやアズハはシローほどタフではないと判断しての事である。
 2人にしてももう少し進むことは可能だが、限界まで消耗させる必要はないと考えたのだ。
 それにクルルを迎えにもいかなければならない。


「今回はレアアイテムがかなりドロップしましたね」


 アズハは冒険者として古いのでレアアイテムがドロップすると何となく嬉しくなる。
 対してシローはそこまでアイテムに執着はないし、スノーも育ちが良い為にそこまで執着はもっていない。
 その為最近ではアズハに高額なアイテムポーチを買い与えドロップアイテムの管理を任せている。
 こういう所はスノーよりアズハの方がしっかりしているのである。


「今度はスノーの装備を更新しないとな。今のも悪くないけど上を目指すには装備もそれなりの物を身に着けないとな」
「私の事より、先ずはご主人様の装備を更新してください!」


 現在の装備はアズハのワイバーンの皮を素材とした革鎧が最上の物で、シローはジャイアントモウの革鎧である。
 ジャイアントモウの革鎧もランクC程度の魔物に対しては遜色ない装備であるが、ランクB以上の魔物を相手取るには不安が残る。
 この回廊迷宮の6層はランクBだけではなくランクAの魔物とも遭遇するので奴隷である自分の装備よりも主人であるシローの装備を向上させる方が優先だとスノーは考えている。
 これは至極普通の事であり、奴隷の装備を優先するシローの方が寧ろ異端なのである。


「俺? 俺は良いよ。クルルが一人前になったら造ってもらうし」
「それなら私の装備をクルルに造ってもらいますのでご主人様の装備を早急に手配しましょう!」


 実を言えば、スノーはクルルを猫かわいがりしているのでクルル製の装備を着けたいのである。
 そんな事をおくびにも出さずサラッと言うほどにシローとの距離が近づいていると考えられなくもない。
 そんな他愛もない話をしながら回廊迷宮の鉱山都市フリオム側出口に近づいた時、出口側から物々しい集団がシローたちに近づいてくる。
 その集団は凡そ50名の一団で、統一された煌びやかな全身鎧を身に纏っている騎士らしき15名ほどを先頭に冒険者と思われる不揃いな装備の者たちが続く。
 その集団は別にシローたちに用があるのではなく、唯単に回廊迷宮の奥へ進んでいるだけなのでシローたちはその集団に道を譲る。
 その集団の中にはどこかで見た記憶がある男が混ざっており、シローはどこで見たのかと記憶を思い起こす。


「冒険者ギルドでアズハが蹴られたおりの方です」
「え? ・・・あぁ、そうか、名前は確か・・・」
「アズボーンさんです」
「そう、そう、アズボーンだったな」


 スノーに教えられるまで記憶の隅ににもアズボーンの名はなかったシローだった。


(そのアズボーンが居るって事は魔物討伐隊ってわけか。先頭を歩いている統一された装備の集団は騎士団ってところか。たしか4層までの魔物を間引きして回廊迷宮内の安全を確保するって依頼書に記載してあったな)


「よう、また会ったな。お前たちは帰りか?」


 すれ違いざまに思いがけずアズボーンがシローたちに声をかけてきた。


「ああ、大分稼いだからな」
「そりゃ結構な事で! しっかり休むんだな」
「そうするさ」


 簡単に言葉を交わしてすれ違う。
 ほんの数秒のことだった。
 そんな僅かな時間ではあったが騎士団員の中から鋭い視線がシローに注がれているのにはシローだけではなく、アズハも気付いていた。


「ご主人様・・・」
「あぁ、分かっているよ」


 その視線に敵意はなかった事からシローはその視線を無視する事にした。










 地上に戻るとシローたちはクルルを預けているアレンボの工房に向かう。
 あと2日で予定の期限となるのだ。
 これまでシローたちが回廊迷宮に入る時はクルルをフリンボに預け、地上に戻ってきた時には一緒に過ごしてきた。
 クルルも大分今の生活に慣れた頃ではあるが、あと2日で迷宮都市ヘキサへ旅立つ事になっているのでクルルがフリンボの手ほどきを受けるのも今日で最後である。


「フリンボさん、今までクルルを預かって頂き有難う御座います」
「ほほほほ、久しぶりに血が騒いだぇ。クルルはワシを越える鍛冶師になるじゃろうてぇ」


 クルルの事は途中経過として色々聞いていたが、それでもフリンボが自分を越える鍛冶師になると明言したのはシローにとって驚きであった。


「クルルやぇ、今日までよく頑張ったわいぇ。ワシに教えれる事は教えた、後はクルル次第じゃぇ。精進するんじゃぞぇ」
「はいです、師匠! 今まで有難う御座いましたです! 師匠の教えを守り精進しますです!」


 シローに引き取られフリンボに師事し鍛冶師として生きていく決意を固めたクルルの力ず良い宣言である。
 翌日は旅支度をするもこれまでに準備は進めていたので殆どする事はなかった。
 だからシローは3人の奴隷に休息日として自由に買い物をして楽しんでくるようにと金貨を10枚ずつ渡し、3人は束の間の休息を楽しむのだった。






 

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