チートスキルはやっぱり反則っぽい!?
チート! 028 スノーは奴隷がお好き?
魔導王国セトマは魔導先進国として名を馳せており、その魔導技術は魔導ギルドと国によって厳しく管理されている。
そして魔導ギルドと国は魔導技術の向上を推奨しており多額の資金が人材育成や魔導研究に投入されている。
魔導王国セトマでは力のある魔法使いに『魔導師』と言う称号を与え、技術者には『魔技師』の称号を与え名誉と金、そして権力を与える。
魔導王国セトマには国王は存在するも貴族は存在せず、能力の高い魔法使いである魔導師や魔技師を貴族相当の待遇をもって国が召抱えている。
その為に『魔導師』や『魔技師』は一代限りの称号であり世襲はされない。
シローたちはその魔導王国セトマの副都である迷宮都市ヘキサの玄関口である大きな門をくぐって街の中に入っていく。
家出をして最初に立ち寄った街で購入した呪われた美人エルフと、旅の途中で見つけた新迷宮で拾った狼人族の奴隷と、ひょんな事から購入するように依頼されそのまま自分の奴隷として面倒をみるクルルと、回廊迷宮で助け懐かれてしまった熊獣人のジーナを連れて。
迷宮都市ヘキサには国内の優秀な魔導師や魔技師たちが集まり切磋琢磨しており、シローは彼らの手により作り出された魔具を見てみたいと思っている。
(神が俺をこの世界に転生させた理由は俺を『勇者候補』としているからだ。神からは細かい事を教えて貰えなかったが、この世界に勇者が必要になる事案が起こるから『勇者候補』が必要になるというのは誰にでも分かる事だろう。つまり、魔王が他の種族と戦争をするとか、魔神が現れ世界を滅ぼそうとするとか、はたまた人族同士の争いなのかは分からないが、何かが起る・・・魔王なんて数百年現れていないはずだし、ましてや魔神なんて・・・)
故にどんな事案が発生しても対処できるように色々と画策し試す。
今のシローは真っ暗な空間をどこに向っているか分からない状態で手探りの前進をしているようなものだ。だからシローは自分自身の戦闘力だけではなく、その戦闘力を支えるアイテムの作成にも通じるべきだと思っているし、【チート】を持つシローにはそれができるとも思っていた。
そんなシローがクルルを奴隷として購入したのは何かの天啓ではないだろうかと考えているのだが、あの胡散臭い神の世界で天啓って感じでもないかな、と考えをリセットする。
(アイテム作成もそうだけど、俺の戦闘スタイルを確立しないとな・・・今の【剣士】中心の戦闘スタイルだといずれ頭打ちになる気がするんだよな・・・)
シローの【剣士】は既にレベルマックスの10になっており、このレベルの【剣士】を持つ者などどこを探しても存在しないほどであるが、それでも何か漠然と自分に【剣士】が合っていないと感じていた。
戦闘を重ねる毎にそんな漠然とした感覚に襲われるのである。
他にも【槍士】を覚えているが、こちらは【剣士】以上に合ってないとも感じていた。
シローは勇者になんてなる気はないが、だからと言ってシロー自身が他者からされるがままの弱い存在でいる選択肢はない。
今のシローは自由になれた事で自分の将来に対して選択肢が無限にあるのではと考えてはいるが、現時点では特に何かをしたいという事はない。
しかしシローに災いが降りかかればそれを自力で排除できるだけの力を保持したいと思っている。
(俺特有の戦闘スタイルを作り上げないといつか危機に陥る気がするんだよな・・・てか、俺特有の戦闘スタイルって何だよ?)
本来なら仲間を集めたり、ファンタジーのテンプレである奴隷によるハーレムを作ったりした方が良いのだが、と考えるも既にハーレムはできつつある様な感じもしないではない。
ただ、如何せんシロー自身は人付き合いが得意ではないので自分からそういった存在を積極的に増やすスキルを持ってはいない事も自覚している。
(伊達に前世を含め30年もボッチをしていませんからっ!)
正直、最初はもしかしたらスノーがチートハーレム要員になるかもと思っていた時もシローにはあったが、他人が近くに居ると気疲れしてしまうのが正直な感想だ。
そこにアズハやクルル、そしてジーナまで加わり気疲れは倍増とまでいかないまでもシローの精神に負荷をかけているのではないだろうか。
そしてシロー自身が考えていたのが「いや、きっとスノーやアズハにクルルが美人過ぎて緊張してしまうのだ!」とか、「俺ってやっぱボッチ体質だ」と堂々巡りのように考え込む。
だからと言ってスノーをはじめアズハやクルルを遠ざけたいか、と問われればそうでもない。
シローは自分自身の気持ちが正直分からないのだ。
(何かもう開き直りするしかない! 街中に住むなんて面倒だから人里離れたところに居を構え、そこを拠点として世界中を旅するってのも良いかも知れない。幸いにも転移して瞬時に拠点に戻る事もできるんだから!)
シロー自身、良い案とは思わないが自身のボッチ体質を治さないと長く他人と一緒に居られない事には気がつき始めているのだが、開き直ってボッチを追及しそうな勢いである。
気ままな徒歩の旅で先を急いでいなかったので回り道(迷宮に寄ったなど)をしていたし、クルルの修行に時間を費やしたりと予定よりはるかに遅くなったが迷宮都市ヘキサに到着した。
シローとしては随分遠回りをしたが、それだけの収穫はあったと満足している。
戦闘スタイルは兎も角として戦闘経験は積めたし、スノーも魔法の制御に磨きがかかっている。
そしてアズハは封印解除の討伐数を伸ばしクルルは鍛冶師としてやっていける目途がたっている。
これだけを見れば意外と上手くいっているなとシローの表情は少し和らぐ。
そしてジーナという盾職の仲間も増えパーティーと考えるならばかなりバランスよくなっている。
その他に当初の予定通り迷宮都市ヘキサに着けばスノーの呪いを解いてやろうと思い、この旅の間で【神聖魔法】のスキルレベルを上げている。
MNDも300を優に超えているし、後はシローに加護を与えてくれた『エクリプ神』がスノーを呪った『美の女神』以上の神格である事を祈るだけだ。
色々考え寝泊りは宿屋ではなくシローが簡易家を造る事になった。
当然の事だがジーナはその光景を見て暫く放心していたし、中に入って充実した設備にまた放心する。
簡易家を造る事にしたのは風呂に入りたいというのもあるのだが、スノーの解呪を行うのに邪魔が入らないようにと考えての事である。
「スノー、そこに座って」
食事後、シローはスノーを椅子に座らせる。
「両手を出して」
テーブルを挟んで対面に座った2人、シローはスノーの手を軽く握るとスノーに目を瞑るように促す。
「・・・どう・・・されましたか?」
シローは何もスノーに説明していないのでスノーは今から何が起きるのか不安なのか、少しビクビクしている。
そしてそれを見ている3人、迷宮で助けた奴隷のアズハ、頼まれて購入した奴隷のクルル、ひょんなことから仲間にしたジーナ、の3人も何が起きるのか分からず不安な眼差しを向けている。
スノーの呪いは美の女神がスノーの美しさに嫉妬した事から美の女神によって呪われたもので、解呪の条件が厳しくスノーを解呪できる人はこの世界に殆どいない。
そんなスノーがシローと出会いシローに奴隷として買われたのは運命だろう。
シローにとっての運命なのか、スノーにとっての運命なのか、と聞かれれば恐らく両方ではないだろうか。
実際、シローはスノーを美人だとか綺麗だとか思うが、好きだとか愛してると感情があるとは思っていないのだが、このままスノーと別れると考えると何だか気持ちがモヤモヤするのであった。
そんなシローの手からは【神聖魔法】による『解呪』の光が放たれ、スノーの体を少しずつ包んで行く。
スノーの美しさと『解呪』の光が相まって神々しい光景となっている。
こんな光景を見てしまうと美の女神が嫉妬するのも無理はないとシローでも思ってしまう。
アズハとクルルもそんなスノーを美しいと思い見とれてしまう。
(あれ? だんだんとスノーの髪の毛が逆立ってきたぞ)
せっかくの神々しさもこれでは少しマイナスだろう。
強力な静電気で引っ張られているかのようにスノーの髪の毛のほぼ全てが逆立っている。
そんな少しやばい状況が暫く続き、スーッと光が収まっていく。
(解呪は成功したのか? スノーのステータスを覗いてみるか)
■ 個人情報 ■
スノー
エルフ 14歳 女
冒険者 元姫 元奴隷
■ 能力 ■
HP:93/93
MP:672/672
STR:120
VIT:110
AGI:170
DEX:150
INT:480
MND:400
LUK:150
■ ユニークスキル ■
白雪姫
■ウルトラレアスキル ■
精霊術師Lv4(UP)
■ スーパーレアスキル ■
氷魔法Lv7(UP)
魔力操作Lv6(UP)
再生Lv1(NEW)
■ レアスキル ■
火魔法Lv5(UP)
風魔法Lv4(UP)
料理人Lv5(UP)
地魔法Lv5(NEW)
疲労回復Lv2(NEW)
■ ノーマルスキル ■
礼儀作法Lv4
弓術Lv5(UP)
(成功だ!)
シローは知らないがエクリプ神の神格は美の女神よりも上である。
成功して当然であり、更にスノーが受けていた美の女神の呪いよりもエクリプ神の加護の方が力が強い為にシローが呪いの影響を受ける事もなかったのだ。
いくら加護の効果の中に状態異常無効があっても美の女神の方が神格が高ければシローもタダでは済まなかっただろう。
しかし、本来であれば個人情報欄に『奴隷』と言う表記があるはずだったのだが、奴隷まで解除され『元奴隷』になっているのはシローにも誤算だった。
迷宮都市ヘキサに着き呪いを解いてから奴隷商人に解除して貰おうとは思っていたので構わないのだが、奴隷も一緒に消えてしまうのかと少しビックリのシローである。
考えてみれば奴隷も呪いの一種であり一緒に解呪されても不思議はない。
(でも、どうやってスノーに説明しようかな・・・)
「もう目を開けても良いよ」
スノーの目が少しずつ開かれ、シローの目を真っ直ぐに見つめる。
「気分はどうだ?」
「・・・何か心のもやが晴れたような・・・軽くなったような・・・気がします」
(俺は呪いを受けた事がないから分からないけど、そんな感じなのかな?)
「こっちにおいで」
「・・・はい」
シローはスノーを跪かせ首に手をあてる。
スノーは少しビクッとするが、シローとしては首を絞めるとか乱暴をするなんて事はしない。
隷属の首輪は既に効力を失っており、その機能を停止しているのでその隷属の首輪をゆっくりと外してあげるとスノーはシローの手によって外された隷属の首輪を見つめる。
「これでスノーは奴隷から解放された。そしてスノーを苦しめていた呪いも解呪されている」
「・・・えっ?」
「「「すごいっ(です)!」」」
スノーは呆然とし、少し開かれた唇がとても妖艶な感じがする。
シローはスノーの唇に貪りつきたいという衝動を抑え、隷属の首輪をストレージに回収し空いた手でスノーの手をとりゆっくりと立ち上がらせる。
シローの奇跡を見せ付けられたアズハたちは未だ現実に戻ってきてはいない。
「今から君は自由の身だ。君を縛るものも、君を虐げるものも、なくなった」
「・・・はい・・・」
すぐには今の状況を飲み込めないのだろう、スノーは呆然としている。
それを見ていたアズハやクルル、そしてジーナも呆然としている。
スノーが呆然とするのは無理もない、世界の果てに行こうが呪いが付き纏うと思っていたのだから。
シローが呪いを解いてくれると言ってもそれはスノーの気を紛らわせる為の方便であり現実には無理だと思っていた『解呪』がなされたのだから。
シローは未だ現実に戻ってこないスノーをベッドに寝かせ、話は翌日にする事にしシロー自身も自分のベッドに潜り込む。
翌朝、起きだしたシローをスノーとアズハそしてクルルがリビングで迎える。
「おはよう、皆よく眠れたかい?」
「「お早う御座います(です)!」」
「・・・おはよう御座います・・・」
スノーの挨拶は少しギクシャクしていたが、シローはそれを気にせず朝御飯を作ろうとキッチンに立つ。
しかし、それをスノーがせいしスノーが朝食を作る。
アズハはスノーの助手をし、クルルはナイフやフォークを並べたりしている。
料理の苦手なジーナはクルルと一緒に手伝いをする。
既にスノーにも【料理人】スキルを覚えさせていたので朝食が黒こげになることもなく、普通に食べれるものが出てくるし、シローほどではないが美味しいのだ。
アズハも少しずつではあるが、シローとスノーと共に旅をするのに慣れてきたし、シローやスノーが作る料理がとても美味しいので食事が楽しみでもあった事から手伝いも自然と楽しいものとなりユラユラと揺れる尻尾がアズハの気持ちを代弁していた。
因みに最近やっと尻尾をズボンから出す事に抵抗が無くなってきたアズハであるが、それはシローたちの前だけである。
そしてクルルは専ら食す専門である。
食事が終わり出立しようと簡易家を取り壊しているシローをスノーはジッと見つめている。
そんなスノーを横目にシローはいつものようにスノーに出立を促す。
「あの・・・お話があるのですが・・・」
「そうか、歩きながら話せる事か?」
スノーはシローとちゃんと話がしたいと言う。
それを了承したシローは【木魔法】で土を盛り上げ椅子とテーブルを作りスノーを椅子に座らせ、アズハとクルルとジーナの3人には周囲を警戒するように指示を出す。
「それで、話と言うのはこれからの事かい?」
「はい」
シローはそれ以上聞かず、スノーが自分から話し始めるのを待つ。
暫く沈黙が続きスノーが意を決して口を開いた最初の言葉はシローにとって意外なものだった。
「私を奴隷にして下さい!」
「・・・はい?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまったシローだったが無理もないだろう。
せっかく奴隷から解放されたのに再び奴隷になりたいと思う者はそうそう居ないのだから。
それをスノーは真顔で言うのだからシローにとっては理解できない行動であった。
(何言ってるの? もしかして奴隷プレイ? それとも俺を騙そうとしているの? 意味分からんわっ!)
「何を言っているか理解しているのか?」
「勿論です! 昨晩寝ずに考えた結果です!」
スノーの目は充血し少し隈もできていたのを見て取ったシローは本気なんだろうと考察するも、何故奴隷の身分に戻りたいと思うのかが理解できなかったのだった。
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