チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 032 迷宮都市ヘキサ2

 


 閃光が走りその数瞬後には轟音そして衝撃波が津波のように押し寄せる。
 その数舜後、数十体もの魔物がキラキラしたエフェクトに包まれアイテムを残して消滅する。
 魔物が残したアイテムは膨大な数でありそのアイテムを回収するのも一苦労ものであるが、その光景を引き起こした者はそれが当然かの如く付き従う者に回収の指示を出す。


「ご主人様、もうアイテムポーチが一杯で御座います!」
「そうか、では帰るとするか!」


 肩まである金髪を揺らし自分の奴隷からの報告を受ける碧眼の少年。
 装備は貴族のような衣服にマント、そして手に持った60cmほどの金属製の杖である。どれも見た目が良く高価な素材が使われているように見え、シローが見たら成金か、と吐き捨てるいで立ちである。


 彼は迷宮都市ヘキサに拠点を構える魔導師であり、名をアキム・ベットーネという。
 彼を知る者は彼の事を『紅蓮の魔術師』と呼び、彼もその二つ名が気に入っていた。
 アキムの奴隷4人は全て女性であり、アキムの女好きはヘキサでも有名であった。
 そのアキムが『炎の迷宮』の12層でたまたま銀髪の美少女を見かけた。
 その少女は雪のように白い肌にキラキラと光り輝いている銀髪、そしてエメラルドのように美しいグリーンの瞳をもつエルフであった。
 存在するだけで周囲を明るくするであろう、その少女に目を奪われたアキムは奴隷に声をかけられるまで呼吸するのも忘れていたほどである。
 アキムは無意識にそのエルフの少女に詰め寄って手を取ろうとしたーーーそしてアキムの手は弾かれたのである。


「なっ!」


 アキムの手を弾いたのは黒髪黒目の少年であった。
 アキムは魔導師であるが、体術にも長けておりそこらにいる冒険者よりはるかに身体的能力は高い。
 そんなアキムの動きを見切りエルフの少女とアキムの間に割って入った子供が只者ではないと普通の状態のアキムであれば考えつくのだったが、如何せん今のアキムはエルフの少女に心を奪われており冷静に思考することも儘ならなかったのである。


「何だあんたは?」


 黒髪黒目の少年はいきなり距離を詰めてきたアキムを訝しみ、当然であるが警戒をしている。
 対してアキムはエルフの少女と自分が親密な関係になる邪魔をした黒髪黒目の少年が悪の権化のように思えて仕方がなかった。


「貴様こそ何者だっ!? この『紅蓮の魔術師』たるアキム・ベットーネ様とそちらの見目麗しきご婦人との運命の出会いを邪魔する貴様こそ何者なのだっ!?」


 無茶苦茶な理論であるが、これがアキムにとっては普通であり美しい女性と自分が仲睦まじく触れ合う邪魔をするものは悪なのだ。


「自分で自分に『様』をつけるとは呆れてものも言えないな。俺のスノーに近寄るな!」


 シローのその言葉にエルフの美少女は「俺のスノー……」と呟き顔を真っ赤に染める。
 それを見ていた狼人の美少女は悶えているスノーを正気に戻すように背中を何度かつっつく。


「俺のスノーだと? 彼女は恋人スイートハートだっ!」


 声を荒げ話したこともないスノーを恋人スイートハートと呼ぶアキムに怒りを通り越して呆れるシローであった。
 そして言われた本人であるスノーは背筋に冷たい物を感じアキムを先ほどまでシローが見敵殲滅していたフレアコックローチを見るときよりも虚ろな視線を浴びせる。
 正にG以下の醜悪な存在を見る目である。


「……スノー、こいつ頭がおかしいのか? それとも俺の耳がおかしいのかな?」
「シロー様の耳は正常です。この者の頭がおかしいのでしょう!」
「そうか……じゃぁ、行くか!」
「はいっ!」


 シローとスノーは頭のおかしな者を見るのを止めて自分たちが進むべき道を進もうと一歩足を出そうとしたが、その瞬間、シローたちの進路を塞ぐ影が現れた。
 シローたちの進路を塞いだのはアキムの奴隷たちである。


「ご主人様の女を置いていきなさいっ!」
「いや、おかしいだろっ!」


 シローは思わずアキムの奴隷たちに突っ込みを入れる。
 いくら奴隷とはいえ、アキムの女たちなのに更に女を増やそうというのか、とシローはこめかみを押さえた。


「ふふふ、ふぁ~っはっはっはっは! この『紅蓮の魔術師』たるアキム・ベットーネ様には何人もの恋人がいるのだよ! そして何人もの恋人がいても良いのだよ! それが『紅蓮の魔術師』たるアキム・ベットーネ様なのだっ!」
「頭大丈夫か?……大丈夫じゃないか、可愛そうに」
「誰が可愛そうだっ! 『紅蓮の魔術師』たるアキム・ベットーふぇっ?……ま、まてぇぇぇぇっ!」


 いつまでもアホを相手にする必要もないだろうとシローは【暗黒魔法】の『幻影』によりスノーたちが走って逃げる光景をアキムに見せた。そしてその幻影を追って走り出すアキム。
 当然の事ながらアキムの奴隷たちはアキムがいきなり走り出した事に驚き、更にそのアキムを追いかけてシローたちの前から姿を消すのであった。
 そんな光景を見ながらシローは頭をポリポリとかき呟く。


「どこの世界にも勘違い野郎っていうのはいるんだな……」


 前世でアキムのような勘違い君を知っているシローとしては実害がない内は良いのだけどな、と瞬考する。


「まったくであるな。しかしシロー殿、あやつが魔導師であれば面倒毎になりそうだが?」
「ああ、そうだな……」


 ジーナは魔導師の称号を持つアキムが今後面倒を興さなければ良いのだが、と考える。


「ご主人様……一体あの方々は……」
「頭がおかしいんだろ?」
「……はぁ、そうなのですか? ……でも『紅蓮の魔術師』といえば『魔導師』の称号を与えられている有名人です。ですからこの国では貴族のような権力を持っています。あの方の動向は要注意だと思います」
「アズハの言う通りです。あのクズ……アキムと言われた方にはこちらの言葉が通じないようですので今後は関わりにならないように注意が必要です」


(スノー君や、今あいつの事を『クズ』って言いましたよね? 確かにクズっぽいけど……まぁいいか! 今度絡んできたら奴の存在自体を消し去ればいいんだし)


 何やら物騒な考えを巡らしているシローだったが、今のシローにならそれができてしまう。


 シローたちが簡易家改め森の拠点に帰り寛いでいる頃、幻影を追いかけ続けたアキムが正気に戻り冒険者ギルドに帰還していた。


「くそっ! 一体何だったんだっ!?」


 周囲の視線など気にせず唾をまき散らしながら怒りを何もない空間にぶつけていたアキム。
 4人の女性奴隷たちはアキムに近づくこともできずにアタフタするだけである。
 ほどなくして少し落ち着きを取り戻したアキムが女性奴隷たちに指示を出す。


「あのスノーとかいうエルフの美女の身元を突き止めろっ! ついでにあの黒髪の、黒髪のガキの事もだっ!」
「「「「はいっ!」」」」


 4人の女性奴隷たちは弾かれるように勢いよく冒険者ギルドの中に消えていく。














 火炎鋼の鉱石をインゴットにするには魔力炉といわれる特殊な炉が必要だ。
 この魔力炉を持つ工房は迷宮都市ヘキサにたった1ヶ所しかなく極めて希少な炉である。
 しかし迷宮都市ヘキサの郊外に2ヶ所目の工房ができていたら、恐らくその2ヶ所目の工房は世界でも有数の工房として名を馳せる事になるだろう。
 しかし2ヶ所目の工房の事は関係者である4人を除き誰もその存在を知ることのない工房である。
 つまりその工房は世界に名を馳せるどころか、ひっそりと誰にも知られないのであった。


「魔力炉最高っ!です。火炎鋼の鉱石がまるで鉄のように簡単に溶けるなんてっ!です」


 テンションマックスの幼女、皆は彼女の事をクルルと呼ぶ。
 そのクルルは魔力炉の中でドロドロとなって溶ける火炎鋼の鉱石を見て喜々とした表情を見せる。
 火炎鋼の鉱石がドロドロに溶けるほどの熱量であれば不純物は既に燃え尽きており、純度の高い液体火炎鋼が目の前に存在している。
 そんな状況を喜々として見つめるクルルの目はまるで数十年恋い焦がれた男性を見るような目である。


「すごいっ!です。この火炎鋼のインゴットの純度は半端ないっ!です」


 出来上がった火炎鋼のインゴットを手に取ってウルトラレアスキルである【解析眼】を行使したクルルは本日何度目かの大声をあげる。
 スノーはそんなクルルを娘を見守る母親の視線で後ろから見つめているのであった。




 

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