チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

チート! 038 炎の迷宮攻略記録2

 


 30層のボスはヘドロンという魔物だ。
 種族名でもわかるようにヘドロの魔物だと思われるヘドロンは濃い緑や紫などの色が混ざっており、大きさは高さ2メートル、幅4メートルほどでなだらかな山形をしているが形は自由にできるようで常に微妙な変形を見せながら周囲に何かを吐き出している。
 その見た目は不衛生で近づいただけでも病気になりそうなので近づきたいとは思わないシローたちだった。
 このヘドロンはこの炎の迷宮の中では珍しく火系の属性を持たない。
 だから火系の対策をしてボス戦に挑んだ者からすれば拍子抜けしてしまうのだろう。
 ただ、ここで気を抜いたものはこのヘドロンには勝てないと思われる。


「弱点なし、物理耐性と魔法耐性を持っているぞ」
「これはまたえらく硬い……いや、硬くはなさそうだけど攻撃が効きにくそうだね」


 ジーナの言う通りヘドロンは高いVIT値と物理耐性、そして魔法耐性があるのでHPを削るのにとても苦労する魔物である。
 ただ、幸いなことに魔法防御に関係するMND値は極めて低いのでどちらかというと魔法で攻撃するほうが効率は良い。


「あれには近づくな!毒を持っている」
「面倒なだねぇ~私と相性は最悪か」
「ジーナさんだけではありません。私も相性が悪いです!」
「アズハは斬撃を飛ばせるじゃないけど、私は何もないからな。シロー殿に任せるしかないかね」
「ご主人様、援護します!」
「いや、ここは俺1人で大丈夫だ。2人は見ていてくれ」


 シローがスーッと2歩前に出るとヘドロンが動き出した。
 魔法を放つと思っていた2人は走り出したシローを見てビックリする。


「な、毒があるんだぞ!」
「危ないです!」


 しかし2人の懸念は危惧に終わる。
 何故ならシローは【超越魔法】によって自分の周囲に結界をはっており、その結界によって毒はシローには届かないのだ。
 そんなこととは露知らずヘドロンは【毒ガス】を吐き出す。
 シローが毒ガスを浴びても平然としているとその不定形のボディーから触手を伸ばしてシローを薙ぎ払おうとするが、その触手がシローに接触する直前に吹き飛んだ。
 それは【闘神武技とうしんぶぎ】によって拳に気を乗せたシローの軽いジャブによって起こったことだが、ヘドロンには何が起きたかわかっていない。
 吹き飛んだ触手が壁や床に付着するとジュワーと音を立て壁や床を溶かすことからその触手にも毒があるのは分かった。


 軽くステップを踏み瞬時にヘドロンに接敵するシローの左拳がシュッと繰り出されるとヘドロンの山形の体に拳大の穴が開く。
 しかしヘドロンは痛みを感じていないようですぐに穴は塞がり反撃をする。
 やや距離をとったシローにヘドロンの体からバスケットボール大の不衛生な球が飛び出し迫る。
 しかしシローは着弾寸前に体を半歩ずらしそれを避け、後方でベチャリと音がする。


「一発では無理か、ならこれならどうだ!?」


 シローは左の拳を目にもとまらぬ速さで三度突き出す。ボクシングでいう高速ジャブの連打だ。
 ヘドロンのボディーに3つの穴が開くが、その穴はすぐに塞がる。


「チッ、なら!」


 仕切り直しの為に後方に移動したシローの直感が危険を感じる。そしてアズハとジーナが叫ぶ声が聞こえた。
 すぐに大きく飛びのくとそこには2体目のヘドロンが山形のボディーでシローにのしかかるところだった。


「分裂か!」


 先ほど発射されたバスケットボール大の球がいつの間にか2メートルほどの大きさになってシローに襲い掛かったのだ。
 物理法則を無視した2体目の登場だったがシローは危機感を感じていなかった。


「まったく……仕方がない、あれを出すか」


 その瞬間、シローの体が光り輝く。
 アズハのように神狼化が解放され進化したわけではない。
 その光に危機感を持ったのか2体のヘドロンは山形のボディーを大きく揺らしシローに飛び掛かる。
 2体のヘドロンがシローを覆いつくす。
 アズハとジーナの悲鳴が響く。
 その瞬間、ヘドロン2体のボディーが風船のように膨らむ。


「はぁぁぁぁぁっ!ゴッドハンドォォォォォスマッシャーァァァァァッ!」


 その声とともにヘドロンのボディーが裂け眩い光が漏れ出す。
 そして次の瞬間、光りがヘドロンを飲み込む。いや、ヘドロンを滅するのだった。
 あまりの眩しさにアズハとジーナは目を覆うことしかできなかった。
 これは気を超える神の気、神気を纏った拳を数百から数千発も放つシローの必殺技の一つである『ゴッドハンドスマッシャー』だ。
 【闘神武技とうしんぶぎ】の技の一つだ。
 シロー以外の者が同じ技を放てたとしても全身の筋肉が断絶し骨が砕けるほどに自身の体を犠牲にする技だ。
しかし今のシローのVIT値であれば自滅技とも言える『ゴッドハンドスマッシャー』もデメリットなく使用が可能なのだ。
 それだけ高いVIT値が必要になるのがこの『ゴッドハンドスマッシャー』なのだ。


「まったく、面倒をかけやがる」


 そんな聞きなれた声に2人が目を開ける。


「待たせたな、ドロップアイテムはこの薬のようだ」


 手に1本の瓶を持ったシローが何もなかったかのように2人に話しかける。


「しかし倒したのは2体なのにドロップアイテムはこの薬1本だけなんてしけてるな」
「まったく、シロー殿はいつもマイペースだな」
「ご主人様が無事でアズハは嬉しいです!」
「あんなザコにられる俺じゃないぞ」


 減らず口を受け流して2人はシローが持っている瓶の中身が気になった。
 アズハがウルトラレアスキルである【解析眼】を発動させる。
 アズハやスノーなどはシローのユニークスキルである【ステータスマイスター】によって色々と便利なスキルが与えられているので、ウルトラレアスキルである【解析眼】をアズハも持っているのだ。


「えっ!……神薬エリクサー
「え、エリクサーだって!?」


 すでに【解析眼】によって中身が神薬エリクサーだと知っていたシローは驚かないが、アズハとジーナは暫く放心する。
 2人が放心するのも仕方がない。神薬エリクサーは部位欠損があるほどの大怪我も治し、時間制限はあるものの死んだ者でも生き返らせることができ、更に若返りを促すといわれている薬なのだ。
 もし市場に出せば神薬エリクサーを奪い合って国単位の争いが起きかねないほど希少で貴重な薬なのだ。


「残念ながらスノーには使えないので売るか?」
「「本気マジですか!」」


 オークションに出せば以前シローが出品した『ジャイアントモウの肉(上質)』どころの話ではない。『ジャイアントモウの肉(上質)』でさえ4500万レイルと高額だったが、その数倍、いや、数十倍の値がついてもおかしくないのだ。


「これを売るのはいつでもできるから、先ずは先に進むぞ」


 その価値をわかっているのか、と思う2人を促し31層へ足を踏み入れるシローだった。


 気を取り直したアズハとジーナは神薬エリクサーのことを忘れたかのように魔物を狩りまくった。
 まるで記憶から神薬エリクサーのことを消そうとしているかの如く2人は意識を魔物に向けるのだった。


「はぁぁぁぁあっ!」
「うりゃぁぁぁぁっ!」


 2人の活躍によってシローたちは35層に足を踏み入れた。そしてそこで家に帰るのだった。
 

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