チートスキルはやっぱり反則っぽい!?

なんじゃもんじゃ

番外編_召喚された勇者ではないお話4

 


 シローが勇者の訓練を受け持ってから一カ月が過ぎた。
 半月ほどでシローの訓練を受けた勇者とそうでない勇者の差が明らかになり始め、一カ月も経つとその差は歴然となった。


「勇者様たちの成長は明らかです。シロー様、ありがとうございます」
「最後の仕上げだ。明日からダンジョンに篭る。いいな?」
「勿論です!」
 アナンメアリーはシローの尊大な態度を気にすることなく、ダンジョン行きを許可する。


 訓練場を一日中走られた時には【疲労耐性】や【疲労回復】、【HP回復】、【身体強化】などのスキルを得た。
 スライムのブルーに追いかけまわされ自分の手足が食われる感覚を何度も味わうと【苦痛耐性】や【精神汚染耐性】、【状態異常耐性】、【頑強】、【硬化】、【再生】などのスキルを取得していった。
 そしてブルーから逃げる為に【逃げ足】や【加速】、中には【神速】を覚えるものまで出た。


 スキルだけ見ても他の勇者より圧倒的に多く、差があるのが分かる。
 しかし十二人の勇者の真骨頂はスキルではない。
 能力が圧倒的に高くなっているのだ。
 勇者の筆頭格だったヒデオ・カミシロのステータスとシローの訓練を受けた勇者を比較してみると良く分かる。




 ■ 個人情報 ■
 ヒデオ・カミシロ
 人族 18歳 男
 勇者


 ■ 能力 ■
 HP:2,200/2,200(↑1,200)
 MP:2,000/2,000(↑1,600)
 STR:400(↑200)
 VIT:400(↑200)
 AGI:250(↑100)
 DEX:250(↑100)
 INT:250(↑100)
 MND:250(↑100)
 LUK:80(↑30)


 ■ ユニークスキル ■
 聖剣召喚


 ■ スーパーレアスキル ■
 光魔法Lv2(↑1)


 ■ ノーマルスキル ■
 剣術Lv3(↑2)
 盾術Lv2(↑1)


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ■ 個人情報 ■
 キョウカ・イサジマ
 人族 18歳 女
 勇者


 ■ 能力 ■
 HP:5,000/5,000(↑4,800)
 MP:8,000/8,000(↑7,200)
 STR:900(↑850)
 VIT:1,000(↑920)
 AGI:1,500(↑1,420)
 DEX:1,200(↑1,100)
 INT:1,500(↑1,300)
 MND:1,800(↑1,700)
 LUK:150(↑130)


 ■ ウルトラレアスキル ■
 神速Lv3(NEW)


 ■ スーパーレアスキル ■
 魔力操作Lv5(↑4)
 状態異常耐性Lv5(NEW)
 再生Lv4(NEW)
 頑強Lv4(NEW)
 炎魔法Lv4(NEW)


 ■ ノーマルスキル ■
 体術Lv5(NEW)
 直感Lv4(NEW)




 勇者の中ではスキルも能力も最高だったカミシロ。
 それに対し、勇者の中でも能力が低い部類だったイサジマ。
 二人を見比べればその圧倒的な差が分かる。


 しかもカミシロは新しいスキルを1つも覚えていないが、イサジマは7つも新しいスキルを覚えいる。
 【炎魔法】はもともとあった【火魔法】が昇華したものだが、それでも6つのスキルを新規に覚えている状況にアナンメアリーは驚愕をした。
 それに魔法系の能力だったにも関わらず【体術】や【神速】、【頑強】など前衛系のスキルまで覚えているのだ。
 ここに【剣術】や【格闘術】などがあれば後方火力だけではなく、前衛としても十分に強いだろう。


「失礼ながら、ここまで強くなるとは思っていませんでした」
「人間、死ぬ気になれば大概のことはできる」
 死ぬ気になればとシローは言うが、勇者たちを死の間際まで追い込んだのはシローである。


「あの、魔王には……」
「悪いが、魔王は別格の強さを持っている。勇者が魔王を倒すにはまだまだ時間が必要だ。少なくとも俺に少しでも本気を出させる程度に強くならないとな」
 魔王に勝とうと思うならまだまだ足りない。
 足りないどころの話ではない。
 それに既に分かっていることだが、対魔王に最も有効な【聖剣召喚】を持っているカミシロがシローの訓練を受けていないのであまり成長していない。


 アナンメアリーは表情を暗くする。
 いつもなら他人が表情を暗くしても無関心なシローだが、アナンメアリーが表情を暗くするのを見て心が痛んだ。
 何故、そんな気持ちになるのか分からないが、シローは少なくともアナンメアリーを受け入れているようだ。


 アナンメアリーとの打ち合わせも終わり、シローは帰ろうと城の廊下を歩いていた。
 そして目の前で壁に寄り添う騎士の姿を見止める。
「……」
 騎士を無視して進むシロー。
「少し時間をくれないかな?」
「……」
 騎士は穏やかな口調でシローに声をかける。
 敵意は感じられない。
 かといって味方ではない。
 シローが敵ではないが味方でもないと決めた相手だ。


「何かようか?」
「ここでは何だから私の部屋に来てくれないか?」
 声をかけてきたのはゲール・ファイフォーレン。シローの実父である。
 敵対しているわけでもないのでため息を吐きながらも了承をする。


 今でも騎士団の大隊長をしているゲールは真っ赤な髪の毛が特徴で顔もシーロだった頃のシローとは似ていない。
 時々すれ違う騎士がゲールに敬礼をする。
 ゲールも敬礼を返し通り過ぎる。
 家出をする前、8歳で前世の記憶を取り戻したシローとは数えるほどしか会っていない。
 年に一度か二度、会うだけの存在。
 昔は大きな背中だったが、今ではシローも成長しているので大きいとは感じなくなった。
 そんなことを考えながらゲールの後に付いていく。


「座ってくれたまえ」
 騎士団の大隊長ともなるとなかなか広い部屋が城の中に与えられていた。
 そんな部屋のソファーに座るように促される。
 慣れない手つきでお茶を淹れてシローの前に置く。


「態々すまなかったね」
「構わん。で、話とは?」
 対峙すると分かるが、長男と長女は父親似だ。
 次男は母親似で、シローはどちらかと言えば母親に似ているが、基本的には両親のどちらにも似ていない。


「いくつか聞きたいことがあってね」
「何だ?」
「ふふふ、言葉が少ないと誤解されたりしないかね?」
「……」
 たしかにシローはぶっきらぼうな口調なので誤解をされることは多い。
「母親によく似ているね」
「……」
 いきなり母親と言われても心の準備はできていたので動揺はない。


「俺に母親はいない。物心ついた時から俺は一人だった」
「シーロ・ファイフォーレン。この名に覚えがあるだろ?」
「わけの分からないことを言う。そんな名に覚えはない」
「そうかい。では、少し話を聞いてもらえるかな?」
「……」
 シローの答えを待たずにゲールは話を続けた。


「六年ほど前のことだけど、私の三男、シーロが屋敷から消え去ったんだ。当初は誘拐を疑ったよ」
「……」
 ゲールはシローの顔を見ながら話を続ける。
「シーロはね、私の三男として育ったけど、本当は私の子供じゃないんだ」
「っ!?」
 その言葉に流石のシローも驚きを隠せなかった。
 いくつもの修羅場をかいくぐってきたシローでさえ驚きの表情を顔に出す程にゲールの言葉は意外なものだったのだ。


「ふふふ、驚いているようだね。でももっと驚く事実がシーロにはある。それが聞きたくはないかい?」
「……何故、俺にそんな話をするんだ?」
 シローは動揺を素早く落ち着かせ、そしてゲールを睨みつける。
 両親との縁は切ったつもりだが、それでも血の繋がった父親だという認識だった。
 なのに血が繋がっていないと言われるとは思ってもいなかった。


「それ以上のことは君次第だ。君がシーロだったと認めれば話の続きを教えよう」
「……」
 今更シーロだったと認めることは流石にできない。
 しかし目の前の男が父親でなければ誰が父親なのか?
 前世でも捨て子だった自分がこの世界でも捨て子だったのか?
 それとも母親のカリンが不義を犯した子なのか?
 それならゲールがシローに会いに来なかったことも頷ける。
 シローは色々なケースを考える。ぐるぐる廻る思考。


「今すぐ返事を、とは言わない。私も全部喋ることはできないからね」
「……」
 気になる。どうする?
 力ずくで聞くこともできる。思い切って精神を支配して喋らせるか?とも考える。


「はぁー」
 シローは決断をした。
「仮に俺がそのシーロだったとして、アンタ一人の胸の中にその事実をしまっておいてくれるのか?」
 そう、シローは認めることにしたのだ。
 そしてその上でシーロ・イコール・シローの情報を秘匿できるのかを聞いているのだ。
 どの道、ゲールもカリンもシーロ・イコール・シローだと断定しているのだ。
 今更、肯定も否定もないだろう。
 後は、ゲールが情報を秘匿してシローが認めるだけである。


「俺の妻のカリン、そして本当の父親。その二人には話したいな。勿論、二人には口留めをする。どうかな?」
「……」
 妥当なことだろう。
 しかしここでシローは気付いた。
 そう、ゲールは本当の母親とは言わなかったのだ。
 つまりカリンが母親で父親がゲール以外にいると考えたのだ。


 

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