センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
21話 主文はあとまわし。
「自分が負けた理由が分からないって顔をしているな。種明かしをしてやる。俺はさっき、空間でスプーン曲げをやったんだよ」
「……?」
「理解できないって顔だな。じゃあ、少しかみくだこうか。……どこから言おうかな。ちゃんと教えるとなると、やっぱり、最初からになるか……」
センは、数秒だけ、虚空を眺めて、
「まず、神闘には、『虚実挟雑の型』っていう戦闘方法があってな。メチャメチャ簡単に言えば――虚に見えて実、実に見えて虚、そのどちらかと思わせておいて、実はそれ以外、さてどれでしょうっつー、ふざけた択を押しつける神の戦闘スタイルの一つ」
神の戦闘スタイルは山ほどある。
虚実挟雑は、その中の、ほんの一つでしかない。
「それを応用して、次元の指向性を歪ませて、お前の志向性を曲げた」
センの話を聞いて、アダムは当然のように怪訝顔を浮かべた。
『何がなんだかサッパリ』と言いたげな顔。
そんなアダムの『?顔』を見たセンは、ニっと微笑んで、
「まだ理解できないって? 当たり前だろ。俺が、その神髄を理解するのに何年かかったと思っていやがる」
知って、より深く学んで、本当に理解して、経験を積んで、
『分からない』と絶望して、それでももがいて、
気の遠くなる膨大な時間を積むことで、どうにか、
『少しだけ掴めた』と思ったものの、
結局のところ、それはただの勘違いでしかなくて、
絶望して、嘆いて、苦しんで
それでも、まだもがいて、
『わからない』と苦悩して、
『これ、一生わからないんじゃ』と焦って、
それでも、たくさん、たくさん、がんばって、
けれど、やっぱり分からなくて、
『わからない、わからない、わからない』
と、もがき苦しむことにも飽き飽きして、
それでも積んで積んで積んだ先に、
ほんの少しだけ見えてきて、
――そうして、ようやく、
ジャンケンになる力。
『けっきょく、これも、必勝法じゃなく、ただのジャンケンかい!』
と、最後に嘆くまでがワンセット。
それが神闘の神髄。
なんと、バカバカしい話か。
しかし、
『そのバカバカしさを体験した者』にしか見えない風景というものが確かにある。
センは、その風景を見ている。
今のアダムには、何も見えていない。
「神の戦闘スタイルってのは、たいがい、初見殺しだ。磨き抜かれた武の極限、その結晶。理解し、盗み、研究し、鍛錬を重ねて、ようやく対処方法が見えてくる」
存在値にどれだけ差があっても、今のアダムならば、封殺するのは難しくない。
だってルール知らないんだもん。
今のアダムは、目の前にチョキを出されて、『?』と首をかしげている状態。
そんなヤツを相手にしている状態で、
逆に、どうやって、負けろってんだ。
「今のお前の状況を丁寧に教えてやる。『スペックだけなら確実に俺より上のS級キャラ』を使っていて、ゲームの腕前も抜群だが、今の俺たちがやっている『この格ゲー』には慣れていないヤツ。ハッキリ言ってやる。その程度のヤツには負ける方が難しい」
存在値が増えれば増えるほど出来る事は増えていく。
可能性は爆発的に広がっていく。
それはすなわち、型の種類が膨大になっていくという事。
パターンとその派生が指数関数的に増えていく。
そうなれば、根柢のルールそのものが変わっていく。
『現世のお遊戯』と『神闘』は全くの別物。
『ボウズめくり』と『歌ガルタ』の違い、
『はさみ将棋』と『将棋』の違い、
『五目並べ』と『囲碁』の違――
センが、隅で地を囲っている間、アダムは、天元に黒を置いて、そこから横一列に五目並べようとしていたようなもの。
一言で言えば、最初から、勝負になどなっていなかったのだ。
「言うまでもないが、俺の腕は全一級だぜ。使っているキャラは、お前と比べれば、かなりの弱キャラだが、関係ねぇ。ゲームが上手いだけの初心者なんざ一蹴だ」
キャラスペックという点だけで見ればアダムの方が上。
今のアダムは凄まじい。
間違いなく『Sキャラ』といえる。
誰が使っても強い、修正必須の優遇されすぎている最強キャラ。
対して、センは、今のアダムと比べれば評価的には『A-』が精々の、玄人向けキャラ。
神闘に関しての説明はよくわからなかったが、『Sキャラどうこう』という、そっち方面の説明は理解できた。
それは、先ほどの拳や蹴りに乗せて、『格ゲーという概念』について、むりやり流しこまれたからだ。
(つまりは、それだけの余裕があったという事……私など、相手にもなっていなかったという……こと……)
キャラ的に、どっちが強いかといえば、アダムの方が強い。
しかし、
どっちが勝つかと言えば、もちろん、他の要素が多大にからんでくるわけで……
「初心者狩りは趣味じゃねぇが……マヌケに絡んできたのはそっちだ。その報いは受けてもらう」
センのオーラに殺意がにじむ。
センの頭は決してお花畑ではない。
「さぁて、説教はここまで。ここからは、――罰の時間だ」
圧力が増していく。
空気が冷たくなっていく。
「あれだけナメた態度をかましてきたんだ……まさか、ちょっと説教されて終わりだなんて思ってねぇよなぁ?」
今のセンの声に、
「判決をいいわたす。主文はあとまわし。先に判決理由を述べる。お前は、俺を侮蔑した。ナメた口をきき、ナメた要求をしてきて、ナメた目で見てきた……ああ、あと二回殴られたな。あれは痛かった。……痛かったぞぉおおおおお! ……というわけで――」
温かみは一切ない。
軽口をはさみながら、しかし、表情は凍てついたまま。
「死刑を執行する。慈悲はない」
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