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29話 アダムとシューリ

 29話




 ここは、世界の中心を想わせる大講堂。
 創玄神層の最奥にある『桜華堂』。


 その中殿に位置する『主の間』。
 朝焼けの輝きで満たされた幻想的な空間。




 その扉の前に、彼女――酒神終理は立っていた。
 アダムに『一人で来るように』と呼び出された酒神は、
 こっそりと、神気を練り上げながら、ここまでおもむいた。


 周囲を少しだけ確認して、酒神――シューリは扉を開く。


 主の間に足を踏み入れると、










「来たな、酒神終理。……座れ」










 そこには、自分を呼びだしたアダムが円卓に一人で腰をおろしていた。
 他には誰もいない。
 完全な二人きり。


 この状況を見て、シューリは、


(……どうやって整えようかと狙っていたチャンスが、勝手に、ネギしょってやってきた……)


 と思った。


 禁域と接続しているゼノリカ内でなら、神の力が使える。
 アダムは確かに強いが、所詮は『現世では強い』という程度。


(あたしがその気になれば……この程度のカス、余裕で殺せる……)


 ちょっと本気を出せば、サクっと瞬殺できる。
 それは、少し前まで、紛れも無い事実だった。


 ――が、


(? 前と雰囲気が違う。顔つきも少し……それに、なんだ? ……存在値が見えない……センから何かもらったか?)


 と、頭の中で思うと同時に、シューリはめざとく発見する。
 アダムの左手にはまっている指輪――






(ぁ、あのボケェ……)






 ビキキッと、青筋をたてるシューリ。


 見た感じ、融合の指輪……


 シューリは思う。
 おそらく、話に聞いていた『サイ』とかいうのと融合したのだろう。


 ――即座に頭の中で解答に至る。


 理解はできた。
 しかし、納得はできない。


(なんで、わざわざ指輪に……いや、それが一番簡単なのは分かるが、そういう問題じゃないだろうっ!)


 いや、そういう問題である。
 一番簡単なのが指輪状にすること。
 だから、センは定石にのっとった。
 それだけ。


 だが、そんな安い合理で黙れるほど、今のシューリは冷静じゃない。


 あのバカ男が、
 このカス女に、
 指輪を贈った。


 それだけが、今のシューリの頭をしめているすべて。


 それ以外はどうでもいい。
 世界の終わりが迫っていたとしても、今のシューリなら、
 どうでもいいと言い捨てられるだろう。


 かつては、己の魂を捧げてまで世界を守ろうとしたシューリ。
 だが、実際のところ、自己犠牲の精神から、邪神に魂を捧げようとした訳ではない。
 自分が魂をささげないと邪神が世界を終わらせる。
 つまり、全部死ぬ。
 じゃあ、捧げるしかないじゃん。
 それだけ。
 どうせ何もしなかったら全部死んで終わり。


 ――なら、せめて――
 つまりは意地。


 もっと言えば、
 『独りで死ぬのはイヤだ』なんて、そんなダセェ事は言えなかった。




 ――究極の邪神に魂を捧げろと言われても、
   平常時となんら変わらず、不敵にニタニタと笑っていられる。
   それこそが、このあたし、シューリ・スピリット・アース――




 すなわち、尖り切ったプライド。
 あえて言いかえるなら、世界一クソめんどうくさいバカ女。




 ある意味で高潔。
 だが、それが、センと同程度の崇高さを持つかと言えば、やはり違うわけで――










(……くそが、くそが、くそが……)


 シューリのイライラが募っていく。
 極めて人間的な反応。
 神である前に女。
 一人の、『心の底から愛している男』に溺れている女。


(あたし以外に……指輪を……指輪を……ぐぬぅっ)


 シューリも、センから指輪をもらっている。
 『いつでも自由に二人きりで話し合える、極めて特別な、隔離された空間』へと転移できる指輪。


 ハッキリ言って、価値で言えば、シューリが貰った指輪の方が遥かに高い。
 比べ物にならない。
 だが、そんなことは現状、まったく関係ない。


 いや、もちろん、『諸々、関係はオオアリ』なのだが、『その事実があったからといって、この怒りが収まるわけではない』という意味で関係ない。










 ニタニタ顔はなんとかキープしているものの、抑えきれず小刻みに震えているシューリに、アダムは、




「座れと言っている」




 威圧的にそう言ってくるアダムに、シューリは、






 ――ついに、プチっとキレた。
 『もう我慢はできない』と心が理解した。
 『よく我慢したほうだ』と自分をほめた。
 もうムリ。
 もう限界。










「お嬢ちゃん……さっきから……頭が高いでちゅねぇ……」










 言いながら、躊躇なく、オーラを解放して、


「……超神化……」


 超越者の姿となった。
 超ミニスカキャバスーツのままだが、その上から、凶悪に華美な唐衣からぎぬを羽織る。
 バランスの違和感はハンパじゃないが、そのミスマッチ・アンバランス・ナンセンスぶりが、シューリには、驚くほど似合っていた。




 本来の姿に戻ったシューリは、白皙の輝きに包まれる。
 恐ろしく荘厳な静寂。
 空間が黙った。


 直後、


 次元が、緊張感に耐えきれなくなったかのように、ビシっと割れた。
 ズズズっと、悲鳴を上げているかのように、『主の間』が揺れる。
 深く、静かで、軽やかで、それなのに、確かな重厚さを感じずにはいられない、時空の歪みそのものとでも言うべき尖った威圧感。




 シューリは、事前に、センから、『アダムの異常性』について聞いている。
 サイコなんとかに魂魄を奪われ、壊れ堕ちた事で、存在値がカンストに達したという話。


 ぶっちゃけ『本当にカンストまで辿り着いたのか?』と『疑っている部分』はあるが、もし事実なら、『素』でいるとまずい。
 その慎重さが、シューリを解放させた。


 圧倒的な威圧感を放つ『本当のシューリ』を目の当たりにしたアダムは、
 しかし冷静に、






「……頭が高いとは、随分な言い草じゃないか、私は貴様の上司だぞ、酒神終理」






 普通なら気圧されるシューリの迫力に一切動じず、そう言った。


 涼しい顔をしているアダムを見て、シューリは思う。


(あたしの神気に触れていながら、その、ムカつく『すまし顔』をつらぬくとは……凄まじい胆力……まさか、本当に、カンスト級の力を持っているのか?)




 アダムが、


「主上様から、貴様の話は聞いている。どうやら貴様は、最上級クラスの神力を持っているようだが……しかし、それは私も同じこと。ハッキリ言っておく。私の存在値は、貴様よりも高い」


「……へぇー、すごいでちゅねぇ」


 言いながら、心の中で、






(ふんっ。たとえ、本当に存在値がカンスト級であったとしても、神闘を知らぬのであれば殺し切れる。初見殺しのオンパレードで圧殺してやる)









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