センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

5話 神はいない

 5話




「おーおー、脅してくれるねぇ、こわい、こわい」


 ギラっとした笑みを浮かべるハルスに、
 ゼンは、とうとうと言う。


「脅している訳じゃない。ただの情報開示だ。ちなみに、間違いなく、あんたを殺すことができる力だが、そのかわり、これを使ってしまうと、俺は、大きな代償を払う事になる。汎用性のある切札じゃない。正直、使いどころが、かなり限定されている諸刃の剣なんだ」


(……まっすぐな目で見てきやがって……ウソをついている感じじゃねぇ。マジで俺を殺せるだけの力か? 別に、ありえない訳じゃねぇ。俺は不死身ってわけじゃねぇからなぁ。俺が温めている自爆の魔カードみたいな一発限定の超破壊や、かなり尖ったアリア・ギアスを積んだ、想像もできない『何かしら』を隠し持っている可能性……まあ、ありえなくはないさ。それを敵にしておくか、味方にしておくか……どっちが有利か……これは、それだけの話)


 などと考えながら、同時に、


(……『命をかけろ』と言われていながら、こいつがまったく動じなかったのは、その力があるからこそか……いや……)


 そこで、ハルスは、グっと奥歯をかみしめて、


(違う! こいつの覚悟はそういうブレたもんじゃねぇ。『そこ』を疑いはじめると、俺自身の覚悟をも疑う事に繋がる!)


 別にそうはならない。
 だが、そこを繋げてしまうめんどうくささがハルスの中にある。
 いつだって、めんどうくさい人間――それがハルス。


(命をかける覚悟――それは、決して尊くなどないが、しかし……『それを見せたヤツ』まで疑っちまえば、本当に、全部が終わっちまうだろ……生命には、『そこ』がまだ残っているから、だから、俺はまだ……ちがう! そうじゃねぇ! 俺は何かを期待している訳じゃねぇ! そうじゃなく……だが、だったら、なんだってんだ……違う……クソ……このゴミみたいな自問自答を……俺は、何度くりかえせば……)


 ぐるぐると頭の中を駆け巡る思考。


 そんなハルスの内心に気付いたのか、隣にいるセイラが、少し心配そうな顔でハルスの腕をギュっと握った。


 セイラに触れられた事で、不思議と、ハルスの高速思考がピタっと停止した。


 その理由について、勇者は、


(ゴミに触られて、思考が犯された……吐き気がするぜ)


 心の中でそうつぶやきながら、しかし、けれど、なぜかわずかに口角があがっている。


「さわんな、気持ち悪い」


 辛辣なことを言われて、しかし、その声音がフラットだと気付くと、
 セイラは、ニコっと柔らかく微笑んで、スっと手を離した。


 二人の間でかわされた『何か』など、ハルスとセイラ含めて、ここにいる誰も分からない。


 勇者の心はいつだって複雑怪奇――




 ――ゼンが、


「俺の、この切札……もしもの時は、あんたのためにも使うと約束する。それを報酬として考えてもらえると、すごくありがたい」


「……もしもの時、お前は切札を、俺は、ちょいと頭脳を……くく……ちぃと、こっちが損をしている取引だが、まあ、今回だけ特別に、まけておいてやるぜ」


 ハルスは思考を整理する。
 表面だけをすくいとって、今という体裁を整える。


 ――人とちゃんと話すのは、だから嫌いだ。
 ――いつだってこうなる……
 ――だから、いつも……










 ――ハルスは、何かをごまかすように、コホンと息をついて、


「とりあえず、取引成立ってことで。……冒険者試験ごときで、俺がピンチになる場面なんざないとは思うが……絶対って訳じゃねぇ。確率は上げておくさ」


「ありがとう、たすかる」


「言っておくが、お前自身を信用した訳じゃねぇ。そこは勘違いするんじゃねぇぞ」


「ぉ、おう……」


「……くくっ、しかし、ほんと、出身地がフーマーの奥地ってのはお得だねぇ。パパとママに感謝しな。そのブランドは、『冒険の書を所有している』に匹敵するぜ」


「神と母には感謝している。だが、父には……あまり感謝はできないな」


「おやおや、複雑な事情を抱えてらっしゃるのかな? いやだねぇ。親は大事にしないといけねぇぜぇ。まあ、俺は、親の顔なんざ、既に忘れたけどなぁ。姉貴の顔も、正直、忘れちまったなぁ……親と違い、姉貴の方は、ガキのころ、それなりに構ってもらったんだが……くくっ、まあ、人間関係なんてそんなもんさ。血がつながっていようがいまいがな。しかし、神ねぇ……ははは……ほんと、フーマーの連中は、宗教大好きだよなぁ。吐き気がするぜ」


「ハルスは神を信じていないのか?」


「信じていないんじゃない……神なんざ存在しないと『知っている』だけだ」


 矛盾している感情。
 ハルスは神という概念を確実に嫌悪している。
 しかし、口では――


「存在しないもんを信じるもクソもねぇだろ」










「神はいるぞ。俺は会った事がある」







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