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77話 強く優しい神様

 77話 強く優しい神様


 ――エレガたちのような、『その世界では、圧倒的な存在値を持つ者』の事を、神の世界では、多く『殿堂入りした者』と呼んで区別する。
 そして、そんな殿堂入りした者の中でも『特に優れている一人』が天帝を名乗る権利(義務)を得る。


 殿堂入りした者は、例外なく、『世界運営の一部』を強制させられる。
 ※ もちろん、『神』ほどの膨大な規模の仕事を任される訳ではない。


 『殿堂入りした者の仕事』は多岐にわたるが、
 どの世界でも、最も大事な仕事となるのが、壊れ堕ちたモンスターの処理。
 すなわち、世界のデバッグ――その一部をまかされるということ。


 エレガと五神は、世界を監視し、
 まあまあ頻繁に発生する『壊れ堕ちたモンスター』の処理を行っている。
 そうやって、この脆弱な世界――多くの生命を護ってきた。




 エレガは、世界を導く本物の『強く優しい神様』になろうとした。
 『時の殿堂入りが、壊れ堕ちたモンスターに敗れ、世界が喰い尽された歴史』や、『最大権力を求めて神々(その当時、殿堂入りしていた連中)が殺し合った、過ちの歴史』は、いくつかの書物に残っていた。


 宝物庫には、神々(あくまでも、過去に殿堂入りしていた連中)の歴史が記された書物もおさめられている。
 いかにして狂い、いかにして衰退し、いかにして滅びたか。
 エレガは全てに目を通した。
 そして、


 決して繰り返すまいと誓った。


 命を正しく使える世界にするために身を捧げると心に決めた。
 その意志に賛同してくれた五神。
 この世界では、強力な存在値を持つ者たち。


 ――誰もが、『ただの突然変異』。
 ――所詮は、高い存在値を持つだけの『命の一つ』でしかない。


 だが、エレガを筆頭に、五神に属する者らも、
 強制されているからではなく、自らの意思で、
 その『大いなる力』の責任を背負うと決めた。


 多くの『弱い命』の上に立つと決めて、これまで、ずっと、責任を果たしてきた。




 時々壊れ堕ちるモンスターの対処、
 新たな神の勧誘による自軍の強化、
 聖霊国フーマーという、世界の警察官の運営、
 カル大帝国のような、狂っていく大国の粛清、




 そして、『箱』の封印。




 やるべきことは山ほどあった。
 完璧な存在ではないから、完璧な一手は打てなくて、
 視点を変えれば悪にも見える事だって、たくさんやってきてしまった。


 ラムドとハルスとリーン。
 『新たな従属神』になりえた可能性を持つ3人の突然変異――その3つの運命を少しだけ操って(物理)、三者のブレイクスルーをはかったりもした。


 カル大帝国は、統一国になりえた。
 天国(立法)と、フーマー(行政)と、帝国(司法)。
 エレガは、その三つの倫理的循環で世界をまわすことを夢見た。
 だから色々と手を貸した。
 その結果、帝国は、大きくなった。
 少しの間、エレガの理想通りに、世界がキチンとまわっていたこともあった。
 最初からずっと腐っている国などそうそうない。
 天国とフーマーと帝国の尽力によって、世界が平定されていた時代は確かにあった。
 けれど、いつしか歯車が狂って、帝国は歪んでいった。


 エレガは、完璧ではないから、人の弱さが完璧には理解できなかった。
 産まれつき圧倒的な存在だったゆえ、弱者の脆さが理解できなかった。


 結果、『気付いた時には手遅れだった』という最悪の失態を犯す。
 栄華を極めた大帝国は修正不可能なレベルで腐りきってしまった。
 ――多くの過ちを経て、エレガは己の無力と人手不足を痛感した。


 エレガは間違いなく素晴らしい存在値を有しているが、決して完璧な神ではない。
 『彼女に出来る事』には限りがあって、かつ、『彼女に出来る事の範囲』は、実際のところ、堂々と神を名乗れるほど広くはなかった。
 『全てを閉じ込めた場所』の所有権はあるが、結局のところは、それだけ。


 ※ 『全てを閉じ込め場所』は、エレガが産まれるよりも遥か太古からの存在する謎の空間で、『異常な性能を誇る神器(クオリティ50や60というムチャクチャな神器まである)』が多く収めらた宝物殿。


 『全てを閉じ込めた場所の所有権がある』――とはいうが、それも、『エレガだけの特別な資質』という訳ではなく、ただ、前の所有者から『カギ』を受け継いだだけ。


 前の所有者は、その前の所有者を殺して奪った。
 その前も、その前も。
 『前者からカギを託された』のは、歴史上、エレガのみ。
 『全てを閉じ込めた場所』を開く『カギ』の歴史は血ぬられている。


 ――つまり、『時の神々』が奪い合った『最大権力』とは、そのカギのこと。
 ――いつの時代も、カギの所有者が、この世界の天帝となった。


 ちなみに、太古から言い伝えられてきた伝説によれば、
 この宝物殿は、世界が誕生するよりも前から存在するという。




 すなわち、エレガ・プラネタは、この世界では最高の存在値と、山ほどのオーバーテクノロジーを有する、ぶっちぎりの最大勢力――でしかない。
 本当の姿は、『命が根源的に有している弱さ』すら『ほとんど理解できていない程度』の思慮が浅い小娘にすぎない。
 所詮は、単なる、神種すら芽吹いていない魔法使い。
 ただ、この世界で最も高い存在値を持っているだけ。
 その力も、大半は、箱の封印に費やさねばならない。




 エレガは、自分を理解している。
 自分は無力。
 誰かの助けがなければ何もできない。
 ――だから、エレガは、手助けをしてくれる五神のことが大好きだった。
 守りたいと心から思った。
 これからも、ずっと、みんなで、支え合って生きていきたいと本気で思っている。












  ※ エレガがフーマーを建国し五神を従え天帝となるまでを描いた、『エレガ、がんばる』も、実は、なかなかスペクタクルな物語で、分量もかなり多い。
 ちなみに、エレガは第一アルファ人(日本人)の転生者で、
 本名は『品星ひんせい ゆう』。
 2歳の時、親の虐待によって殺され、一万年前、原初の世界に転生した(まともな育児は受けておらず、2歳の時に殺されているため、ぶっちゃけ、第一アルファの記憶などはない。ただおぼろげに、かつて地獄を経験したと理解はしている。それゆえ、弱者が苦しまなくてすむ、やさしい世界の神様をめざしている)。
 無能感がハンパないシグレとは違い、第一アルファ人としての特性ほぼチートなハイスペックさを有していたため、エックスでは余裕無双できて、ぽんぽんと『人種の壁』をのりこえて天帝になった。



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